26話「作戦会議」
「それでは、本日の計画についての最終確認を行う」
街から暫く離れた森の中、外から見えない位置に張られたテント。
そのテントの中で、冒険者パーティー『翡翠の剣』のリーダーであるウェバーが話を始める。
彼ら『翡翠の剣』は、Sランクパーティーの序列四位。
Sランクの中では一番のメンバー数を誇っており、一人一人が確かな実力を持つ10人からなるパーティーだ。
鉄壁。難攻不落。彼ら『翡翠の剣』を知る者はみな口を揃えてそう表現する。
各役職のプロフェッショナルが揃っているというだけでも強力なのだが、そんな実力者一人一人が完璧に連携をする事で、個ではなくパーティーとして圧倒的な力を発揮する事が出来ているのだ。
そんな彼らは、これまで与えられたミッションの成功率は100%を誇り、これまで対峙した相手は全て成す術なく倒れていく様から、文字通り難攻不落と呼ばれるに相応しい成果を残し続けているのであった。
そんな『翡翠の剣』は、現Sランクパーティーの中では最古参である事から、そのリーダーであるウェバーが代表して話を切り出したのであった。
「おいおい、なんでお前達が仕切ってるんだ?あぁん?」
しかし、そんなウェバーに絡む男が一人。
冒険者パーティー『ゴールドハンター』のリーダーであるデヴィスだった。
彼ら『ゴールドハンター』も『翡翠の剣』同様Sランクパーティーの一つで、序列は一つ上の三位。
『翡翠の剣』とは異なりパーティーメンバーは剣士、魔術師、そして聖女の三人のみで構成されており、リーダーである剣士デヴィスと美女二人という所謂ハーレムパーティーだ。
しかし、三人ともその実力は確かで、Sランクパーティーの中で結成後一番日が浅いのだが、これまで短期間であらゆる功績を収めてきている事から、現在序列三位まで上がっているのであった。
そのため、女好きなデヴィスの素行の悪さこそ目立つものの、その圧倒的な実力のおかげでほとんどの事は許されているのであった。
「君たちは実力は確かだが、まだ経験が浅い。相手は確実にこれまで出会った事のない程の強大な力を持っていると見て間違いないだろうから、警戒するに越したことはない」
「はぁ?まぁ俺達に序列抜かれたおたくらからしたらそうだろうな。だが俺達は違う、作戦なんて必要ねぇし、俺達は与えられた仕事をただこなすだけだ」
ウェバーの言葉に、全く聞く耳を貸そうとしないデヴィス。
そんなデヴィスの煽りにより、テント内には一触即発の雰囲気が立ち込める――。
「――まぁまぁ、落ち着きましょうみなさん。ウェバーくんの提案には、わたしも賛成するよ」
そんな一触即発の雰囲気の中、割って入ったのはグレイズと呼ばれる男。
彼こそがSランク冒険者序列二位、『暗殺の奇術師』と恐れられる単体でSランクまで登り詰めた実力者である。
そんなグレイズの言葉には、流石のデヴィスでも逆らえない。
それだけ、同じSランク冒険者でもグレイズという男には警戒せざるを得ない程、彼からは計り知れない底なしの恐怖が感じられるのであった。
「実は先程、例の魔王と呼ばれている少女とお会いしてきましてね」
「グ、グレイズ殿!勝手な行動は困ります!」
「いや、すまないウェバーくん。まずは相手を知らなくてはと思いましてね」
抗議するウェバーに、笑って悪びれるグレイズ。
しかしそうして笑ったのも束の間、真剣な顔付きになったグレイズは、この場に集まった他の冒険者達に話を続ける。
「――ですが、結果としては先に接触しておいて正解でした。相手は、ここにいる全員がかつて経験した事の無い程の脅威と言えるでしょう。このわたしでも、一歩間違えば命が無かったのでね」
そのグレイズの言葉に、この場に集まった全員が固唾を飲んだ。
あのグレイズをもってして命の危機を語っているのだ、このタイミングで冗談を言うはずもなく、それがどういう意味か全員理解した。
「相手は恐らく、真に魔王なのでしょう。そしてその配下も、それ相応の実力者と見るべきです。――つまりは、これから我々がやろうとしている事は、魔族領の最果てにある、あの魔王城を攻略するのと同義と見るのが妥当でしょうね」
「は、はぁ!?ま、魔王城だと!?」
「――ええ、ここ数百年、人間が踏み入る事すら許されなかったあの魔王城です」
魔王城という言葉に、デヴィスのみならずここへ集まった者全員驚きを隠せなかった。
それだけ、魔王城というのは難易度SSSランクとも言われるこの世界で一番の危険地帯であり、勇者で無ければ辿り着く事すら出来ないと言われる領域なのだ。
「それに、勇者パーティーだった方もおりますわ」
そんな緊張が走る中、遅れてテントの中へとやってきた少女が楽しそうに笑いながら話に加わる。
「――カレンさん、どちらへ行かれていたのですか?」
「せっかくだから、この街を堪能しておこうと思いまして、出店巡りをしていましたわ」
「相変わらずですね」
「うふふ、今の内楽しんでおかないと勿体ないじゃない?――だって、今日で無くなってしまうんですもの」
歪に微笑むカレン。
その様子に、序列二位であるグレイズですらも固唾を飲む。
そう、カレンと呼ばれる彼女こそがSランク冒険者序列一位、『漆黒の死神』と呼ばれる最強の冒険者。
彼女は単体で国一つ落とせるほど、その実力は一人だけ別次元で計り知れない。
戦場で彼女と会ったが最後、確実に命を狩り取られると言われており、いつしかその全身黒ずくめの容姿も相まって『漆黒の死神』と呼ばれるようになったのである。
こうして今日ここへ集ったのは、Sランク冒険者の序列一位から四位までの実力者達。
そんな冒険者の切り札とも呼べる彼らは今夜、目標である一つの港街に住まう者達の殲滅へと向かうのであった。
ただのミッションであれば、こんな人殺しになんて乗らない者もいるだろう。
しかし今回は、特例中の特例だった。
何故なら、今回の依頼主は個人や団体ではなく、国なのだ。
聖王国アレジオール――かの国は女神を崇拝し魔族を強く嫌う事から、今回の人と魔族の融和など受け入れられるはずが無かった。
それにより今回の依頼がされる事となり、国からの依頼であるが故、冒険者である彼らに断るという選択肢は与えられなかった。
それに、今回の依頼はアレジオールだけではなく、彼らの所属する冒険者組合の上層部も絡んでいるのだ。
理由はいたってシンプルだった。
それは、魔族が敵であるから成り立つ冒険者稼業が、魔族との融和なんて進んでしまっては失われてしまうから。
そんな利害の一致したアレジオール国王と冒険者組合の上層部とが手を組み、今回の殲滅作戦が執り行われる事となったのである。
以前この街への調査へ向かったAランク冒険者達の報告では、この街に対して肯定的に語られたという。
元々魔族を嫌っていた者達だっただけに、その報告は意外なものだった。
しかし、その報告を受けても尚冒険者組合は認めようとはしなかった。
その結果として、こうして次に冒険者組合の保有する最大戦力であるSランク冒険者達が集められているわけだ。
「では、作戦会議の続きを宜しいでしょうか――」
そしてカレンも加わった事で、いよいよ今夜の殲滅作戦が本格的に語られていくのであった――。
Sランク冒険者が出揃いました。
いよいよ、殲滅作戦が開始されます――。




