29話「圧倒」
「クソ、なんなんだよチクショー」
弾き飛ばされたデヴィスは、ボロボロになりながら立ち上がる。
それはデヴィスだけでなく、アーリャとミリスも同じだった。
三人とも、既に満身創痍な状況だった。
「あら?もうおしまいかしら」
しかし、対して目の前の相手は無傷だった。
一切疲れも見せず、レラジェと名乗るこの女は見下すように下卑た笑みを浮かべながら、ゆっくりと三人の元へと歩み寄ってくる。
――チクショウ、化け物め
デヴィスは、たった今自分達が絶体絶命の危機に晒されている事を自覚する。
これまで、この三人がいればどんな相手でも必ず倒せると思っていた。
だがしかし、今目の前にいるこの化け物は桁が違った。
Sランク冒険者である自分達をもってして、これ程までに圧倒されるなんて思ってもみなかったのだ。
「――アーリャ、ミリス。まだいけるか?」
「ええ――やれるわ」
「わたしも、です」
二人共、既にギリギリなのは見て分かった。
けれど二人とも、まだ心は折れてはいなかった。
それはSランク冒険者として、今ここで負けるわけにはいかないという使命があるからだ。
もし今ここで自分達が負けたら、一体この化け物を誰が止めれるというのだ。
だから何が何でも、ここで自分達が倒すしかないのだ。
そう決意した三人は、最後に持てる力全て解放する――。
「ミリス!!」
「はいっ!!」
デヴィスの掛け声に合わせて、ミリスはデヴィスに全力の聖なる加護を与える。
「アーリャ!!」
「任せてっ!!」
次にデヴィスは、アーリャに声をかける。
その声に合わせて、アーリャはレラジェ目がけて特大の炎魔法を放つ。
そしてアーリャの放った火の球は、レラジェに衝突すると共に一気に爆炎を巻き起こす。
火の球はそのまま炎柱となり、大地は熱で溶岩のように溶けだしていく。
それ程までに強力な極限魔法、これには流石のレラジェも無傷でいられるはずもない。
しかし、デヴィスは油断しない。
この攻撃を受けても尚、レラジェはきっとまだ生きていると予測したデヴィスは、ミリスに受けた聖なる加護で全身強化された状態で一気に斬りかかる。
握った剣は聖なる加護で白い輝きを放ち、一気に10倍以上の大きさに膨れ上がる。
そして巨大化した光の剣を、デヴィスはレラジェのいた場所へ向かって一気に振り下ろした。
「終わりだぁぁ!!」
その衝撃で、大地が爆ぜる――。
魔族に対して有効とされる聖なる力で振るわれたその一太刀は、例え魔王軍四天王でも成す術は無かった。
アーリャの爆炎魔法、そしてデヴィスとミリスの聖なる一太刀が振るわれたあとに残ったのは、溶けた大地と大きな破裂痕だけだった。
そしてそこには、レラジェの姿は無かった。
その状況を確認した三人は、勝利を確信する。
「――やったのか」
そしてデヴィスは、何とか終わった戦いを前に、気が抜けてついそんな言葉を口にしてしまう。
「――あら、それを口にしたら駄目よ。死亡フラグってやつね」
しかしそんな三人に向かって、上空から声がかけられる。
そしてその声を聞いた三人は、先程までの喜びも束の間一気にどん底へ叩きつけられたような気分になる。
「中々派手にやってくれたわね。街に被害が出ないようにするの、大変だったのよ」
「なん……だと……!?」
確かに、放った技にしては効果が薄いように感じられたのだ。
それこそ、辺り一帯を爆発させる威力が本来はあったはずだった。
しかし、レラジェの言う通り辺りの家々は無傷だった。
それはつまり、レラジェが先程の攻撃の威力を緩和させたという事だろう。
その事実を分からされた三人は、絶望する。
――無理だ、敵うわけがない
絶望したデヴィスは、膝から崩れ落ちてしまう。
「あら、もう諦めちゃうの?――じゃあ終わりにしましょう」
完全に戦意を喪失した三人に向かって、レラジェはゆっくりと歩み寄る。
その瞳は赤い光を放ち、ゆっくりと迫りくる足音はまるで三人への死の宣告のようだった。
「――お前達だけでも、逃げろ」
「な、何言ってるんだ!あんたを置いていけるわけ!」
「そ、そうですっ!わたし達は最後まで一緒に戦いますっ!」
アーリャとミリスは、デヴィスを守るように持てる力を振り絞りレラジェ目がけて魔法を放ち続ける。
しかし、放たれた無数の魔術も全てレラジェは手に持った鎌で薙ぎ払ってしまう。
それはまるで寄ってくる虫を払うように、いとも容易く――。
放ち続けた魔法が、たった一つすらも届く事が無かった現実に二人は絶望する。
「いいから!お前達は逃げろ!!」
そして今度は、飛び出したデヴィスがレラジェに斬りかかる。
しかし、レラジェは振るわれる数々の剣技も全て鎌で受けきられてしまう。
鳴り響く金属音。
しかし疲労と絶望から、徐々にその音は小さくなり、間隔も長くなっていく――。
そして、終わりはあっけなくやってくる。
レラジェはデヴィスを二人の元へと弾き飛ばすと、団子になった三人へ向かって鎌の切先を向ける。
まさか自分達が、こうもあっけなく負けてしまうなんて思いもしなかった三人は、「死」がすぐそこまで迫っている事を理解し恐怖で身体を震わす。
だが、レラジェに容赦はなかった。
口角を上げながら、振り上げたその大きな鎌を三人目がけて振り下ろしたのであった。
あっけない結末――




