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27話「戦いの始まり」

「ったく、こんなミッションさっさと終わらせるぞ」


 そんな文句を垂れながら歩くのは、デヴィス率いるSランク冒険者パーティー『ゴールドハンター』だった。

 彼らは渋々事前に決まった作戦に従って、街の西側から攻め入る事となっている。


 ちなみに作戦とは至ってシンプルなもので、それぞれ各Sランク冒険者が四つのポイントに別れて一斉に攻め入るというものだった。

 確かに単純ながらも、敵を分散させるという意味では一番効果的な作戦だった。

 仮に目標が砦やダンジョンなどの場合そうもいかないが、今回の目標は普通の港町だからそれも容易なのであった。


 そのため、西の入り口まで回り込んだデヴィス達は、そのまま堂々と街の中へと踏み入れたのであった。

 しかしそこで、デヴィス達は一つの異変に気が付く。

 街の中へとやってきたというのに、周囲は不自然な程に物静かなのだ。

 この街は夜も賑わっている事で有名だった事もあり、そんな異様な様子にデヴィス達は警戒度を高める。



「――アーリャ、ミリス。様子が変だ、警戒を怠るなよ」

「ええ」

「はい」


 魔術師のアーリャと、聖女のミリス。

 若くして魔術師協会の最高位の一人にまで登り詰めたアーリャ、そしてとある街で聖女を務めていたが、その実力は王国お抱えの聖女にも引けを取らない才能を有していたミリス。

 そんな、容姿と実力共に非常に優れた二人を引き抜く事に成功したデヴィスは、現在の『ゴールドハンター』を結成するに至ったのである。


 ちなみに、そんな重要な役割を与えられていた二人が何故今デヴィスと行動を共にしているのかというと、それは単純に二人ともデヴィスという色男に口説き落とされたからである。


 人一倍自信家なデヴィスだが、確かにその容姿は物凄く優れており、幼い頃から異性に関する事で不自由した事など一度も無い程の所謂イケメンというやつだった。

 またデヴィス自身かなりの野心家でもある事から、物心ついた頃から自分だけの最強のハーレムパーティーを結成する事をずっと企んでいたのであった。

 そんなデヴィスだが、己に対して一度も甘んじる事は無く、常に完璧を求めて剣技にはずっと磨きをかけてきた努力家でもあった。

 そんな色んな側面を併せ持つデヴィスは、単身でAランク冒険者まで駆け上り確かな実績を手に入れると、そこへアーリャとミリスという類稀に見る実力者二人が加わる事で現在の『ゴールドハンター』が結成され、これまで短期間で難易度Sランクのミッションの数々をこなしてきたのである。


 まさに新鋭、そして真の実力は未知数とも言える『ゴールドハンター』の三人だが、まだ街の入り口に踏み入れただけだというのに咄嗟に緊張した面持ちで臨戦態勢を構えた。

 確実に何かあると、これまでに培ってきた経験と本能で察したのだろう。


 すると突然、辺りに薄っすらと黒い靄がかかる。

 そしてその靄の奥から、カツカツと一人の歩く音が聞こえてくる。



「――あら、気付かれちゃったかしら」

「――誰だ、貴様」

「あら、レディーに向かってその口の利き方は無いんじゃない?」


 そしてその靄の中から現れたのは、一人の女だった。

 その容姿は、アーリャやミリスにも引けを取らない――いや、もしかしたらそれ以上整っていると言えなくもない絶世の美女。

 真っ白な肌に大きい胸、そして露出の多い黒いドレスは見る者の視線を引き寄せる。

 しかしその真紅の長髪に黒い角は彼女が人間ではない事を物語っており、ここへ現れたという事はつまりそういう事だろう。



「――魔王軍、か」

「ええ、そうよ」

「へ、へぇ、とんだベッピンさんが現れたもんだから驚いたぜ……!出来れば俺のハーレムに加えたいところなんだがな!」

「ハーレム?フフ、そうね。もし貴方がわたしに勝つ事が出来たら、考えてあげてもよくてよ?」

「――言ったな?約束だぞ?」

「ええ、勿論。――尤も貴方達程度では、わたしを倒す事なんて不可能なのだけれどね」


 そう言って微笑む彼女は、片腕をすっと横に伸ばす。

 するとどこからか巨大な漆黒の鎌が現れたかと思うと、彼女はいとも簡単にその鎌を片手で持ち上げ、そして切っ先をデヴィス達へと向ける。



「じゃ、早速始めましょうか。魔王軍四天王が一人、このレラジェ様がお相手してさしあげるわ」




 ◇




 街の北にある広い丘の上。

 ウェバー達『翡翠の剣』の面々は、いつもの戦闘布陣を取っていた。


 剣士のウェバー、それから魔術師、僧侶、ポーター、盾使い、武闘家、狙撃手、召喚術士、テイマー、そして暗殺者の10人からなるパーティー。

 彼ら一人一人がその道を究めた確かな実力者であり、そんな彼らが互いに長年培ってきた連携を完璧にこなす事で、彼らは一つのパーティーとして圧倒的な実力を誇っているのであった。


 そんな実力者である彼らだが、どんなミッションに対しても決して油断をしないところも彼らの強さの一つだった。

 辺りを見下ろせる丘の上から街の様子を伺い、慎重に作戦を実行する。

 その間も、いつ敵からの不意打ちが飛んでくるとも限らないため、常に周囲を警戒しながら街との距離を縮めていく。



「ねぇおじさん達、ここで何してるの?」


 しかし、辺りを警戒していたはずのウェバー達に対して、あまりにもその場にそぐわない呑気な声がかけられる。

 全く人の気配を感じられなかったウェバー達は、全員驚きつつもその声のする方へ振り返る。


 そして振り返るとそこには、青いゴシックドレスを着た金髪の少女が一人立っていた。

 だが、ただの子供がこんなところに一人でいるはずもなく、どこか精気を感じさせない少女は不気味に感じられた。



「もう、駄目だよこの街に入っちゃ。お姉さまを怒らせちゃうから」

「お姉さま?」

「ええ、そうよ。お姉さまを怒らせると怖いんだから。貴方達なんて、一瞬で殺されちゃうよ?」


 そう言うと、面白そうに笑い出した少女。

 その笑い方も、一見普通の少女の無邪気な微笑みようにも見えるが、やはりどこか不気味さが感じられるのであった。


 そんな、目の前に現れた少女が只者ではない事は最早確定的だと判断したウェバー達は、一斉に警戒レベルを最大まで高める。



「――何者だ。邪魔をすると言うのなら、我々は少女とて容赦はしない」


 ウェバーがそう話しかけると共に、突然少女の背後の暗闇から一人の男が現れる。

 そしてその男は、一切躊躇する事なく少女の首元目がけてナイフを突き立てる。


 彼は『翡翠の剣』のメンバーの一人で、相手を油断させつつ確実に命を狩り取る暗殺者だった。

 少女相手に卑怯だと思われるかもしれない。

 しかしこれは、お互い生死を賭けた戦いなのだ。

 死人に口なし。それが卑怯だろうと何だろうと、戦いに生き残った方が正義なのだ。


 こうして相手を油断させつつ、確実にターゲットの命を狩り取る作戦は過去にも何度か行った事があるが、過去に一度も失敗などした事が無かった。

 だから今回も、これで確実に終わるものだと全員が思っていた。

 しかし、暗殺者のナイフが首に触れるその瞬間、少女ではなく暗殺者の身体が大きく横に弾き飛ばされてしまう。



「――駄目だよ、そんなもの向けたら危ないわ」


 そして少女は、何事も無かったかのようにそう口にする。

 しかしそんな少女の背後には、巨大な黒い影が現れていた。



「相手をするのはわたしじゃなくて、この子達だからね」

「な、なんだ!?」


 全く事態を飲み込めない『翡翠の剣』一行。

 しかし、少女は彼らに驚く隙すらも与えない。


 気が付くとウェバー達は、無数のアンデッド達に取り囲まれてしまっていたのであった。



「な、なんだ!?どこから現れた!?」

「わたしが呼んだの」

「呼んだだと!?き、貴様は何者なんだっ!?」


 百を超えるアンデッドに突然取り囲まれてしまったウェバーは、信じられない様子で語気を荒げながら少女に問いかける。



「わたし?いいよ、特別に教えてあげる。――わたしの名前はカトレア。普段はお姉様の言いつけを守って、魔王城に誰も踏み入れる事が無いようにこの子達を使って警戒してるの。でも、今宵はこの街が魔王城なんですって、可笑しいでしょ?」


 本当に可笑しいのだろう、クスクスと無邪気に笑い出すカトレア。



「ま、魔王城……!」

「そう、だからおじさん達は、残念だけどここで終わりなの。ごめんね?」



いよいよ始まる、Sランク冒険者対魔王軍の戦い。

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― 新着の感想 ―
[一言] ハーレムパーティーがどうして女同士の内紛でもめないか、というのは。やはり男の器量とまめなケアが必要なのだろうか。デイルにはちょっと無理/w 魔王城を攻めるぐらいの覚悟はしていたはずなのに。…
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