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19話「魔王出勤」

「い、いらっしゃいませー!」


 朝食を取りにいつものお店に向かうと、そこでは朝からイザベラが慣れない接客の仕事に励んでいた。


 魔王であるイザベラが、店指定のメイド服を着て人間の一般客相手に頭を下げて接客しているなんて、一体誰が予想できただろうか――。


 そんなイザベラを見て、ミレイラは「可愛いわね」と言いながら少し嬉しそうな表情を浮かべていた。

 ミレイラがどこまで考えているのかは正直分からないが、きっとこれも人間と魔族のため意味のある事なのだろう――と信じたい。


 でも、実際そんな働くイザベラを見て、最初こそ魔王だと怯えていた人々も、徐々にだが受け入れてくれている様子だった。


 店の店主に至っては、ちゃんと働くイザベラが気に入ったのか「イザベラちゃん、次はこれを持って行ってくれ!」ともうちゃん付けで呼んでいる程受け入れてくれている様子だった。


 ちなみに、イザベラが連れてきた幹部の二人はというと、状況の整理等のため一度魔族の国へと戻っている。


 こうしてイザベラは、その恵まれた容姿も相まってすぐに看板娘として活躍するようになっていくのであった。


 僕はなんだか、そんな様子を見ているだけで嬉しくなった。

 人と魔族、対立する両者だけど、これをキッカケに本当に平和が保たれるようになったら良いなと思った――。



 ◇



 それから数日経つと、街に一つの変化が現れた。

 それは、この街のあちこちで魔族の姿が見られるようになったのだ。


 これまでは、魔族が人前に現れるだけで恐怖され、即座に冒険者や街の兵士達との戦闘が始まったのだが、今では魔族も人も変わらず普通に街を歩いているのだ。


 更には街を歩いているだけに限らず、冒険者と魔族が肩を組み合って酒を飲んでいる姿まで見られるのだ。


 それもこれも、やっぱりイザベラが看板娘として働いているからに外ならず、そんな自らが率先して行動している事に感銘を受けた他の魔族達も、何か協力できる事は無いかと集まってきているのだが、気が付くとそんなイザベラのファンクラブとして人も魔族もこの店に集まって仲良く酒を飲むようになっているのであった。



 これこそが、ミレイラの目指した世界なのだろうか。


 ――この世界はあなた達のものです。だからもう少し、自分達で未来を考えなさい


 この言葉の意味を、僕は改めて考えさせられた。

 人だろうと魔族だろうと、結局はどう在りたいかを決めるのは自分達なのだと。


 肌の色や種族が違う、それだけの理由で相手を嫌悪し、恐怖し、それで滅ぼし合う事が正しいなんて、そんなわけがないのだから――。



「はいどうぞ、お待たせしちゃったわね」


 そんな事を考えていると、僕達の席にも魚の揚げ物が運ばれてきた。

 ちなみに運んできたのはサキュバスのお姉さんで、彼女も元々はイザベラの事を慕ってこの街へやってきた魔族の一人だったのだが、一生懸命働くイザベラの姿を見て共に働く事を選んだ一人だった。


 同じくイザベラに従い働くようになった魔族の女性は他にも数名おり、現在この店では人の女の子達とそんな魔族の女の子達とで人気獲得バトルが勃発中だったりする。


 それは人と魔族の争いだが、武力ではなく人気で勝負しているだけであり、これまでの争いとは全く異なっていた。

 そんな楽しくやりがいを持って働いている彼女達を見ているだけでも、なんだか僕はほっこりとした気持ちになるのであった。



「おう、デイル!それにミ、ミレイラじゃないか」


 僕達の隣を通りかかったイザベラが話しかけてきた。

 イザベラはすっかり仕事にも慣れているようで、今では割と楽しそうに接客の仕事をちゃんとこなしているのであった。



「あ、イザベラさん。頑張ってますね」

「おう、やってみると意外と楽しいもんじゃな!」

「――やはり、私の見込んだ通りね」

「な、なんじゃその目は!?へ、変な目で見るでないっ!」


 じと目で見つめるミレイラに怯えるイザベラ。

 そんな、最近は本当に姉妹なんじゃないかって思えるような二人のやり取りにも、僕は割と慣れてきた。

 これはこれで、中々良い関係なんじゃないかと思えた。



「――そ、それでどうじゃろうか」

「え?どうって?」

「――その、だから、あれじゃ!我の働く姿はどうだと聞いておるのだっ!」


 何故か顔を赤くしながらそんな事を聞いてくるイザベラ。

 だから僕は、理由はよく分からないけど思った通り素直に答える。



「え?はい、頑張っていて素敵だなと思いますよ。それにそのコスチュームも、良く似合っていてとても可愛いですね」

「か、かわっ――」


 するとイザベラは、今度はその長い綺麗な耳の先まで真っ赤にして、恥ずかしそうに立ち去って行ってしまった。

 何だったんだろうと思いながら見送ると、隣でミレイラが「――やはり、デイルには素質がある」と何かに納得したようにうんうんと頷いていた。


 ミレイラが何を考えているのかやっぱりよく分からないけれど、そんなこんなで以前では考えられない変化と共に、平和な日常がこの街には訪れているのであった。



更新が遅れて申し訳ありませんでした。


イザベラの行動により、街は平和になりました。

次回、勇者パーティー二人目登場予定です。

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