終わりと始まり 13
2回の表、守備に着くため一塁ベンチからワラワラと選手が出てくる。1点とはいえビハインドで迎える彼女らは落ち込む事なく、至って明るい雰囲気で持ち場へと向かっていく。その様子を三塁側、ベンチ上に造られた数個の座席からジッと見守る人影に、唐突に声が落ちてくる。
「おぉっ!やっぱり羽鳥かぁっ!!」
幼い頃から聞き慣れた大きく独特な低音が耳に入った瞬間、腰が持ち上がる。即座に視線を頭の中に浮かんだ人物へと移し、印象深い白髭と一致させる。
「源田監督っ!?」
「よっ!!」
人懐っこい笑顔で片手を上げる姿に緊張から脱力に変わった雄一は目尻と共に頭を下げた。
「……お久しぶりです」
「そうじゃのぅ、最近店にも顔出さなかったからのぉ」
話しながら、隣に腰を降ろした浩一郎、雄一もそれに倣いながら問いかけた。
「どうして、ここに?」
「うん?あぁ、孫がな、出てるんで見に来たんじゃ」
腕を組み、視線をグラウンドに向ける姿は雄一の記憶にある源田監督と全く変わらず、思わず口元を緩めながら再度試合へと視線を戻す。既にジュピターズの攻撃は始まっており、6番の近藤 美恵子が大きなスイングで初球を空振る姿が見られた。
「……羽鳥、どう思う?」
「……この回はまだ様子見になると思います」
雄一の言葉に、瞳孔を広げながら小さく嘆息を上げた浩一郎へ更に続ける。
「真琴……あぁ、姪なんですけど、きっとあいつも気づいてるので、一巡目は各自に確認させると思うんですよ」
「ククッ、そうか、既に気付いているのか」
楽しそうに肩を揺すり、髭を蓄えた口元を豪快に吊り上げる浩一郎、その姿は威厳たっぷりで昔と変わらない事に雄一は視線を外す。何気ない姿、それだけに何かを感じたのか、浩一郎は前を見据えたまま深めに居直し問いかけた。
「……ところでお前、野球、やってないのか?」
「……えぇ……」
短く答えた雄一が苦笑いを浮かべ、どこか自嘲気味で視界に打席と投手を入れたまま口を動かす。
「仕事……もありますが、怪我の影響もあるんで」
「……そうか」
口髭をへと手を伸ばし、思案気な表情をつくる浩一郎。だが、雄一はその姿を見る事なく、ジッとグラウンドの攻防に意識を集中させる。沈黙、その間にも試合は進み、6番から始まったジュピターズの攻撃はショートフライ、ライトフライとアンダー特有の伸び上がるような球に苦戦を強いる。8番 岡本 一花も2-2と追い込まれてからの外角高めをセンターへと打ち上げる。
「……さて、いくかの」
瞬間、腰を上げた浩一郎の言葉に反射的に顔を向けた雄一。瞳が捉えた浩一郎は指先を丁度反対方向へと向けながら笑顔を浮かべていた。
「あっちに皆を待たせているのでな」
「……なるほど」
果たして、その先には小さな集団、じゃれつきながらどこか落ち着かない様子でグラウンドへと視線を向けるユニフォーム。それは、昔の自分と重なる光景で思わず雄一は微笑み、
「今も変わらず、なんですね」
「あぁ、変わらんよ」
背を向け、小さく手を上げて応えた源一郎。それ以上何も発する事なく、ゆっくりと歩き出す。その姿は、やはり雄一が知っている、変わらない浩一郎であり、胸元をえぐられる。なぜなら、その背が言っていたから。
(お前も、変わってない、か……)
高く舞い上がった白球をセンターがしっかりと捕球したのだろう、グラウンドへと疎らに降り注ぐ小さな拍手を耳元に残しながら、雄一は唐突の来訪者へと小さく会釈するのだった。
こんばんわ、作者です。
11月となり、今年も早2ヶ月を切りました。
いつも感じる事なんですが、やはり時が過ぎるのは早い、
というか、1年経つのは早いな、と。
なんだかんだ、今年もそろそろやり残した事をちゃんと終わらせないと、
そう思いつつもなかなか手が出ないので、今週末くらいには本気出したいと思います(笑)
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




