波瀾は彼女と共に 14
昌也達が自分達のグラウンドで騒がしくしている頃、奏は一人静かにカップを傾けていた。まだ誰も居ない、少し暗がりの店舗内はまさに貸切状態、心落ち着くクラシックのBGMを耳に残しながら、一口すする。
「……はふぅ〜……」
普段はあまり飲まないコーヒーだが、入れたミルクと砂糖によってもたらされた甘さに思わず安堵の吐息を漏らす。
「……かなちゃん、隙作りすぎやっ!」
「わっ、ちょっと先輩っ!?」
いつものテーブルとは違う、カウンターに腰を下ろしていた奏の背中へと突撃を仕掛けたのは真琴。店の中ではもう当たり前になったキッチリしたワイシャツとタイトスカート、その上からかけられたエプロン姿は端からみれば大人な女性を醸し出しているはずなのに、じゃれつく姿で全てが無へと化す。
「……真琴」
そんな真琴を静かに目で制す男性が一人。カウンター越しで布巾を使いゆったりとした動作でカップを整える姿とは裏腹に、背中から放たれる覇気にはあからさまに姪を咎める景色が見える。
「ウッ!……冗談やて、そないコワい顔せんといて……」
呟きながら、渋々といった表情で奏から離れる真琴。いつもとは違う、まるで飼い主に躾けられた小動物のような先輩の姿に苦笑しながら、奏は男性へと顔を向ける。正直、奏にはどこが恐ろしいのか分からない、優しげな表情に目をパチクりしていると、苦笑いを浮かべながらこの店のオーナー羽鳥 雄一が口を開く。
「ごめんね野田さん、うちの真琴がいつもいつも」
「あっ!いえいえ、もう慣れっこなので。後、奏でいいです」
そう、優しく語られる短い肯定に、奏は慌てて視線を外し、カップの中身を口へと当てる。
(これが、大人の男性、なんだろうなぁ……)
優雅な立ち振る舞いとどこか余裕を感じさせる仕草は、奏にとって未知なる相手。今まではどちらかと言えば血の気の多い、所謂、気性が荒い人々が多かった。なんせ、ほぼ野球に関係ある相手がほとんどだったから。兄にしても、自分の周りにしても、羽鳥のような男性は初めてであり、奏にはとても珍しく映っていた。
「……奏さんは練習しなくていいのかい?」
「えっ!?あ〜、ハイ、今は一人でやってます」
だからだった。店支度の手を止めず、唐突に話しかけられた内容に奏は反射的に肩を震わせた。しかし、暫し頭を動かした後、照れたように答える。
「流石に相手チームと一緒にやるわけにはいかないので」
「そうだね」
カップに視線を落しながら続けた奏、数日前まで一緒にやっていた人達が、今は敵となった状況に何かを察したのか、羽鳥は静かにカップへと追加のコーヒーを注いでくれる。小さく漏れる、水滴の音を心地よく感じながら、白く映えた陶器を黒く染めていく様子を見つめる。
「……すまないね、僕のせいで」
「いえっ!そんな事……」
否定する事が出来ず、語尾が萎んでいく。それは羽鳥に苦笑を与えるには十分だった。
「……あの、こんな事、聞いたらご迷惑かもしれませんが」
「どうぞ」
だから話題を変えようと、浮かんだ記憶に飛びついた奏。ただ、少々ナイーブな内容のため、羽鳥の言葉と共に交換されたミルクポッドと角砂糖が入ったバケットを差し出された際、どちらに対してか一瞬迷った奏であったが、意を決し彼女は口にした。
「羽鳥さんはどうして、野球、辞められたんですか」
こんばんわ、作者です。
今日から7月、今年ももう半分終わったんですねぇ……。
いつもこの場でよく出す話題ではあるんですが、早い、本当に1年が早く感じる……(笑)
これが年のせいなのか、はたまた老化のせいなのか、恐らくどっちもなのでしょうね(笑)
ただ、昔に比べると健康体になった体で徐々に迫る40代の壁も
スルリと乗り越えていきたいな~、と思いながら今年後半も頑張っていきまっす。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




