終わりと始まり 01
緩やかに日が昇り、少しずつ辺りに仄かな暖が巡る頃、彼はそこにいた。いつもなら店で仕込みや清掃を行っている時間。しかし、本日は雑多な作業から久々に解放され、朝から外を出歩いていた。目的は一つ、遠くからも見える大きな建物へと、その脚を進める。
「……ほっ」
マフラーやコートの隙間から刺す寒波に身が震え、脳から新たな指令を出す。昔から寒さを感じた時に行う事。もも裏へ意識を持っていく事で下半身を必要以上に動かす。すると、自然と歩幅が広がると共に、体の燃焼が加速する。徐々に高鳴る心拍、ジワリと背に感じる汗、それらが全て寒空と反応し心地よさへと変わりながら彼は歩む。
「……しかし、本当にやるとはな……」
正直、今でも信じられない。視界にあの建物、テレビでよく見る大きなドームが確認できたとしても。
「……野球、か……」
十数年前まで自分もやっていた競技であり、ある理由で辞めた競技。今でもあの時の悔しさや惨めさは忘れはしない。ただ、当時に比べれば随分と気持ちが落ち着いてはいたが、
「……」
歩を停めず、黙々と進む最中、あの頃を思い出す。頼りになる先輩、友でありライバルだった同期、慕ってくれた後輩、皆が同じ目標に向かって精一杯努力し、戦い、喜びや悲しみを分かち合った日々は、
「もう、とっくに終わってる……」
なのに未だに引きずっている。それを見せないようにしてきたはずなのに、彼女には見抜かれていたようで、
「……着いた、か……」
コートの下に隠れた腕時計を晒す。短針と長針の位置を見て、まだ大分時間があるのを確認する。さてどうするか、頭の中に巡る暇つぶし一覧を浮かべつつ、どれも適合するには問題がある事に嘆息していると、耳に小さく何かが呟く。
「……そうだな……」
音をヒントに思いついた内容を実行するため、辺りを見渡し、そして見つける。日の光に負けない光量が漏れる場所、そこへゆっくりと気持ちを持っていく。きっと、想像した景色が広がっている。だから、彼は無機質に垂れた幕を潜った。胸躍らせる自分を静かに抑えながら、その一歩を踏み込んだ。
こんばんわ、作者です。
ずっと、ず~っと日常パートで野球パートが全然なかったこちら、
今回から新章になり、久々の試合に入っていきます。
かくゆう、自分も野球パートになると書く楽しさが半端ないので
もう大変です(笑)
そんな訳で、もう暫くの辛抱にはなると思いますが、野球部分もひとつ。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




