それは突然やってくる? 06
「……そろそろいいだろっ」
先に口火を開いたのは慎吾だった。その一言に、小さく息を抜くと、腕を組み眉間に皺を寄せながら昌也は応えた。
「……最初に言っておくと、あくまで個人的感想、と思ってくれ」
「あぁ、いいよ」
その場で立ち上がりながらマスクの中から出てきた悠人の微笑にコクリと頷き、昌也は構えた。まるでキャッチングを真似するように自分のグラブを悠人へと向ける。
「とりあえず、気になっていたキャッチングについて、概ね問題ないとは思う」
「概ね、ね」
気になる単語を口にしながら悠人は顎に手を当て思案する。今回、話を持ちかけたのはこの悠人だった。最近、慎吾の球を受けているといつもと変わらないのになぜか納得できない、と。とても曖昧な表現に一時は昌也も断ろうと思ったが、
『そこをなんとか、甲子園出場のためにもっ!』
半ば押し切られるような形で渋々了承した結果だった。
「……恐らく、だけど原因は慎吾の方にある」
「えっ?」
「俺、だとっ!?」
未だマウンド上で捕手同士のやり取りを見ていた慎吾は急に振られた事に驚くと共に、徐々に怒りが込み上げる。当然だ、なんせ全く関係ないと思っていた自分に焦点が当たったのだから。だが、それさえも予想の範囲だったのか、昌也は冷静に慎吾へと問いかけた。
「落ち着け慎吾、まずはちょっと聞きたい」
「チッ!」
昌也の真剣な眼差しに制され、やり場のなくなった怒りをマウンドへと吐き捨てる慎吾。その姿に肩をすくめた昌也は改めて慎吾へと視線を向けた。
「お前、最近変わっただろ」
「何っ?」
「変わっ、た?」
寝耳に水な言葉、全く予想できなかった状況に慎吾と悠人は顔を見合わせ、互いに首を横に振る。どうやら、二人ともが気づいていないようで、昌也は一人口角を上げる。
「あの試合以降、意識しだした事ないか?」
「……強いて言えば指の使い方、だな」
言われて今度は慎吾が考え込む。昌也の高校生活を決める女子との試合、楽勝であったはずの展開は最後の最後まで見られず、結局無残な敗北を慎吾たちにもたらした。その結果と後に聞いた、梢の謎の球の正体から慎吾はある光を見出していた。
「今まであまり意識が無かった球の回転、それを改善するのに指の筋力や使い方を模索しているが、」
「それだよ」
昌也が自信に満ちた表情で慎吾の話を遮り、答えを口にする。
「意識が功を奏してるんだ、慎吾の球は回転の質が良くなっているんだ」
「それって……っ!」
何かが閃いたように、今度は悠人が口を挟む。どうやら気づいた事態に昌也は再び悠人へと視線を戻し頷く。
「恐らく、スピン自体がきれいになったか回転数が上がったか……どっちにしろ直球ならノビがよくなる、って事は」
「キャッチングのタイミング、もしくは位置に若干のズレ、って事か」
ノビの改善、それはつまり、思った以上に球が重力に逆らい、高さを保つこと。例え0.1cmしかない誤差だとしても、ミットの収まり具合に違和感を覚えるのは確か。二人の意見が一致し、頷きながら事は進む。
「修正の仕方は色々あるが、例えば手首で微調整とか」
「うん、ただそれだと手首への負担が」
そして、始まったのは捕手談義、悠人と昌也、いつの間にか至近距離であれこれ話始めた二人。
その傍らでは完全に蚊帳の外となった慎吾がいつもとは違う、呆れた表情でグラウンドの土を払いながら呟いていた。溜まっていたはずの怒りすら忘れるように。
「……まぁ、いいか」
こんばんわ、作者です。
四連休初日、皆様如何おすごしでしょうか。
作者は4連休だったことすら忘れてました(笑)
ただ、ちゃんと今日は休みでこちらを無事投稿出来ております。
某球団を応援している最中、ではありますが(笑)
あぁ~、今日こそ勝ってくれ~
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。