反撃、反撃、そしてまた 16
「ナイピっ!」
「ナイピですっ!千尋先輩っ」
ベンチへと戻る最中、皆の賞賛を受けながら、千尋が疲弊した笑顔で応える。多少ふらつく足を引きずり熱気籠る空間へと降り立つと、ようやく一段落付けた事を表すかのように大きく息を吐きながら腰を落す。頭から帽子を脱ぎ去り、呼吸を整えるよう肩で深呼吸。徐々に身体中へと駆け巡った酸素が脳を活性化さえ、否が応でも今日のピッチング内容を思い出させる。
(全然……だったなぁ……)
自分でも分かるくらい、滅多打ちにされた。正直、悔しい気持ちよりも何がいけなかったのか、そちらが気になりかけた頃、視界に白い物体が差し示された。
「千尋、お疲れ」
「あっ、ちゃんこちゃん」
手渡された紙コップには少し濁りを秘めたスポーツドリンク、それを一気に口元へと運んだ千尋。喉を潤すように飲み干すと体が一気に冷却され、冬場にも関わらず額に滲み出ていた汗が引っこんでいく。
少し珍しい千尋の状況を隣へと座り、それとなく観察していたちゃんこは数口だけ付けた紙コップを膝元へと持っていき、遠慮がちに呟いた。
「今日の内容は、千尋だけのせいじゃない」
「えっ?」
まるでこちらの様子を見透かされたような一言に絶句しつつ、ちゃんこへと視線を送った千尋。そして、それを正面に受けつつ、ちゃんこは続けた。
「……でも試合はまだ終わってないから、それは一度忘れて」
「あっ……うん、そうだね」
「そうだな、それがいい」
上空から降って来た馴染の声に二人が顔を上げる。すると、そこには悪戯っぽい笑顔を向けた昌也が微笑みながら腕組みをしていた。
「ただ、最後の一球、あれだけは今言っておく、二人ともよく投げ切った」
「あっ……ありがとう、ございます」
「別に……」
いつもの手厳しいコーチの姿はどこへ行ったのか、まるで自分の事のように嬉しそうなリズムが節々に見て取れる。普段とは180度違いがある昌也が二人の隣に腰を降ろし、更に続けた。
「あのサインは勇気がいるとは思う、だけど、千尋の原点と考えればあれは大正解だ」
「私の、原点……?」
「……」
イマイチ理解に乏しい千尋とは違い、ちゃんこは達観しているのだろう、小首を傾げる千尋へとため息を漏らしつつ、昌也の言葉の意味を汲む。
「1球一死、如何にして相手を打ち取るか」
「その通りだ」
「1球、一死……」
ちゃんこが教えてくれた言葉を呟き、その名を刻む千尋。頭を垂れ、深く息を吸い込みながら、その真意を一緒に飲みこむ。
「……千尋、お前の武器はそのコントロールだ」
「ハイ」
「だが、単に四隅に投げ分けてるだけでは、意味はない」
「……ハイ」
昌也の話にグッと奥歯を噛み締める千尋。思い出されるは今日のピッチング。ちゃんこのサインとはいえ、四隅への出し入れだけの内容が脳裏へと浮かぶ。悔しい気持ちが込み上げ、握りしめた拳が自然と震える。その姿はちゃんこはもちろん、昌也も視界の端で認識し、頬を緩める。
「まぁ、そんな投手プロでもそうはいない、だから、そこに関しては悔いるより誇れ」
「……あっ、ハイ」
「……要は私が活かせなかった」
何かを代弁するようにちゃんこが話始める。いつもに比べると明らかに口数が多い相方の姿に千尋が心配そうに見つめる中、話は続くのだった。
こんばんわ、作者です。
気付けば5月ももうすぐ終わり。
なんだかんだで今年ももうすぐ半分を消化、早い……(笑)
今年もこんな感じで過ぎてしまうのか、そう思うともっと色々な事やりたいなぁって思いますね。
とりあえず、自分は今週と来週、久々に球場に行って野球を堪能してきますっ(笑)
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




