それは突然やってくる? 08
「勝負は3打せ、」
「いや、1打席だ」
慎吾からの提案を即座に蹴落としたのは昌也。当然、慎吾は却下された事と余裕とも取れる条件に沸点が上がる、が。
「そうだったな」
「……」
即座に背を向けロジンへと手を当てる。そう、怪我の影響から未だ昌也は1日1打席限定なのだ。
「少しは成長したでしょ?」
「あぁ、そうだな」
打席に入りながらバットを揺らす昌也に悠人が冗談めかし、二人の口元に微笑が浮かび、消える。
(初球、は見るか)
軸足の位置を決め、スパイクを打ち付けながら捕手独特の読みで脳内パズルを組み上げる。慎吾の性格、悠人のリード、そして、昌也自身の今日の状態。いつも通り一振りにかける全ての情報を一つの枠に無造作に広げ、バットを初期位置へと持っていく。それを合図に送られたのか、マウンド上で小さく頷いた慎吾が動作に入る。見慣れたワインドアップにふと、思い出す。
(そういえば、こいつの球、打席では初めて、)
思考は途中で千切れる。なぜなら、体全体を使うことで放たれた力ある直球がまるで眼前へと迫るように向かってきたからだ。
パーンッ!
響くミット音の残さを余韻に昌也は冷静に後方へと視線を伸ばす。するとそこには腰を落した悠人の姿はなかった。
(……最初からずいぶんと警戒が強い事で)
バッターボックスから片足を外し、バットを足元で揺らしながら初球の分析結果を新たに追加する。左打席の昌也の胸元から眼前を狙いとしたインハイの直球。ストライクゾーンから大きく外れていたため、例え初球振りに行っても昌也の反射神経ならバットを止め、見送る事は出来た。ただ、問題なのはこのストレートが意図した球だったのか。
(コントロールミス、な感じは全くしないが)
捕手のそぶりからは焦る様子はなく、予定調和のように投手へと球が返球される。受け取った慎吾も務めて冷静にボールを再度手になじませ、ロジンへと体を向ける。
全く違和感ない動作に昌也は静かにメットへと手をやると、再度バットを構えた。
(次は……)
脳内に閃く球の予想進路を描きながら迎えた2球目、振り下ろされた右腕から延びる白線が打者の目線からもっとも離れた場所へと収まる。
「……ストライク、でいいよね」
「あぁ」
球審がいない中で放たれた悠人のセルフジャッジに同意した昌也は既に次の一球へと集中を高めていた。
こんばんわ、作者です。
最近一気に暑くなりましたね。
通勤中の汗が最近止め処なく、あぁ、夏やなって実感がすごいです(笑)
さて、今回は久しぶりに野球描写があるのですが、
やっぱ個人的にはこれを書いてる時が一番楽しかったりします。
現状、先の方も書いているのですが、そのゾーンに突入するとまぁ進む進む(笑)
ただ、難点なのはあまりに書きすぎて後々見返して削りまくる事が多くて……
そんなこんなでこれからも趣味的に書いていきますので、覗き見して頂けると幸いです。
ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございます。