12話「宴と魔王」
気が付いたら眠りについていた僕達は、夜ご飯を取るため昨日と同じお店へとやってきた。
店内に入ると、既に多くの冒険者や兵士達が宴を開いており、そこへやってきた僕達に気が付いたみんなにすぐに取り囲まれてしまった。
一度ならず二度までもこの街の危機を救ったミレイラへと、感謝と称賛の言葉を述べてくれるみんな。
これには流石にミレイラも照れ……てはいなかった。
ミレイラはいつも通りの無表情で、そんな事より食事を早く済ませたいとでも言いたいように周りを無視してトコトコと空いてる席へ座った。
そんな不愛想なミレイラだが、そこがまた最高だよなと何故か店内はまた盛り上がっているので、もうこれはこれでいいのかなと僕はこれ以上気にしない事にした。
それからすぐに、注文する事もなくお店からお礼として次々に並べられる美味しい食事を頂きながら、僕達はその宴に混ざりつつ楽しいひと時を過ごした。
この街の人はみんな陽気で温かく、僕もこれまで色々な街を旅してきたけどこの街の事が大好きになった。
「デイル、楽しそう」
「うん、この街はみんな良い人だし、いいところだよね」
「そう」
僕が素直に答えると、ミレイラは優しく微笑んでくれた。
そんな、僕にだけ見せるミレイラの微笑みを前に、周りからは「女神だ……」という声が聞こえてきた。
それは僕から見ても同じ気持ちで、ミレイラは幼馴染とかそういう事を置いておいても普通に可愛い女の子だ。
そんなミレイラの微笑みは本当に愛らしく、そして美しい。
それこそ、女神だと思ってしまうのも頷ける程に……というか、本当に女神なのだけれど。
そんな女神可愛いミレイラを中心に、宴は夜遅くまで続いたのであった。
◇
「ま、魔王様!報告がございますっ!」
「何事じゃ!?」
魔王城の王室へ、一人の従者が慌てて報告のためやってきた。
魔王イザベラ。
それが、ここ魔族の国を統べる現魔王の名だ。
見た目は一見幼いが、長い銀髪が美しく褐色の肌が特徴的な女性で、もう何百年と魔王として君臨し続けている魔族最強の存在、それが魔王イザベラである。
イザベラはそんな従者の慌てた様子に少し驚きつつも、報告を聞くことにした。
「はっ!ドグラス様が勇者パーティーに敗れたと報告を頂きました!」
「なにっ!?」
イザベラは、配下の四天王の一人であるドグラスまで敗れたことに驚きを隠せなかった。
同じ四天王であったヴァッサゴがこの間敗れたばかりだというのに、ドグラスまでも勇者に討たれてしまったというのだ。
「それから、まだ報告がございますっ!」
「なんじゃ?まだあるというのか!?」
最悪の知らせだというのに、まだ報告があるという従者にイラつきを隠せないイザベラ。
「そ、それが今回……万が一にでもドグラス様が敗れたことを想定して、ここで確実に勇者を討つべくさらに1万の軍を控えさせていたのですが……」
青ざめて、急に言葉の歯切れが悪くなった従者に、イザベラも何を言いたいのか流石に察しがついてしまった。
「……全滅したのか」
「……はい、しかも、たった一人を相手に、です……」
なん、だと……?
こやつが魔王である自分に対して、冗談を言うはずもない。
ということは、本当にたった一人を相手に1万の軍が滅ぼされたという事は信じられないが事実なのだろう。
そんな力を持つ存在が、勇者側についているというのか。
いや、そんな事が出来るのは勇者に違いない。
以前、ヴァッサゴが勇者を瀕死状態まで追い込んだと報告を受けたのだが、まさかこんな短期間にこれほどの力をつけてくるなんて予想もしなかったイザベラは、悔しさからぐっと唇を咬んだ。
「……話は分かった。その街へは、ワシが直接出向くとしよう。バアルとレラジェにもここへ来るように伝えてくれ」
「ま、魔王様自らですかっ!?」
「ああ、もう相手の力は、ワシで無ければ抑えられないところまできておると見て妥当じゃろう」
驚く従者に、イザベラは笑って見せた。
魔王である自分が、人間ごときに負けるつもりはない。
だが、イザベラにはもう一つ考えがあった。
イザベラは別に、世界征服に興味があるわけでもないのだ。
求めるのは、ただ一つ。それは魔族の安寧。
子供たちが笑い、争いの無い平和な国にしたいだけなのだ。
そのためであれば、何も戦いに勝利する事だけが選択肢ではない。
仮にもし、魔王である自分よりも相手の力が強大だった場合どうするか。
無謀にも戦いを挑み、もし魔王である自分が敗れる事があっては、この国の未来は無いと言っても過言ではないだろう。
その事を頭の片隅に置きつつ、イザベラはこれからの行動を慎重に運んでいく必要があると考えながら、残り二人となってしまった四天王を集めてこれからの作戦の検討に移ったのであった。
魔王登場です!
デイルにだけ笑ってくれるミレイラは、女神可愛いのです。
本作は、あくまでラブコメ……のはず!




