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30話「お遊び」

「ひ、怯むなっ!所詮は下級アンデッドだ!連携を崩さなければどうという事はないっ!」


 ウェバーの声に、連携を取り直す翡翠の剣の面々。

 確かにウェバーの言う通り、本来下級アンデッドであるスケルトンの軍勢など恐るるに足りない相手である。


 しかし、その数が異常だった。

 100体を超えるスケルトンの軍勢が、隙間なく翡翠の剣のメンバーを全方位から取り囲む。


 つまりこのままでは、数によりウェバー達が押しつぶされてしまうのは明白だった。


 だからウェバーは機転を利かす。



「こっちだ!まずはここから一点突破するぞ!」

「「おう!」」


 このままだとジリ貧だと判断したウェバーは、一点突破を指示する。

 こうする事により、敵から取り囲まれる事なく体制を整える事が出来ると判断したのだ。


 だが、それでもこの数は決して容易ではなかった。

 これまでのミッションでも、こんな数のスケルトンに取り囲まれた事がないのだ。


 スケルトンの厄介なところは、決して一体一体の戦闘能力はそれ程高くないものの、魔法に対する耐性が高いところにある。

 雷撃系の魔法であればダメージを負わせる事が出来るが、炎や水に比べ上位である雷撃魔法の乱発は極力控えたい。

 従って、ここは極力物理攻撃を得意とする者のみで切り開くしかなかった。


 ウェバー、そして武闘家、狙撃手がスケルトンをなぎ倒し、召喚術士の召喚したドラゴンが次々にスケルトンを蹴散らしていく。


 そして一点突破したウェバー達は、再び背後に迫るスケルトンの軍勢と絶え間なく戦闘を強いられる。

 だが、それも3回、4回と繰り返していくうちにスケルトンの数はほとんどいなくなり、残りは十体ばかりとなる。



「よし……!」


 かなり疲弊したものの、ウェバーは勝利を確信する。

 そして用意にスケルトンを蹴散らすと、ずっと戦う様を遠巻きに眺めているだけだったカトレアという少女に話しかける。



「これで終わりか!我々は先へ進むぞ!」

「まさか、そんなわけないでしょ」

「なに!?」


 あれだけのスケルトンを召喚したというのに、まだ何か召喚できると言うのか?

 いや、ハッタリの可能性もあるな……。


 いずれにせよ、警戒するに越したことは無いとウェバー達は少女を警戒する。



「じゃあ、第二ステージも楽しんでね!」


 すると少女は、そう言って楽しそうに笑った。

 そしてそれと同時に、またウェバー達の周囲には突如としてアンデッドの軍勢が出現する。



「な、なんだとっ!?」


 出現したのは、スケルトンの上位種であるスケルトンウォリアーの軍勢だった。


 スケルトンは言わば丸腰。

 対してスケルトンウォリアーは武器と防具を身に纏い、その実力は動きの遅い王国兵と言ったレベルだった。


 だから、スケルトンウォリアーが相手でもウェバー達であれば難なく対処可能だ。

 しかし、今回もその数は100体を超えており、先程のスケルトン相手でもあれだけ手こずっただけにこの状況の不味さを身体が訴えてくる。



「さぁ、おじさん達。早くさっきみたいに頑張らないと、死んじゃうよ?」


 黒い影に持ち上げられ、囲まれたウェバー達を楽しそうに見物するカトレア。

 その状況に、ようやくウェバー達は自分達の置かれる状況を理解する。


 ――これは戦いなどではなく、ただ遊ばれているだけ


 そう、ウェバー達Sランク冒険者『翡翠の剣』をもってして、あのカトレアと名乗る少女はただ遊んでいるだけなのだ。



「ふざけるなっ!やるぞっ!」


 憤ったウェバーは、怒りと共にメンバーを鼓舞する。

 いくらなんでも、スケルトン100体のあとスケルトンウォリアーを100体召喚したのだ。

 どんな上位の存在でも、これ以上は絶対に無理なはずだ。

 つまりは、この危機的状況を乗り切りさえすれば、このふざけた遊びも返り討ちにできる。


 そう状況を見切ったウェバーは、持てる力を全て出してでもこの軍勢を倒しきる事を決意する。



「魔法を解禁する!それからアイテムの使用も制限無しとする!いいか!この状況なんとしてでも切り抜けるぞっ!」

「「おー!」」


 メンバーを鼓舞したウェバー達は、それから持てる力の全てを使いスケルトンウォリアーの軍勢を次々に倒していく。

 一人一人でも強力だが、彼らは見事にお互いを支え合うように連携する事で無駄なく攻撃の手を止めない。


 そして、先程のスケルトンより強力なスケルトンウォリアーだったが、何とかその全てを倒しきる事に成功した。



「ハァ……ハァ……どうだ!!終わったぞ!!次は貴様の番かっ!!」


 そして勝利を確信したウェバーは、高みの見物を洒落込んでいるカトレアに向かって叫ぶ。

 もうお前のお遊びもおしまいだと。



「ふーん、おじさん達中々やるねぇ。――それじゃあ、最終ステージだよ」

「ふんっ!これだけの召喚をしておいて、どこにそんな余力があ……る……」


 ブラフだと信じ切っていたウェバーは、たった今起きている事態に言葉を失った。



「なん……だと……!?」

「最後はスケルトンジェネラル100体だよ。一気に強くなっちゃったけど、死なないように頑張ってね?」


 そう、ウェバー達はまたしても100体を超えるアンデッドの軍勢に取り囲まれてしまっていた。

 しかし、それだけでも有り得ないことなのだが、その相手がおかしかった。


 スケルトンジェネラル。

 難度で言えば、単体でAランクに該当するスケルトンの最上位種。

 そんな、通常のミッションでも滅多に見ない程の強力なアンデッドが100体。


 その有り得ない光景を前に、絶望する翡翠の剣の面々。

 そんな彼らにはもう、戦意など残されてはいなかった――。




絶望する翡翠の剣の面々。

また一つ、Sランク冒険者が脱落していく――。

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― 新着の感想 ―
[一言] ボコボコでワロタ
[一言] もう、ひたすら心を折りに行っていますね。結局一番大事な「敵の実力を測る」というのが出来ていなかったのでしょう。 このような強大な相手が、敵対しないでいてくれる、という街の現状の幸運に感謝しな…
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