終わりと始まり 04
胸に携えたグラブが動く。体を半回転させた反動を使い、重心を前へと持っていく。その過程で体は沈み、マウンドの土を巻き込むように左腕を翻す。
パスッ
捕手が構えたミットへとしっかり収まったのを確認しながら千尋は一息、事前の投球練習を終える。軽く額に浮いた汗を利き手で拭い、呼吸を落ち着かせる間に白球が戻ってくる。
「山辺さんっ!初回シマってこっ!!」
主将であるファーストの政美から激励と共に受け取った球を見つめながらコクリと頷き、マウンドを慣らす。いつも通り、大袈裟すぎる深呼吸をしながら踏み出す位置を固めていくと、突発的に千尋は体を震わせた。
「ひゃっ!?」
グラウンド内に響く女性の声とまばらな拍手、相手バッターの紹介とそれを暖かく迎える観客達が起こす音に過敏に反応した千尋。大山女子として2試合目の試合、前回には無かったいつもとは違う流れと雰囲気のため無理もない。が、それが許されるのは投げる前まで。
(しっかりと集中、しなくちゃ)
再度独特の呼吸法で表に出始めた緊張を整えると、一度目を瞑り小さく息を吐く。たった数秒、されどこの時間が千尋に何かしらの力を与えたのは確かにであり、現に見開いた顔つきはとても頼もしく見えた。
「プレイッ!」
球審の右手が上がり、試合の開始を告げる。瞬間、一度頷いた千尋がセット。静から動へ、多少緊張が見える体の強張りが見えつつも、いつも通りしなりを利かせた左腕からこの日波瀾の幕開けとなる一球が打者の目の前へと伸びていった。
「……」
初球、左打者の真琴へインハイへと伸びる直球を選択したちゃんこ。高めに外れた球を受け止めながら思考をフル回転させていた。
(……全く微動だにしない)
まるで来る事がわかっていたような反応にちゃんこは返球しながら次の一球を決める。目の前の千尋は神妙にコクリと頷くと、沈んだ体から今一度飛び出た速球が今度は外へと伸びる。
「ストライク」
淡泊に答えた球審の声、再度見送れたがしっかりとこちらの意図を感じ取りゾーン内に納めた千尋へ小さく頷きながら返球すると、訪れたのは見られる感覚。気付けば打席に立つ真琴がこちらをジッと見つめていた。半眼でどこか不服そうなその瞳と目があう。そして次の瞬間、ちゃんこは肩からずっこけた。
「なんや球審、元気あらへんなぁ」
「……うるせぇ」
いきなり球審へと向けた文句に流石のちゃんこも呆れ顔に。その後もバットを振りながら何やらブツブツと呟く真琴。『気合入らん』『調子くるぅわ』『アカンこれ三振や』小耳に届く言葉の数々に何ともしがたい気持ちが生まれたちゃんこだったが、最初のプラン通りにここは乗り切る事を決める。
示したサインに即決した千尋。変わらぬセットから幾分柔らかさが見えてきた体が沈む。隠された左腕が地面を這い、今度は外角低めへと球が走る。
(……っ!)
構えたミットの真ん中で収まる、そう思ったのはちゃんこだけだった。視界が捉えた鈍色の棒、それが指し示す出来事を理解するより、耳に届いた快音に呼吸が止まる。土のグラウンドを跳ねた白球が三遊間へ。慌てて振り抜いたマスクをぶっきらぼうに投げ捨てると一塁後方へ走りながら状況を見やる。すると、元気いっぱいな声と共にそれが届いた。
「オッケーッ!オチャノコサイサイネッ」
珍しく正しい日本語と共に逆シングルで白球を収めると、肩を活かした送球でファーストへ。幾分余裕がある形でしっかりと最初のアウトが点灯する。
「あ〜ん、アカンかったかぁ」
ベースを走り抜けながら天を仰ぎ、そそくさと自軍ベンチへと戻っていく真琴。端からみれば悔しさを表現したその姿、しかし、ちゃんこは違った。徐々に遠ざかる背中、果たしてそこには、どこか余裕すら纏ったようなを軽い足どりと、微かに傾けた口元から見える小さな光。ちゃんこの瞳に入る真琴の情報はどれもこれも異質で不気味さを漂わせ、その思考に影を落とす形として残ったのだから。
こんばんわ、作者です。
とうとう9月を迎えました。
いやはや普通ならまだ暑いですね~、ってお話するところなんですが……
すっごい涼しいですね(笑)
正直、このくらいの気温の方が私は過ごしやすかったりするんで
ありがたいくらいなんですが、まぁ、雨さえ降らなければ……
ただ、場所によってはまた雨の影響で災害なども考えられますから
みなさんも十分ご注意を。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




