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28話「四天王」

「さて、どうしましょうかね」


 街の上空を浮遊しながら、困ったように一人呟くグレイズ。

 彼はSランク冒険者の序列二位の実力者であり、カレンが現れるまで最強の冒険者として周囲から恐れられる程の男だった。


 しかしそんな彼でも、今の状況に頭を悩まされていた。

 それ程までに、今回のミッションはこれまでのどのミッションとも違い、計り知れない危険を帯びているのであった。


 ――まさか、本当に魔王だとはね


 思わず苦笑いを浮かべるグレイズ。

 いくらなんでも、こんな港町で人間と共に暮らす魔族が、まさか本物の魔王だったなんて誰も思うまい。

 きっと魔王を自称する魔族が、人々をたぶらかせてでもいるのだろうと高を括っていたのだ。

 それだけに、今になって踏み込んではいけない領域に片足を突っ込んでしまっているのでないかという不安に襲われていた。


「しかし、このままわたしだけ逃げるわけにもいかないでしょうし、まぁやれる限りやるしかないようですね」


 そんな小言を呟きつつも、仕事は仕事だと割り切ったグレイズは、自分の役割をこなすため人気のない民家の裏のスペースへと着地した。



「――そろそろ、姿を見せてはいただけませんか」


 そしてグレイズは、後ろを振り返りながら誰も居ないはずの空間へと話しかける。



「――ほう、気付いていたか」

「ええ、まぁ。出来れば気付かないままでいたかったのですが」

「ふん、惚けるな人間。この街へ踏み入れた時点で、貴様はその気だったのだろう」


 グレイズが話しかけると、誰もいないはずの暗闇の中から一人の男が姿を現す。


 褐色の肌をした大男だった。

 二メートル以上ある長身、そして筋肉で盛り上がった肉体をした魔族。

 スキンヘッドに額には赤い模様が描かれており、その男からは只者ではないオーラが犇々と感じられる。



「やれやれ、ここは本当に魔王城なのですかね――」

「ハハハ、ああその通りだ。魔王様の庇護下に置かれるこここそが、現魔王城と言えよう。そして我こそが魔王軍四天王が一人、バアル。ここから生きて帰れると思うなよ人間」


 魔王軍四天王、バアル。

 グレイズも、その名は伝承に聞いた事があった。


 かつての人との戦争の中で、たった一人で一国を崩壊まで追い込んだ魔族として語り継がれている、魔王軍四天王の中でも最も危険と言われる男。


 そんな伝承に聞くバアルが、今目の前に現れたのである。

 グレイズをもってして、この状況は非常に不味い状況だった。


 つまりは、もうこの領域は人では抗えぬ域。

 それこそ、勇者でなければ太刀打ちなどできぬ程の存在――。


 そんな強者と対峙したグレイズは、今のこの状況において一切の猶予が無い事を悟る。



「それは恐ろしい。でも生憎、まだ死にたくはないのでね!」


 そしてその言葉と共に、グレイズは魔王にも使った分身スキルを発動する。

 これはグレイズのユニークスキルの一つで、最も得意とするスキルだった。

 力こそ半減するが、自身のクローンを倍倍に増やしていく事が出来るこのスキルは、いかなる状況でも物理的に有利を生み出す。


 そしてこのスキルには、もう一つ利点があった。

 それは、クローンを生み出す事で本体は隠れる事が出来るのだ。


 つまり、戦闘はクローンに任せておいて、自身は雲隠れしながら相手の隙を狙う事もその場から逃げ出す事も可能という事である。


 そしてグレイズは、あっという間に自身のクローンを100体以上生み出すと共に、空かさず戦場と距離を取った。


 ――さて、これからどうしましょうか


 そして落ち着いて、まずは相手の力量と置かれる状況を判断する。

 こうして冷静に戦況を見て判断する事こそ、戦場では最も重要なのだ。

 焦って行動をして、その結果失敗して命を落としていく同僚をこれまで何人も見てきた。

 だからこそグレイズは、誰よりも慎重に行動する。

 常に戦況を分析し、己の有利な状況を常に生み出し続ける事で確実な勝利を収めるのだ。

 それこそが、グレイズが単身でSランク冒険者にまで駆け上がった一番の要因でもあった。


 例えば同じSランク冒険者のデヴィスのように、己の実力のみを過信しているタイプはいずれ足元を掬われるのだ。

 何故なら、この広い世界必ず己より強い相手がいるのだから。


 それこそ、今グレイズが対峙している相手のような――。



「なんだ、さっきの小細工は」


 先程の場所から、十分に距離を取ったはずのグレイズの背後から、バアルの声が聞こえる。



「――おかしいですね。クローンを置いておいたはずなのですが」

「ふん、あんな小細工でこの俺が止められるわけがなかろう」


 その言葉は、魔王同様一瞬でクローン達がやられてしまった事を意味していた。


 本当に魔王といい、その有り得ない程の力を前に困惑するグレイズ。

 そして、もうこの場から逃げ出す事は最早不可能だと悟ったグレイズは覚悟を決める。



「――成る程、ではわたしも、出し惜しみしている場合じゃなさそうですね」


 そしてここから生き残るためにも、グレイズは冒険者になって初めての全力を開放するのであった――。




バアル対グレイズ。

残るカレンはどうするのか――。

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― 新着の感想 ―
[一言] 本物の魔王とは思っていなかったのかあ。それは完全に見誤っていたんだなあ。 今のままだと、やっぱり勝負にはならなさそうですね。
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