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66話「全能」

「貴方達の言い分は分かった」


 イザベラの連れて来た従者ならぬ神ミレイラは、無表情のまま小さく口を開く。

 ガロンやその配下達は、恐怖心を胸にその言葉に黙って耳を傾ける。


 魔王イザベラですら、簡単に制す事の出来る圧倒的な力を持つこの神の機嫌を損ねてしまっては、それこそ最早当初の計画どころの騒ぎでは無くなってしまうからだ。


 しかし、この神はイザベラと共にここへ来ているわけであり、その時点でこちら側ではないことは確定的。

 つまりガロンはイザベラだけではなく、これからこの神にすらも妨害されるのであろう事が予測できるだけに、悔しさから奥歯を噛みしめる。



「私は元々、勇者パーティーの一員だった」

「な、なんだと!?」


 しかし、その予想外の一言に、思わずガロンは言葉が出てしまう。

 つまりこのミレイラという神こそが、我々同胞を殺戮した張本人だと言うことかと――!


 まさに目の敵である存在が、たった今目の前にいること。

 そして、その目の敵である存在と何故魔王が一緒にいるのだという憤り。


 その瞬間、ガロンの中でブチッと何か吹っ切れるものがあった。


 ――もうよい! この命を賭してでも、打ち砕くのみっ!


 それはガロンだけでなく、配下の者達も同じ気持ちであった。



「貴様がぁああああ!!」


 雄叫びと共に、抜刀した刃をミレイラへ向ける。



「ミレイラっ!!」


 慌てて叫ぶイザベラ。

 尚も自分達魔族ではなく、この勇者パーティーだった女へ気が向いている事に憤りを強める。


 ――どいつもこいつも! 散っていった同胞達の思いは、この俺が全て引き継ぐ!!


 激しい衝突音が鳴り響く――。

 それもそのはず、今のはガロンの全力の一刀だったのだ。

 いくらミレイラでも、無傷でいられるはずもない。



「――話を聞きなさい」


 しかし、目の前のミレイラは無傷だった。

 ガロンの握る剣を、あろうことか指で摘まんで防いで見せたのである。

 そしてそれと同時に、この場にいた配下達は全員気絶させられている事に気が付く。


 ――な、何が起きている!?


 ガロンの一刀を容易く防いだうえ、配下達を一瞬で気絶させられた事に驚きを隠せない。



「それとも――死にたいなら、今ここで死ぬ?」


 そしてミレイラは、ガロンへ向けて静かにそう言い放つ。

 その言葉に、ガロンはこれまでの人生で感じたことのない恐怖を覚える。


 もしここで尚も逆らえば、瞬きをする間もなくやられてしまう事を本能で察したのである。


 そんな、自分の信念と相反する、圧倒的力による抑圧――。


 ガロンは悔しさから、歯を食いしばる。

 己の無力さが悔しくて堪らない。


 たった今、己の目の敵とする相手がいるというのに、無力な自分は何もする事が出来ないのだ――。



 しかし、その時だった――。



『――ならば、力を貸してさしあげましょう』



 突然、脳内へ直接話しかけてくるように、女性の声が聞えて来たのである。


 そしてその声は、ガロンに有無を言わせる事無く、本当に力を分け与えてくれるのであった。


 沸き上がってくる高純度の魔力――。

 それはどんどんと増幅していき、ガロンはこれまで感じた事のない程の力を全身に感じる――。


 ――凄い、凄いぞ!!


 際限なく湧き上がってくる魔力。

 先程の声が何者かは分からないが、今この絶望的状況において味方してくれるのであれば、最早何でも良かった。



「ガロン! 貴様、何を!?」


 異変に気付いたイザベラが声を上げる。

 しかしガロンは、もう信用などしていない魔王の言葉なんかには耳を貸さない。


 ただ力任せに左腕を払うだけで、大きな魔力の渦が生み出される。



「ぐわぁあああ!!」


 そしてその渦はイザベラを巻き込むと、そのまま城を突き破りその先にある岩壁まで一直線に弾き飛ばした。


 ――凄い! 凄いぞ! あの魔王ですらも一撃!!


 ガロンは勝利を確信しながら、変わらず無表情を浮かべる神ミレイラと向き合う。



「どうやら、まだ勝負はついていないようだ」


 形勢逆転とは、まさにこの事だった。

 腹の底から沸き上がってくる笑みを堪える事が出来ない。



「――ここでは被害が出る。場所を変える」


 しかし、尚も動じないミレイラはそういうと魔力で飛び立つ。

 それはたしかにミレイラの言う通りで、ここでこの神とやりあっては、城のみならず周囲の民衆にまで被害が及んでしまう。

 だからガロンは、その言葉に意外なものを感じつつ、ここはその言葉に従いあとを追う。



「――ここならいい」

「ああ、そうだな」


 やってきたのは、周囲に何もない荒野。

 たしかにここならば、思う存分戦えるだろう。


 そしてガロンは、改めて勝利を確信する。

 何故ならば、ここへ移動してくるまでの間もずっと、際限なく魔力の量は増幅し続けているからだ。


 その力は以前の百倍――いや、千倍も優に超えているだろう。

 それ程までに、この無限に湧き上がり続ける魔力は、己を全能なる存在――神の領域まで、高めてくれている事を実感する。


 こうしてガロンは、謎の力を手に入れると共に、神なる存在ミレイラとの一騎打ちへ挑む事となったのであった――。



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― 新着の感想 ―
[一言] 別の神かな
[一言] さて、第三勢力が出てきましたか。 はたして何者なのやら。
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