終わりと始まり 06
「……」
構えたミットに白球が収めながら、ちゃんこは打席へと視線を動かした。そこには当たり前のように土を固めつつ、次の一打に向けてスパイクを打ち付ける。無駄のない仕草、放たれる集中力、まだ初回にも関わらず、汗を拭う姿の千尋、ちゃんこは返球しながらそれら全てを情報として蓄積し、腰を据える。
「……」
視線をホームベースへ落しながら次の一球を思考する。知り得た内容を昌也直伝の理論と自らの感性で答えを導く。
「……っ!?」
瞬間、無意識に出たサインに千尋が驚きの表情を浮かべ、首を横に振る。
「……」
それを確認し、再度ちゃんこはサインを出す。対して千尋、今度は真剣な表情で頷き、セットへと体を持っていく。それを合図に、打席から小さく音が漏れる。視界の端には口元をすぼめ、細く息を吐く奏の姿。千尋のリリースにタイミングを合わせるようにユラリと身体が震える。そして、投げ出された一球に彼女のバットが閃めく、事はなかった。
「ストライク」
驚愕の視線がミットへと注がれる。それもそのはず、奏が見逃したのはど真ん中、誰が見ても、どうあがいてもストライク判定にしかならない速球。現に球審が面倒そうに腕を上げながらコールする。
「ナイスボール」
わざわざ立ち上がり、敢えて声に出しながらちゃんこは返球、クルリと体を翻す最中でちゃんこはしっかりと見ていた。落ち着き払いながら肩をゆするその姿の中に下唇を口内へと咥える一瞬を。
「……」
自分の予想通り、今の一球を確実に見逃す事を見抜けた事に心の中で安堵しつつ、最後の一球をどうするか、ちゃんこは決めかねていた。
「……今の一球、危なくなかった?」
ベンチの中で呟いた真澄の言葉に顎に手を当て思考する昌也。奏が左バッターのため、一塁側ベンチである昌也達からは最後のバッター前を通過する際は身体に隠れて見にくかったものの、その軌道は恐らくど真ん中に突き進んでいた事が伺える。
「……恐らく打つ気なかったから大丈夫ですね、それ見越してちゃんこがサイン出したんでしょうし」
「マジ?」
驚愕を隠す事なく振り向いた真澄に苦笑で応えながら、昌也は説明した。
「見逃し方があからさま、なんですよね、我が妹ながら」
「……そう言えば、振るそぶり全くないわね」
コクリ、昌也は頷きさらに続けた。
「あいつ……奏は初球からでも自分が打てる球なら反応する打者、なのに全く反応がない」
「なるほど、ストライクとって追い込む事と、どう反応するかちゃんこちゃんがみた、そういう事ね」
「えぇ、まだ回は浅いですし、このチャレンジはいい事です」
そして、昌也は次の言葉を飲みこむ。顎に手を添え、打席へと戻る妹へとジッと視線を固定する。
(だからこそ今見逃した意味が分からないと、次の配球が危うい)
ここまでの4球全て軌道を見るだけだった奏。当然、練習では千尋の球を幾度も見ているし、捕手としても受けている。それだけに今更球筋を見極めるだけで4球も微動だにせずはどう考えてもおかしい事態。
(次の一球、気をつけろよ)
心の中で呟いた昌也の気持ちが届いたのか、マウンドで頷いた千尋が放った一球は外角外へと逃げる一球となり、フルカウントの勝負にもつれ込むのだった。
こんばんわ、作者です。
最近、なんだか色々とモチべが下がる事が多い日々で、
なんだろう、どうしてだろう、と少々悩んだり……。
それでも日々は続いていく、そんなわけで今日も贔屓球団を応援して、
活力を補うのに躍起になってます。
試合展開次第では今日から坊チームのマジック点灯するとか、
いやいや、そんなの関係ない、一つまた今日も勝利を積み重ねるだけ。
最後まであきらめずに応援していきますっ!
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




