63話「理由と決着。そして、異変」
デイル、そしてその仲間達に囲まれたカリム。
恐らく、ここにいる全員が自分より強い事をカリムはその肌で感じる。
それは、カリムの中に住まうもう一人の自分も同じで、目の前に現れた圧倒的強者達を前に焦りや怯えのような感情が感じられた。
つまり、今のカリムのこの力の根源である存在が恐怖しているのである。
そんなふざけた状況を前に、カリムにはもう成す術など何も残されてはいなかった。
「行きます」
そして、無情にもデイルから終わりの一言が告げられる。
やはり最後は、デイルの手で屠られる運命にあるようだ。
――でも、カリムはもうそれで良いと思えた。
人の身を捨て力を手に入れた今のカリムはもう、化け物以外の何者でも無くなってしまっており、遅かれ早かれ終わりがやってくる事など覚悟していたのだ。
だからもう、カリムはここで全てを終わりにしても良いと思った。
デイルに勝てなかったこと、そしてそのデイルに今からやられる事には、正直悔いしか残らない。
だが、それでももう全てを終わらせられる事の方が、今の何も無い自分にとっては救いに思えてしまうのであった――。
結局、これまでカリムはずっとデイルに勝つ事が出来なかったのだ。
幼い頃からデイルは、カリムの事を尊敬するように懐いてくれていた。
しかしカリムからしてみれば、デイルに対していつも嫉妬のような負の感情を抱いていたのだ。
何故かって?
それは結局、同じ幼馴染のアリシア、そしてミレイラの事を引き寄せていたのは、いつだってカリムではなくデイルだったのだ。
勉強も、人付き合いも、あらゆる面でデイルはカリムより優れていたのだ。
例えカリムが駆けっこで一等賞を取ろうと、やってきた悪党やモンスターから村を守ろうと、そして聖剣を手にして勇者に選ばれようと、カリムが何を成し遂げようといつだってデイルが中心だった――。
だからカリムは、いつしかデイルに対して劣等感を抱くようになり、そしてデイルから全てを勝ち取りたいと思うようになっていた。
デイルがいるから、何事も上手く行かない。
実はずっと想いを寄せていたミレイラも、デイルさえいなくなればきっと自分のものになる。
そう思って、冒険を続ける中でもずっとタイミングを窺っていたのだ。
その結果、ガレスとアリシアの関係を知った俺は、あの晩ついに実行に移した。
自分達のパーティーは、デイルがいるから冒険も関係も全てが上手く回っていた事ぐらい、カリムだって分かっていた。
けれど、デイルなんていなくても全て自分が上手く回せる自信があったのだ。
……だが、デイルを追放した結果、カリムは全てを失ってしまったのであった。
ミレイラはデイルのもとへ行き、そして実は聖剣の力はミレイラから与えられたもので、勇者としての力まで奪われてしまったのだ。
そして力を失ってしまったカリムのもとには、何も残されてはいなかった――。
かつての幼馴染も全て失い、その成れの果てが今の自分なのだ。
人ではない化け物の姿になってまで、デイルへの復讐という一方的な憎しみだけを糧にこれまでやってきたが、ここでもデイルに自分には何も無い事を分からされただけなのであった。
そして、そんな絶望の中、いよいよ終わりの時がやってくる――。
カリムの中にいたもう一人の自分が、危機を察知して身体から飛び出して行くのが分かった。
しかし、それも少女により簡単に捕捉されると、カリムの中にいた悪魔はそのまま消し炭にされてしまう。
――はは、やっぱり適うわけが無かったんじゃねーか。
そんな有り得ない光景に思わず笑ってしまいながらも、カリムはデイルの姿をしっかりと見据える。
全身に白い輝きで纏い、その姿はさながら真の勇者のようでもあった――。
――あぁ、やっぱり俺じゃ無かったんだな……。
これまでのカリムであれば、自分が勇者でないなど絶対に受け入れなかった。
しかし、目の前のデイルの姿を見せられてしまえば、納得するしかない自分がいた。
――一体どこで、俺は間違えちまったんだろうな……。
そして、まさしく神速のスピードでカリムの目の前まで接近してきたデイルは、その拳をカリムの腸へ抉り込ませる。
その結果、悪魔の力も失ったカリムは簡単に弾き飛ばされると同時にその意識を失う。
意識を失う前、カリムが最期に見たかつての幼馴染の姿。
それは、ずっと自分が成りたいと憧れていた男の姿そのものなのであった――。
◇
「片付いたわね」
「お疲れ様です、デイル様」
「うむ」
「さっすがご主人様ね!!」
カトレア、レラジェ、バアル、そしてカレンの四人が、戦いを終えたデイルのもとへと集まってくる。
彼ら四人の活躍、そしてたった今デイルがカリムを倒した事で、この無益な争いの終止符が打たれたのである。
戦場には、まだアレジオール軍の残党が残されてはいるものの、それも残された隊長格の指令により、全軍撤退を開始していた。
つまり、デイル達は見事一国を相手に街を守り抜いたのである。
それは、デイルやここにいる者達だけでは成し得なかった事だ。
街の人々、それからSランク冒険者の皆の活躍があったからこそ成し得た事であり、言わば皆で勝ち取った勝利と言えた。
「では、傷ついた方々の治療へすぐに向かいましょう」
だが、安心するにはまだ早かった。
この戦いで傷ついた人は大勢いるはずだと、デイルは急いでそんな人々の治療へ向かう事にした。
――だが、その時である。
まるでこの戦いの終結を見届けるかのように、時空の狭間から一人の人物が現れる。
「「ま、魔王様!!」」
驚いて声をあげるカトレア、レラジェ、バアルの三人。
それもそのはず、時空の狭間から姿を現したのは、魔族領へ向かっていたはずのイザベラであり、何故かその姿は全身がボロボロになってしまっているのであった。
「イ、イザベラっ!?」
その異常事態に、慌ててデイルも駆け寄る。
一体何がどうして、魔王であるイザベラがこんな事になってしまっているのだと。
「デ、デイルか……そうか、良かった……だが、すまん……ミ、ミレイラが……」
満身創痍のイザベラは、そこにデイルがいる事に気が付くと安心したような表情を浮かべる。
そしてイザベラの口から語られたミレイラの名に、デイルはそれが只事では無い状況なのだと悟ったのであった――。




