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23話「戦いのあと」

 傷だらけで倒れるガレスに、満身創痍ながらもすり寄るその仲間達。

 そして一人聖女は、神龍さんに言われた一言により今も壊れたように笑い続けている。


 そんな状況に戸惑いつつも、僕は聖女は放っておいてガレス達の元へと歩み寄る。


 すると、僕に怯えているのかお仲間の二人は分かりやすく怯えだす。

 そして何をするのかと思えば、二人は僕に向かって涙を流しながら土下座をしてくる。



「ど、どうか見逃しては貰えませんか!」

「申し訳ございませんでしたっ!」


 二人は、自分の額を地面に擦り付けながらそう懇願してくる。

 その様子に、これはその場しのぎではなく本気の命乞いなのだと分からされる。


 そもそも命まで取ろうなんて気は無かったデイルは、埒が明かないためそんな二人に声をかける。



「――大丈夫ですよ。殺したりはしません」


 そう僕が答えると、二人は心底安心したように喜びを露わにする。

 だから僕は、言うべきことはちゃんと伝える事にした。



「でも、僕はガレスを許すつもりもありません。それは、あなた方も同じです」


 はっきりと僕がそう告げると、再び二人は絶望の表情を浮かべる。

 そしてこれが不味い状況だと悟ったのか、再び僕に向かって頭を下げる。



「ほ、本当に申し訳ございませんでした!デイル様!」

「な、何でも言う事を聞きます!で、ですからどうか!どうかご慈悲を!!」

「あなた方は、勘違いしていると思います」


 再び謝罪をする二人に、僕ははっきりとそう告げた。

 そう、僕に謝られても仕方ないのだ。

 何故なら、僕が怒っているのはそこじゃないから。



「僕にではなく、ここにいるこの町のみんなに謝ってください。人と魔族、これまで決して交わる事の無かった他種族が、今こうしてお互いを認め合いながらゆっくりと共存の道を歩んでいるところなのです。それなのに、そんな彼らをあざ笑った事が僕は許せません。あなた方に彼らを笑う権利なんて、無いと思います」


 どうやら分かっていないようだし、僕はそうはっきりと言葉で告げた。

 僕が怒っているのは、僕に対する態度にじゃない。

 それ以上に、何も知らないのにこの街のみんなを嘲笑った事が僕は許せなかったのだと。


 イザベラの決意を、目指した世界を笑ったことが許せないのだ――。


 そしてはっきりと言葉にされた彼らは、ようやく理解して顔を青ざめる。

 周囲を見渡しながら、この場に集まった人と魔族の集団をぐるりと一望する。


 魔族だけではなく、人々からも自分達に向けられる憎悪の籠った視線の数々。

 それは、これまでAランク冒険者として人のため世界のため活動してきたつもりの彼らにとって、この状況はまだ頭では分かっていても受け入れるまで思考が追い付かない様子だった。


 まるで悪役なこの状況を前に、二人の身体がガタガタと震え怯えだす。



「――お、俺達は魔族を滅ぼして、そ、それで世界を――」

「そ、そうよ――そのためにずっと――」


 そう言葉を漏らすが、そうではない現実が視界に飛び込んでくる。

 そんな光景に全てを否定された彼らは、力なくがっくりと項垂れる。



「――笑って、すまなかった――」

「――ごめんなさい」


 そしてようやくこの現実と向き合った彼らは、力なく謝罪の言葉を漏らした。

 そんな彼らを見ていると、きっと暫くは立ち直れそうにもなかった――。



「――一先ずは、分かって貰えればいいです。とりあえず、ガレスとそちらの聖女さんを宿まで運んでください」


 だから僕はこれまで放っていた緊張を解くと、ふっと微笑みながらそう言葉をかける。

 とりあえず瀕死状態のガレスと、自我が崩壊してしまっている聖女を何とかしなければならないから。


 ガレスに対しては、回復してから改めて話をする必要があるだろう。


 こうして、結果として茶番とも言える戦いは幕を閉じたのであった――。



 ◇



 それから数日。

 ガレス達パーティーは、宿でガレスが回復するまでひっそりと過ごしていた。


 やはり周囲の目を気にしているのか滅多に表には出ては来ず、粛々と過ごしている様子だった。

 街のみんなは、もうそれ程彼らに対して怒りを覚えていないため比較的穏便なのだが、彼ら自身が責任や後悔を感じているのだろうから、そこは深くは触れず好きなようにさせてあげる事にした。


 そして、いつものお店で食事をしていると彼らが姿を現す。

 傷の癒えた剣士と魔法使い、そしてその後ろにはまだゲッソリと精気を感じさせない聖女と、まだ歩くのがやっとな様子のガレス。


 彼らは気まずそうにしながらも、僕とミレイラ、それから仕事をサボって一緒に酒を飲むイザベラのいるこのテーブルへと近付いてくる。



「――デイル」

「――ガレス」


 そしてガレスは、再び僕と対面する。

 その瞬間、さっきまで騒がしかったお店に静寂が広がり、緊張感が走る。



「――やっぱり俺は、お前を認めない」

「――知ってます」

「ふん――だが、こいつらから話は聞いた。その上で、俺は言わなくてはならない事がある――」


 そう前置きしたガレスは、まだ痛むのであろう身体をゆっくりと折り曲げると、地面に両手をつく。

 そしてそのまま頭を下げると、地面に額をくっつける。



「――この街のことを、笑ってすまなかった――」


 それは、この街のみんなに対する謝罪だった。

 言葉は短く簡単なものだったが、それでもあのガレスがこうして謝っている事を考えると、それがポーズではなくしっかりとした謝罪なのだということは伝わってくる。



「――ガレスと言ったか。貴様、それはどういうつもりなのだ?」


 そんなガレスに向かって、イザベラが声をかける。

 その声は、無感情にも取れるし怒りを帯びているようにも取れる、淡々としたものだった。



「――俺は、魔族は敵であるべきだと思っていた。じゃなきゃ、冒険者である自分達の存在意義がなくなるからな」

「ほう?つまりは、自分達の食い扶持のために魔族を殺す、そう言っているのか?」

「――ああ、そうだ。それが冒険者だからな」


 魔王であるイザベラを前にして、ガレスは包み隠さずはっきりとそう答えた。

 しかし当然、その言葉にイザベラは不快そうに眉を顰める。



「正直今もその気持ちはある。人の街を襲う魔族がいれば、俺達は迷わずそいつを切って落とすだろう。だが、そうじゃないものに対しては――それは違う」


 たった今も、人と魔族が楽しそうに酒を飲み酌み交わしていたこのお店の現状を見て、流石にガレスにも思う所はあったのだろう。

 それは自分達の考えが偏っていた事を、理解した様子だった。



「――だから、せめてもの義務は全うするつもりだ」

「義務?」

「ああ、俺達は本部に戻る。そして、人と魔族の融和は別に悪いもんじゃねぇとはっきり本部の連中に伝えてやる。その上で本部から抹消されるなら、それはそれだ。俺達は俺達の思う正義に従って、これからもやるべき事をやっていくだけだからな」


 そんなガレスの言葉に、力強く頷く他の三人。

 恐らくこの話は、ここへ来る前に四人でしっかりと議論した上での結論なのだろう。

 誰一人その意見に揺らぎは見せなかった。



「そうか。――うん、そうじゃな。以前の我ならば、貴様の話など聞くまでもなく迷わずここで消し炭にしていたじゃろう。――じゃが、そうして変わろうとする者を生かす事も、この道を貫くにはきっと必要なことなのじゃろう」


 イザベラの声色は冷気に満ち溢れていて、今にもガレス達を殺さんとする殺気に満ち溢れていた。

 しかし、その様子に反してその言葉は許すと言っている。


 つまりイザベラは、今物凄く我慢しているのだ。

 僕から見ても、ガレスのそれはハッキリ言って謝罪になっていない。

 だけど、それでも受け入れる事がきっとこの道を歩む上では必要な判断なのだ。

 元々魔族を根絶やしにすべきだという発想のもとこの街の事を嘲笑った彼らが、これだけ考えを改めているのだから。


 それを否定してしまっては、行きつく先はこれまでと同じ戦闘しかなくなる。

 それを分かっているイザベラは、今必死に自分を殺して許す努力をしているのだ。


 すると、そんなイザベラの頭にそっと手を置くミレイラ。



「――うん、偉い偉い」

「なっ?何をするのじゃ!?」

「良く出来た妹。姉は感心した」


 無表情の中にも少しだけ優しさを滲ませたミレイラは、そう言ってイザベラの頭を撫で続けた。

 そんなミレイラのおかげで、イザベラの放っていた緊張はすっかり解けてしまっていた。



「――ガレス。イザベラに感謝すること。この子は大人。でも貴方は子供。クソガキ」

「――ミ、ミレイラ」

「イザベラに免じて、過去は水に流す。でも、わたしは貴方を認めない。だから再び過ちを犯すなら覚悟をすること。そして、義務を果たしなさい」


 ミレイラの言葉に、ガレスは表情を変える。

 その言葉が、一切冗談ではないという事を悟ったからだろう。

 そんな、女神としての神々しさを放つミレイラを前に、もうガレス達一行はそれ以上何も言えないでいた。


 神に逆らう事など、許されるはずもないのだと――。




 しかし、そんな中震える足取りで一歩前へ出る者が一人。



「――め、女神様」


 聖女のメイリーだった。

 メイリーは慈悲を乞うように、ミレイラへと震える足で縋り寄る。



「――此度の過ち、わ、わたしはどれ程の懺悔を――」

「――うざい」

「――えっ」

「そういうのいいから。――面倒臭いから、全部許す。はい解決。ちゃんちゃん」


 自分の過ちを懺悔しようとするメイリーに対して、物凄く面倒臭そうにしたミレイラは、そう一言返して終わりにした。

 そんなミレイラからの扱いに呆けてしまっていたメイリーだが、どれだけ雑でも神から許されたのだという事を理解すると、途端にその表情を明るく輝かせる。



「あ、ありがとうございますっ!ミレイラ様っ!わ、わたし一生ミレイラ様に忠誠を!」

「――本当うざい」


 そしてそんなメイリーを、やっぱり心底鬱陶しそうに遠ざけるミレイラだった。




思い描いた理想の世界のためには、受け入れる事も必要。

イザベラは出来る子。ガレスはクソガキ。

ガレスに対するヘイトはスッキリしないかもですが、理想を追い求めるイザベラに免じてどうか水に流してやってください。

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― 新着の感想 ―
[一言] まあ、ミレイラにとっては、イザベラも大人ではなくできる子扱い。では自分は何だろうね。 まあ実際うざいのだろうから、さっさと帰って関わりなくなってくれればすっきりするのだろうけれど。そううま…
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