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10+1(イレブン)ナイン+1  作者: あまやすずのり
波瀾は彼女と共に
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波瀾は彼女と共に 15

 夕焼けの時も終わり、刻々と夜の帳が始まった頃、消えかけた人影が存在を示すように必死に動く。


「……フッ!……」


 小さく息を吐き、一定のリズムを刻みながら、更なる影を横凪に切り裂いていく。何かを見据えるように、何かを捉えるように。


「……スゥ……ッ」


 一呼吸置きながら、振り抜いた手を初期位置へと戻す。肩へと入った余計な力を抜こうと小さく体を揺すり、再び瞳に彼女を映す。


「……ッ!!」


 ユラリと震えた脳内の彼女が、大きく振りかぶる。動き出した左手がこちらへと突き出され、白球を捉えているだろう右手がしっかりとテイクバックを取り、横へと変化した彼女の体が徐々にこちらへと向けられる。


「……フッ!!」


 リリースへと導かれる右手に視線を注ぎ、放たれるタイミングを合わせる。瞬間、振り下ろされた先から自分の胸元へと伸びる白線を迎え撃つように体を回転させる、が、


「ッ……」


 空振りに終わった感触にバットがうつむく。たかがイメージ、自分が記憶したその形を目の前に浮かべただけ。それでも負けてしまった。


「……なーに素振りで悲観してるんだよ」


 かけられた声に顔を上げる。大分陰りが強くなった空間にぼんやりと浮かんだ男性へと視線が停まる。時折悪態や嫌味を言われるが、自分に野球の楽しさや奥深さを教えてくれた尊敬する兄の顔へと。


「……兄さん、早かったんだね」


「あぁ、まぁ……なっ!」


 肩に担いでいたバットを一度降ろすと、自然と構え、まずは一振り。奏へと応えながらの軽くのスイング、昌也にとって肩慣らし程度でも奏にとってはあこがれの対象。鋭く切り裂く一閃に見惚れながらも


(……私もこんなスイングが出来たら……)


 きっと、彼女の球も難なく打ち返せるのだろう。佐々田 梢、彼女が放ったあのすさまじいストレートも差しこまれる事なく、


「……奏、バッティングってな」


 ブンッ!

 未だ空気を切り裂く音を繰り返しながら、昌也が言う。落ち着き払いながら、だけど、手に込めた力だけは抜くことなく、優しく語りかける。


「必ずしも綺麗に打ち返すのがっ、正解じゃっ、ないんだ、ぜっ!」


「えっ?」


 何の脈略もない話に奏は面食らう。だが、そんな事気にする素振りすら見せず、昌也は素振りを続ける。


「詰まったってっ、落ちればちゃんとしたっ、ヒットなんだっ!」


「そんな事……」


 知っている。球威に負けて、だけど、うまい具合に内野の頭を越え、外野の前に落ちる。そんな事、プロでもよくある事だ。


「だけど……」


「そうっ、それじゃあ自分が納得できないっ、それも分かる」


 一息つくようにバットを寝かし、奏へと向き直る昌也。その瞳は暗がりの中でも輝きを放ち、奏を引き付ける。


「でもな、それを狙ってやったら、どうだ?」


「狙って……」


 一度は否定しようとした瞬間、奏の脳に光が走る。まるで、昌也の言葉が頭の中を刺激するかの如く、言葉が明確な形を晒し、残ろうとする。


「……いわゆるポテンヒットってな、守備側にとっても結構やっかいなものなんだ」


「……」


 沈黙を肯定と受け取ったのだろう、いつにも増して意地悪い笑顔になった昌也は、自らのバットで示す。それはまるで、あの場面、自分ならどうするのか、再現して見せるように。


「打ち取った、そう思った打球ほど、それがアウトにならなかった時のダメージは大きい、だから……」


 いつものスタンス、バットの先を天に向け、自然と足を緩やかに保ちながら独特のリズムを刻む。そして、見詰める先の暗闇に彼女の姿を映し出すと、彼女の始動に合わせるようにすり足でタイミングを計り、


「狙うのも一興っ!」


 ブンッ!!

 無風の中を重低音が切る。果たして、昌也と奏の瞳には詰まりながらも上がったフライが、セカンド定位置を越え、ライトの目の前に落ちる。根拠はない、だけど見えた景色が同じだった事、おどけたような表情でこちらへと向き直った兄からそう感じ、奏は小さく頷いた。


「……んじゃ、晩飯当番俺だから」


 振り切ったバットを再度肩へと担ぎ、背を向ける。相変わらず多くを語らず、だけど的確なポイントだけを残していく兄へと感謝しつつ、再度彼女は対峙した。いつの間にか星が瞬く漆黒の中、浮かび上がった彼女が放つ一撃に向けて、奏は振り切った。昨日までとは違う、自信に満ちたスイングで彼女の白球へと何度も何度もチャレンジするのだった。

こんばんわ、作者です。


ジメジメと梅雨空が続いてますね。

でも来週にはもうしかしたら梅雨明けかもしれないらしいです。

そうなると一気に気温が高くなり、夏へと一直線。

個人的には暑さに弱い自分なので、ちょっと億劫ではありますが、

夏の晴天を早く見たいものです。


ここまでお読み頂き、ありがとうございます。

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