波瀾は彼女と共に 12
「ふむ、まぁまぁですわね」
地面を踏みしめながら呟いた声にグラウンドにいた全員が視線を向ける。既にアップを済ませた昌也はもちろん、それに付き合った梢や今日から合流の稼頭美やマリアナ等、言わば兎志子とそのお付き以外は揃っていた。
「あ〜兎志子、とりあえず照明付けてくれ、頼む」
「……ベンチ横に付いてませんか?」
昌也の言葉に対し、冷静な指摘をする兎志子、それを受けて梢がトコトコとベンチへと見に行く。小さく唸りながら少し辺りを見渡した後、笑顔に変わった表情が指で何かを押し始めると、
「……おぉ……」
暗闇に慣れた目には少し刺激が強い光がグラウンド内に降り注ぐ。一気に明るさを取り戻したこそは屋根を除けばほぼ昨日と同じ自分達のホーム、それを再確認出来た。
「梢先輩、横にあるコントローラーのスイッチも入れてくださいませ」
「オッケーッ!」
威勢よく返答した梢が少し迷いながらボタンを押すと、静かな駆動音と共に微かな温もりが空から落ちてくる。緩やかに、実にゆっくりとグラウンド内を柔らかく満たすように。
「これって、暖房?」
「ウーン!ジョジョニキモチヨクナッテキタヨッ!」
ラテン系出身のマリアナの気持ちに火が付いたようで、歓喜の声を上げながら走り出す。それを慌ててとめようと稼頭美が追いかける。今年始まって以来の下級生漫才に生暖かい視線を見送りつつ、昌也は兎志子へと問い質した。
「で?いくら積んだんだ?」
「無粋、ですわね」
軽く肩をすくめながら昌也へと応える兎志子。こちらも相も変わらず睨むような久子とめんどくさそうな俊恵を携えながら、しかし、今回はどうやら少々違った一面を見せた。
「……ホントの事いいますと、これはトライアルですの」
「トライアル?」
昌也がオウム返しに呟いた言葉に小さく頷きながら兎志子は説明が始まる。今回のこの屋根、実は兎志子の父で鷹金家の総師、鷹金 総一郎の投資先からの依頼であり、いわば実験段階の試作品。
「天井に備えたソーラーパネルのみで照明、空調、その他諸々を補えるか、それの実験ですの」
今や人間とは切っても切り離されなくなった電力は、様々な方法で生み出されている。しかし、それを生み出す事による問題も少なからず存在している。その中で太陽光発電は比較的環境にも配慮され、一躍注目を集めている。定期的な発電効率が生み出せるようになれば、それこそ、今のエネルギー問題について解決の糸口にすらなる。であれば、正にその先には金山が眠っていると言っても過言ではない。そう、いわば投資家から見れば魅力的な商材。
「前々から父に言われておりましたの、それが去年の暮の挨拶で一気に話が進んだようで」
そこで珍しく兎志子がため息をつく。元々、家庭についてあまり話したがらない、むしろNG扱いであったため、昌也の瞳にはより新鮮に映り、口を挟まず黙って先を促す。
「新年早々にも言われてましたので、ここしかない、と思いましたの」
「ここ、って、試合と?」
どう繋がるのかよくわからない昌也に兎志子が勝ち誇ったかのような微笑でさらに続けた。
「えぇ、少なくとも試合をすればそれなりに人がいる状態での連続稼働時間のデータがとれますし」
「……いや、それは別に普通の練習時でもいいんじゃ」
「向こうはある程度実用的なデータが欲しいようですの、だから、我が部の人数のみでこの広さとなれば少々データ不足なのです」
なるほど、兎志子の言う事に唸りながら呟き、ふと疑問が浮かぶ。そして、再度聞いた言葉を反芻し、その答えを口に出す。自分でも気持ち悪いほど、下手な声音で。
「えっと、兎志子、さん?」
「なんですの?」
「観客が入る事、知ってるんですか?」
「えぇ、もちろん」
ニッコリと、素敵な笑顔で返された昌也に一筋の汗が流れる。なぜなら、後ろで控えていた久子がここぞとばかりに覇気の灯を映し出す。まるで背中に猛獣でも飼ってるかのような空気は、流石の昌也も目を背けたくなる、が、
「わたくしのグラウンド、ではありませんが、あまりに好き勝手されると非情に困りますわねぇ」
「ハイ、ご迷惑をおかけします……」
全ての事情が既に筒抜けになっていたため、結局昌也はその場で頭を下げるしかなかった。
こんばんわ、作者です。
やっと梅雨らしくなってきた今日この頃、交流戦が終わりましたね。
我が贔屓球団は最後にものすごい失速で、正直ショックが大きく……。
まぁ、ほぼ五分で終えられたのはいい事かな、と思ってます。
後はオリンピック次第ではありますが、そこまでの1ヵ月が前半戦最後の勝負どころ。
明日からの試合、期待したいものです。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




