終わりと始まり 07
ボールと判定された球を受け取り、一息。マウンド上の千尋はグラブを胸にやりながらロジンへと手を伸ばした。
「……ふぅ……」
ポンポンと小刻みに軽い音を立てながら、手に馴染ませた後、再びホームへと対峙する。果たして、そこには先ほど以上に視線をギラつかせたバッターが。
(……当然、だよね……)
フルカウント、次の一球は試合の流れを分かつ可能性すらある事を奏も理解しているようだ。
彼女は言うなれば今回の両チームをある意味一番熟知している。自分の所属クラブはもちろんの事、大山女子についても数日とはいえ練習に参加した。結果、大山女子についてのデータはジュピターズに漏れていると言っても過言はないだろう。
対して、大山女子は先日全体練習でジュピターズを初めて見ただけ。未だ不明瞭な部分も残っている。だからそこ、初回から相手に主導権を取られるわけにはいかない。
「……ここは……」
ちゃんこのサインに頷き、セット。いつも通り呼吸を整え、始動する。左手に感覚を集中させ、打ち取るための右足を押し出す。しっかりと土を噛んだ足裏へと重心を移動させながら、目指すは内角高め、体と連動させた腕を撓らせる。
「抑える……っ」
放たれた白球が一直線に伸びる。アンダー特有の高めへとまるで競り上がるような球筋が奏へと襲い、鈍色の一閃と交差する。不穏を告げる音は重たげに鳴り響き、舞い上がった硬球は緩やかな弧を描く。
「キャッチャーッ!」
一塁から叫ぶキャプテンの声にちゃんこはマスクを投げ捨て、指し示された方角へと一目散に走りだす。未だ地へと還らず空を漂う白球へとちゃんこが追いつき、そのミットへと収める体制に入った目の前には壁があった。
「ファウル」
球審の慎吾が両手を上げ、コールする。打ち取ったかにも見えた打球は残念ながらバックネットを掠っていた。渋々と定位置へと戻るちゃんこへ、奏からマスクを渡される。そのひどく冷静な奏の姿に千尋は血の気が引いた。
(奏ちゃん、今の分かってた……?)
もう少しでキャッチャーフライとなる打球。それはバッテリーの思惑通りだった。下から這い上がるような球筋は自然とボールの下半分を叩きやすい、それはフライが上がりやすい事を意味する。そして、その通り奏は打ち上げ、もう少しでフライアウトが取れる状況までこぎつけた。だが、
「……」
慎吾から新たなボールを受け取りつつ、千尋は落ち着かせるようにマウンドを慣らす。そして、奏の打撃を振り返る。彼女は打ち上げてからも冷静だった。悔しそうに顔を歪めることもなく、打ち損じを嘆くような素振りもなく、至極当然のように打席を外し、打球を視線で追っていた。
(……大丈夫、次で打ち取れる……)
言い聞かせるように心で呟く。確かに奏の振る舞いは不気味すぎる、何を考えているか分からない。だけど、そればかりに拘っていても進展があるわけではない。なれば、今は目の前のサインに全力で応えればいい。
(だから……っ)
全幅の信頼を寄せるちゃんこのサインに千尋は一発で頷く。自分よりもより野球に深く精通した彼女なら、きっと大丈夫。そう心の中で反芻した千尋が投じた白球へ快音が応える。
「ひゃっ!?」
フォロースルーで三塁側へと流れる体へ向かって打球が襲う。瞬時に腰を落し、悲鳴を上げながら顔面へと迫る球を間一髪で避けると、セカンドベース後方で小さく跳ね、そのまま、センターを守る里奈のグラブへと収まる。
「ダイジョウブカッ?チヒロ?」
「あっ、うん……ありがとう」
内野へと返球される最中、サードから歩みより手を差し出してくれたマリアナへ体を預けながら身を起こす。下半身に付着した土を払い、自らの身の異常を確認、問題ない事を周りへとアピールした千尋はそのまま一塁へと視線を向けた。果たして、プロテクターを外し、さも当然の如くベース上に待機する奏の姿に千尋は下唇を噛む。同じコースへ投じた一球を今度は綺麗に打ち返された事よりもランナーを出してしまった事、それを後悔するように再びマウンド上に戻るまでの間、ずっと噛み締めるのだった。
こんばんわ、作者です。
いつもの投稿時間からの遅刻……本当に申しございません。
ちょっとね、体調が思わしくなく、少しだけ、ほんのすこーしだけ横になっていたら……
そんな感じで気付いたらこんな時間でした……。
今日は祝日で休みだったから、今日準備すればいいやと油断が招いた結果、でした。
ホントすいませんでした。
ここまでお読み頂きありがとうございます。




