17話「天使と魔王」
「……で、今度は何ですかミレイラ様」
空間転移?して突然部屋の中に現れたミーシャ。
もうこの短期間に何度も登場している彼女は、最初から完全に諦めている様子だった。
だが、ミーシャを初見のイザベラとその配下の二人は、突然現れた天使の存在にとても驚いた様子だった。
「て、天使じゃと!?」
「はい?何ですか貴女誰です?死にたいのですか?」
しかし、驚くイザベラに向かって露骨に機嫌の悪いミーシャは、仮にも魔王相手にとんでもない事を言ってのけたのであった。
「き、貴様!無礼だぞ!」
「万死に値する!」
当然ミーシャに態度に憤るレラジェとバアル。
しかし、そんな二人にも怯えるどころか冷たい視線を向けるミーシャ。
「は?何ですか?やるんですか?いいですよ表でやがれです。今非常にご機嫌斜めなのでやってやりますよ。わたし結構強いですよ?」
そんな八つ当たりのような事を言うミーシャからは、これまで感じた事の無いような殺気が放たれていた。
「な、なんという……」
「不味いんじゃないの、これ……」
レラジェとバアルは、そんなミーシャから放たれる殺気を前に怯えてしまっていた。
確かに、こんな本気の殺気を向けられては、いくら魔王軍幹部であってもひとたまりもないだろう。
そして僕は、天使というのは僕が思っていたよりも随分と人間らしいというか、怒る時は普通に怒るんだなという事を学んだ。
「ミーシャ、鬱陶しい」
しかし、そんな一触即発の状況もミレイラの一言で消し飛ぶ。
ミレイラから不愉快だという視線を向けられたミーシャは、途端に放っていた殺気を解いてあわあわとしてしまったのだ。
「じょ、冗談ですよ冗談!嫌だなぁーハハハ!」
そして、ミレイラに向かって誤魔化すようににへらと笑うミーシャ。
その手は胡麻をするようにコネコネと捏ねられていた。
――なんていうか、そんな三下ムーブがあまりにも板についているミーシャへの見方が、今の一見でちょっと変わってしまったデイルだった。
◇
「ということで、神龍さん呼びましたよね?何故ですか?神龍さん帰って来てから「わざわざ呼ばれたから行ってやったのに、何もさせて貰えなかった……」っていじけちゃってますよ!?」
仕切り直しというように、ミレイラに向かって指を差しながら事情確認をするミーシャ。
今回の議題は、何故神龍をわざわざ呼んだのかについての確認のようだ。
「――そこの妹ちゃんが蛇を出したから、蛇バトルと洒落込んだだけ」
そう言って指でVマークを作るミレイラは、案の定全く悪びれる様子は無かった。
そして、「妹って、まさか我の事かぁ!?」と驚き慌てるイザベラだが、残念ながら今の話の流れからしてそれは間違いないだろう……。
「蛇って、神龍さんはドラゴンですよ!それに、神の龍です!最強なんですよ!?」
「最強の神はわたし。あれはわたしの足元にも及ばない」
「そ、そうかもしれませんが、もうちょっと他の神々に対する態度をですねぇ!……あー、もういいです。とりあえず謝ってください。そしたら、ちゃんと謝ってたってわたしから伝えておきますので……」
え、そうなんだと思ったデイルと、イザベラ達三人。
イザベラ曰く、かつて魔族の国を滅ぼしたとされる龍より強いミレイラって一体……という疑問が浮かんだ。
そして、イザベラ達の驚きはそれだけじゃなかった――。
「か、神……じゃと……!?」
イザベラはミレイラを見ながら、恐れおののく――。
先程戦った相手が、まさかの神だと知ったリアクションとしては全くもって正しいリアクションだった。
しかしこの状況の中、デイル以外にまともなのが魔族の3人だという事実に、デイルは頭を抱えるしかなかった。
◇
「じゃあ、わたしが代わりに謝罪文を書きましたので、ミレイラ様はここに母印を押してください。これだけはお願いします」
「――仕方ない」
そう言って、ミレイラはミーシャの書いた文を確認もせず母印をトンと押した。
こうして今回は素直に従ってくれた事に心底ほっとした様子のミーシャは、相変わらずの苦労人だよなぁとちょっと可哀そうになった。
「……で、そこの3人はなんなんですか?」
そして、自分の仕事が済んだミーシャは、ようやくここに居る僕とミレイラ以外の3人の事を聞いてきた。
「わ、我の名はイザベラ。魔王じゃ!そしてそこの二人はバアルにレラジェ、我の部下じゃ!」
そんなミーシャに向かって、慌てて胸を張りながら自己紹介をするイザベラ。
しかし、高らかに笑っているつもりなのかもしれないが、先程の一件もあるせいか露骨に引きつったような笑みを浮かべてしまっていた。
「ふーん、魔王ですか……って、えっ?魔王!?な、なんでこんなところに!?」
そして、ようやくこの状況の異常性に気が付いたミーシャは慌てふためくのであった。
そりゃそうだ、こんな街の宿の一室で僕達が魔王と一緒に寛いでいるなんて、普通に考えて可笑しい光景だろうから。
「――魔王は、デイルの配下になった」
「は?何言っちゃってるんですか!?」
ミレイラのあまりにも言葉足らずな説明に驚くミーシャ。
でも、凄く端的に言うとその通りなのだからやっぱり訳が分からない――。
「魔王がデイルさんの配下って、それじゃこの世界はどうなるって言うんですかっ!!……ん?あれ?もしかして何も問題ない……?」
「そういうこと」
そう、魔王が僕の配下になる云々はともかく、こうして魔族と人間の対立さえ無くなってしまえば、この世界からの争いは無くなるはずなのであった。
だから、ミレイラがそこまで考えていたのかどうかはともかく、こうしてイザベラが何もしないで居てくれるのであれば世界平和だって夢じゃないのであった。
「――でも、本当の争いはこれから」
しかし、ミレイラはいつになくシリアスな雰囲気で、そんな事を告げたのであった。
そんな先程までとはまるで違うミレイラの様子に、この場にいる全員が緊張の面持ちでミレイラの次の言葉を待った――。
「――これからわたしとイザベラ、どっちがデイルの正妻かを決める熾烈な恋愛バトルが始まるのだから」
そしてミレイラは、イザベラを指さして「絶対に負けないから」と高らかに宣戦布告したのであった。
――はい?
更新遅れて申し訳ありません。
恋愛バトルの火ぶたが落ちる!!




