67話「激突と圧倒」
二人の間に、会話など不要だった。
対峙するガロンとミレイラ、二人の戦いは即座に開始された。
「ハハハ! 凄い、凄いぞぉ!!」
際限なく湧き上がってくる魔力。
ガロンは最初からフルパワーで最大魔法を連続してミレイラへ攻撃を仕掛ける。
圧倒的力を持つ神を相手に戦っているというのに、そこにあるのは自信、そして愉悦。
今の自分ならば、神を超える事すらも容易いと思えて来てしまう程、まるで全てが思い通りだった。
その証拠に、開始された戦いはあまりにもこちらの一方的な状態だった。
ミレイラは上手く攻撃を躱し続けてはいるが、止めどなく続く攻撃を前に回避するので精一杯という感じで、攻撃に転じる余裕など全く無い様子だった。
無限に続く攻撃をする側と受ける側、どちらが不利かなんて語るまでもないだろう。
「どうしたぁ! そんなものかぁ!!」
「……」
ガロンの放つ攻撃により大地は抉られ、辺りは砂埃と煙で充満する。
しかし、今のガロンには相手がどこにいるか感覚で鮮明に捉える事が出来るため、見失う事なく攻撃を続ける。
「虫けらのように、逃げ回るだけでは勝てぬぞ!!」
高ぶる感情。
それはまるで、これまでの自分では無いようにも感じられた。
しかし、今は同胞達の仇を取る絶好のチャンスなのだ。
それ故、自分は今こんなにも高揚してしまっているのだろう。
――もうすぐ! もうすぐ仇を!!
攻撃の間隔を、更に縮めるガロン。
そしてついに、絶え間なく続く魔法攻撃がミレイラへ命中する。
――よしっ! ようやく当たった!!
激しい爆発音が鳴り響く――。
それはまさしく直撃した事を証明しており、その衝撃で弾き飛んで行く姿まで確認出来た。
だが、用心深いガロンはすぐに風魔法で辺りの砂埃をかき消し、ミレイラの姿を確認する。
するとそこには、しっかりと全身を砂まみれにしながら、地面に膝をつくミレイラの姿が肉眼で確認出来た。
――ふはははは! 容易い!
完全に勝利を確信するガロン。
神をも凌駕する今の力さえあれば、このまま人間どもを全て駆逐する事も容易いだろう。
「ではな。あの世で悔いるがよい!」
そしてガロンは、トドメを刺すべく魔力を全て解放する。
解放された魔力は漆黒の渦を生み出し、激しい激流を生じさせながらミレイラの元へと一直線に発射される。
それは魔法でもなんでもない、ただの魔力の放出だった。
しかし、それ故威力は凄まじく、天災とも言える激流が生み出される。
「――させない」
しかし、ミレイラはその魔力の放出に真っ向からぶつかる。
同じく人や魔族では扱う事の出来ない高位の魔法を放出すると、ガロンの放つ激流とぶつかり合う。
それでも、結果は一目瞭然であった。
ガロンの放つ魔力が、ミレイラの魔法ごと飲み込んでいく――。
「――ッ!」
そして、魔法ごと喰らい尽くすかのように、その激流はミレイラへ直撃した。
その結果、全身をボロボロに傷つけながら、大地へ横たわるミレイラ――。
「…………神に、勝ったのか……やった、やったぞ!!」
その光景に、完全勝利を確信するガロン。
この力さえあれば、神すらも恐るるに足らず!
――しかし、この力は一体何者に与えられたものだろうか。
ひと段落ついたところで、ガロンは一つの疑問を浮かべる。
『やりましたね』
すると、まるでそれを察したかのようなタイミングで、また脳内から謎の声が聞こえてくる。
「な、何者なのだっ!?」
『何者でもいいでしょう。貴方は、私のおかげで勝てたのですから』
「そ、それはそうだが! しかし!」
『はぁ、仕方ないですね。では、一つ当たり前の事を教えて差し上げましょう』
「当たり前のこと?」
『そう、神に勝てるのは、神だけなのですよ』
さも当然のように語られる言葉。
つまり、今自分が会話している相手もまた、目の前で倒れているミレイラ同様に神なる存在なのであった。
それを理解したガロンは、ただ自身が神同士の争いに利用されただけな事を理解する。
しかしそれでも、同胞達の仇である勇者パーティーの一人をこの手で始末する事が出来たのだ。
であれば、もう何でも良かった。
あとは好きにしろと、確かな達成感と共にガロンはその場を立ち去る事にした。
『それじゃあ、あの子は私が貰っていきます』
「ふん、好きにしろ。それで、この力はどうなる?」
『心配しないで、貴方にはまだ役目があるの。だから、まだ持っていて頂戴な』
「俺はお前の駒じゃない――と言いたいところだが、まぁいいだろう」
こうして、戦いとも呼べない一方的な戦いは、呆気なく決着が付いてしまったのであった――。




