72話「スケルトンドラゴン」
大地を揺らす程の爆発音――。
吐かれたドラゴンブレスが大地を抉り、そしてぶつかり合う剣と骨の尻尾は激しい衝撃と共に爆風を生みだす。
それは、スケルトンドラゴンとルシオンという、この世界において最上位の存在同士の衝突。
共に侵攻へ出た魔族達をもってして、この戦いを前に近付く事すら許されなかった――。
「グォオオオオオオ!」
大地を揺らす咆哮と共に、スケルトンドラゴンは絶え間なく再びドラゴンブレスを吐き出す。
激しい漆黒の魔力の渦がルシオンを捉えると、そのまま周囲の岩共々飲み込んでいく。
「うぉおおおお!!」
しかし、それを受けてルシオンも、その膨大な魔力を全身に纏い身体強化を行う。
そして全身でドラゴンブレスを受けながら、そのままその中を切り裂きながら突き進んでいく。
だが、纏った魔力で致命傷にはならないものの、全身に傷を負い深いダメージが生じる。
しかしそれでも、ルシオンは止まらず歩みを止めない。
「くっ!」
そしてスケルトンドラゴンの目前まで近づき剣を構えたその時、振るわれた骨の尻尾がルシオンの全身を強打する。
不意の攻撃に、そのまま勢いよく弾き飛ばされたルシオンは、遠く離れた岩壁に全身を強打する。
その衝撃は凄まじく、吐血と共に内臓までダメージが及ぶ。
これまでのルシオンであれば、即死の一撃と言えるだろう。
しかし、今のルシオンならば溢れ出る魔力ですぐさま傷が癒えていくのであった。
そして回復したルシオンは、再びスケルトンドラゴンに向かって駆け出すと決着を付けるべく手にした剣を振るう。
マグマのような灼熱を纏いしその剣は、激しい火の球となりスケルトンドラゴンとぶつかり合う。
「グルォオオオオ!」
激しい一撃だった――。
大きな咆哮と共に、スケルトンドラゴンの巨体が大地へ倒れる。
それはつまり、スケルトンドラゴンの持つ強大なパワーを、ルシオンの一撃が勝ったという事を意味していた。
そしてルシオンは、その生まれた好機を見逃さない。
反撃不可能の相手の隙を突き、再びマグマのような灼熱を纏った剣をスケルトンドラゴン目がけて一気に叩きつける。
「終わりだぁああ!!」
叩きつけた火の球は大爆発を生み、スケルトンドラゴンの巨体もろ共弾け飛ぶ。
そしてそのまま灼熱は大地を融解し、その一撃のあとにはグツグツと煮えたぎるマグマだけが一帯に残っているのであった。
「――驚いたわね。スケルトンドラゴンまで簡単にやられてしまうなんて」
「はは、簡単ではないのですがね――カトレア様、もう分かったでしょう。今の私は、貴女でも止める事など出来ません! だから、そこを通して頂きますっ!」
その言葉通り、勝利を確信するルシオン。
もう己を止められる者など、ここにはいないのだと。
「――駄目よ。通すわけにはいかないわ」
「であれば、ご覚悟を――!」
「ええ、そうね。そんなものは、ここへ来る前から決めているわ」
覚悟の籠る目つきのカトレアは、ルシオンの前へとふわりと降り立つ。
そして不適な笑みを浮かべると、その魔力を一気に解き放つ――。
「――これが、カトレア様の本来の力というわけ、ですか……」
その凄まじい魔力量に、力を得た今のルシオンでも驚きを隠せなかった。
当然カトレア自身も、神龍より力を分け与えられているため通常時の何倍もの魔力を有している。
しかし、それだけではないのだ。
それは、カトレア自身の特殊性――ネクロマンサーの力に他ならない。
ネクロマンサー。
それは、アンデッドを生みだす事の出来る死霊魔術。
だが、その極致とも言える領域へ辿り着いたカトレアの持つ力は、それだけではないのだ。
カトレアの持つ力の本領――それは、アンデッドの持つ力をその身に宿す事が出来るのである。
カトレアの背中に具現化する骨の翼。
それは紛れもなく、先程ルシオンが戦ったスケルトンドラゴンのものと同じだった。
つまり今のカトレアは、スケルトンドラゴンの力をその身に宿しているのであった。
「私を本気にさせたのは、貴方で二人目――いえ、三人目ね。さぁ、かかってらっしゃい」
そう言ってカトレアは、魔力で生み出された漆黒のランスの切っ先をルシオンへ向ける。
その姿はまだ幼い少女のようであるが、実際はルシオンより長い時を生きる超越者だ。
そんなカトレアの本気を感じ取ったルシオンは、一度身震いを起こす――。
神より与えられた力がありつつも、本能で恐怖を感じてしまったのだ。
本来は対峙する事など許されない超越者より向けられる鋭い目線は、向けられた者の心を抉るには十分なのであった――。
こうして、ついにカトレア本人が、ルシオンと直接向き合ったのであった――。




