終わりと始まり 21
「……マジ?」
「はい、マジ、です」
姿勢そのままに声だけで驚きを示す真澄監督へと昌也は小さく頷く。
「それが、兎志子がお怒りの原因です」
小さくため息を吐き、拍子抜けした表情でグラウンド内を見渡す。マウンドではサインが決まったのだろう、相手投手が頷き、モーションへ入る頃、再度真澄が聞いた。
「って事は、球種やコースが盗まれてた」
「いえ、正確にはコースだけ、だと思います」
昌也の返事に真澄の視線が動く。それを正面から受け取りながら、昌也は更に続けた
「ただ、千尋の場合、球速も遅く変化の大きい持ち球がないので」
「そっか、コースが分かれば多少振り遅れても捉えやすい」
「その通りです」
つまりどういう事か。大山女子の内野守備シフトは兎志子が統括していた。バッターと配球に合わせ、兎志子が細かく指示を出す事で経験が乏しい内野陣でも捕球確率を上げるために。そして、そのサインは投手である千尋の頷いた瞬間に行われていた。
「千尋が投げる前、つまりセットしている間にあった動きや仕草でコースを予想して打つ、それは結果的に兎志子が相手に投球内容を漏らしていたと同義……」
「お嬢様だけあってプライドは高いですから、ね」
「……自分が掌の上で転がされていたなんて、そりゃ頭にくるわね」
今でもベンチ内でしきりに苛立ち、ギリギリと歯嚙みしながらグラウンドを睨む兎志子の姿を二人が確認すると、無表情で試合へと視線を戻す。
「それで、さっきベンチから出てその事を指摘したわけね」
「本当はあいつら自身で気付いてほしかった事案、なんですけどね」
昌也は天井へと視線を上げながらため息を吐く。兎志子の指示による位置の補正について昌也自身が考案したとは言え懸念はあった。特に投手がセットしてから動く事に関しては一歩目が少しでも近くなる事で、確かに内野ゴロを処理する可能性を高める反面、気づかれれば打者に有利な情報になるのは明らか。それでも、彼女らが理解し、実行する意味を昌也自身は大切にしたかった。
「……これも経験ってやつですかね」
「そうね、選手、コーチ、両方のね」
球審が静かに告げた四球と指示にベンチから拍手が沸く。点差を広げられたこの回、1点でも返したいところで出たノーアウトのランナーに大山女子が騒ぎ立てる中、昌也は真顔で同じように称えていた。
(監督、出来ればあなたも成長して欲しい、ですがね……)
そんな事を頭の隅で嘆きながら、次の打者へ出す指示を真澄へと囁くのだった。
こんばんわ、作者です。
新年、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
さてさて、なんだかんだで長く続いているこの連載ですが、
個人的には今年で区切りをつけたい、とは思っています。
……思っているだけで、実際にはどうなるのか……
それは、神のみぞ知る……(笑)
そんな感じで今年も更新だけはしっかりきっちり週一でやっていきたいとは思いますので、
お付き合い頂けると嬉しいです。
どうか、一つ。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




