反撃、反撃、そしてまた 15
「ほな、一発いこか~」
柄にもない事を漏らしながら、一度大きく素振りをした真琴が左打席へと入ってくる。今、一番迎えたくなかった状況に大山バッテリーは追い込まれていた。
「……」
「なんや、無言で睨んできて、おぉこわ」
流石同じ捕手だけあって、こちらの顔色を伺うのも慣れたもの。ただ、放たれた言葉とは違い、構えた姿勢からはこの展開を逃すまいと、気合に満ちている。
それもそのはず、2アウトながら、ファーストには四球で歩いた本澄が。2-2からの粘りにより、最後は千尋が根負けする形で狙いから外れたボール球を悠々と見送り塁へと進んだ事で、ランナー1、2塁と得点圏まで駒を進めている。
(……)
ちゃんこは悔いていた。千尋なら大丈夫と踏んでいた自分に。確かに彼女は抜群のコントロールで四隅を確実に突ける実力を持っている。だが、今日の試合、5回の時点で既に100球を越える展開。以前に比べれば大分スタミナも付いた千尋だが、それでも試合で投げる事の経験は浅い。特に今日は得点を許す場面も多く、精神的に受けるダメージも計り知れない。そんな事態に追い込んだ自分に憤りを感じつつも、被りを振り冷静に見据える。
(……だからこそ)
初球、外角への速球で一つストライクをとる。真琴のバットは動くことなく、過ぎ去る球を見つめただけ。これをインプットしながら、2球目のサインを送る。
「……へぇ」
外角へ、今度は小さく外れる変化球。しかし、これも冷静に見られるだけでボール。バッターボックスから零れた発言は何を意味するのか。ちゃんこは更に脳裏へと仕舞う。
(3球目は……)
コクリ、いつも通り一発で決まるサイン。そして、放たれる白球。先程、一瞬のうちに外野へと飛ばされた内角高め、しかし、今回は違った。
「ぐぬぅっ!?」
言い得て妙な発声で振り切ったバットで小さく内へと切り込んだ一球をなんとかファウルへと導く真琴。勢いで回転した足を止めた瞬間、ちゃんこを見やる。しかし、ちゃんこは特に気にせず、白球を受け取りマウンドへと返球し、何かが変わる。
「……」
「……」
両者無言で仕切り直す姿に、球審の慎吾も感づいたのだろう、どこか緊迫した声で再開を宣言する。
(……)
一瞬、誰もが気づかない暇に息を吐き、次の一球への覚悟を決める。
きっとマウンドの千尋は訝しむだろう。だけど、ちゃんこを信じてサインに応えてくれるはず。
だから、微かに震える指先へ檄を飛ばし、それを示す。
千尋が頷きながらセットする。珍しく動揺する気配もなく、誰にも悟られる事なく。
ミットを構える。いつもとは違うその位置に背筋に小さな雫が浮かぶ。だけど、ここは、この一球だけはここしかない。
千尋が動く。もう後戻りは出来ない。だけど、打たれても、否、打たれる事を後悔するのでなく、
「……きっと抑える」
囁くように口が動き、吐き切った決心と共に白球が飛ぶ。しっかりと、ど真ん中へと描かれた白線に、打席の中の左足が動く。タイミングを合わせるように踏み込んだ瞬間、体が捻られ、視界に銀色が走る。
ちゃんこは確信した、捉えられると。そう、それでいいのだ、と。
「セカンッ!」
響いた金属音とほぼ同時、マスクを投げ捨てたちゃんこの叫びに兎志子が応える。球足の速い、ライトへと突き刺さるような打球を難なく掴んだ兎志子は的確にファーストへ。その一球を政美が大事そうに受け取り、アウトが宣告された瞬間、ちゃんこは無意識にその右手を握りしめていた。
こんばんわ、作者です。
5月も中旬を過ぎ、徐々に暑さが出てきましたね。
最近は天候の悪い日もあり、湿気を感じると梅雨時のうざさを感じると共に、
ビールが美味しくなる季節に(笑)
……なんか毎年言ってる気はしますが、今年もそんなあっつい日に
喉を潤すビール片手に野球観戦、したいものです。
……ちょっと本気で計画を(笑)
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




