波瀾は彼女と共に 05
陽も昇り、徐々に温かみが感じられる頃、昌也達は目的地に到着した。田舎の、しかも小さな町村であるここ大山に唯一ある神社にはそれなりの賑わいを見せていた。
「ほほぉ、正月はやっぱ人そこそこいるね〜」
「いつもは閑散としてるんだけどね」
体を左右に揺らしながら鳥居の先まで視線を這わせる梢に、苦笑いを浮かべながら同意する千尋。言われて昌也も確認すれば、老若男女、様々な年代の人達が顔を見合わせては挨拶し、一方では談笑が弾み、また一方では騒がしく駆け回り、また一方では勝手にシートを貼って酒盛りが始まる。
「……ほんと、ザ・田舎って感じだね」
「あぁ……これほど、とは」
昌也や奏にとって少々カルチャーショックな光景だった。少し頭を下げ、軽く言葉を交わす程度の隣人が、ここでは下手したら数時間立ったままで話し続ける友人と化す。根っからの都会っ子の二人にとって奇妙な現実に呆然としていると、彼女がやってきた。
「あっ、コーチ」
呼ばれ慣れた声に昌也の意識が地に戻り、視線を向ける。目の前には見知らぬ女性がいた。朱色の袴と真っ白な装束を身に纏い、きれいに梳かれた髪を小さく揺らし、モグモグと口を動かす仕草はいつも通りの、
「……ん?いつも通り?」
そして上がった疑問に再度目の前の女性を見やる。キョトン、とした表情と小首を傾げる仕草に見覚えを感じ、脳をフル回転させる。グルグル回る画像と照らし合わせる中で、しかし、該当が見当たらず、焦りが募る。失礼ではあるが、誰か尋ねればいいのかもしれない。だが、それなりに記憶力には自信があった昌也の小さなプライドがそれを許さず、更に深堀している最中、横から助け舟が上がる。
「えっと、もしかして、ちゃんこ、先輩?」
「……はぁっ!?」
指差しながら出てきた奏の言葉に昌也が驚愕を上げる。それは周囲の注目を引くには十分であり、当然、梢と千尋が何事かと、こちらへ顔を向けると二人は笑顔で清楚な彼女へと話しかけた。
「なに?って、なんだ、ちゃんこちゃんか」
「ちゃんこちゃん、あけましておめでとうございます」
「ん、おめでとう、千尋」
全く違和感無く、談笑を始めた三人。その様子はグラウンドでよく見た光景。仲睦まじく、違和感が、無いわけ無かった。
「まっ、待て待て待てっ!?」
「もう、な〜にぃ〜、昌君は」
「コーチ、お腹でも空いた?」
ちゃんこと呼ばれた女性がカサカサとたもとを探ると見慣れたカロリー食を取り出し昌也へと差し出す。確かにその仕草と雰囲気はちゃんこのそれであり、戸惑いながらも受け取った昌也は今一度梢と千尋へ説明を求める視線を送ると、
「えっと……ちゃんこちゃんの実家がこの神社って言ったっけ?」
「いや、初耳だ」
とりあえず、開封したカロリー食をパクつきながら昌也の首が横へと揺れる。その姿に、奏を含めたその場にいた女性全員がため息をつき、更に昌也を戸惑わせる。
「まぁ、そうですよねぇ……」
「野球以外、私たちに興味ない」
「すいません、こんな兄で……」
平謝りの妹の姿はどうしようもない屈辱と怒りを昌也に与えたが、ここで反論してもロクな結果にならない事は場の空気で察知し、黙ってる事で先を促す。それを敏感に察した梢が苦笑しながら続けた。
「まぁ、ここが実家で、忙しい時期はちゃんこちゃんも手伝ってるのがいつもの事なんだけど」
「……正月時期は外回りの人も足りないからこれ着ないといけない」
言って、その場で身を翻すちゃんこ。その姿は機敏で、フワリと舞ったたもとが優美さを演出し、彼女の姿に可憐な印象を与え、
「って!?なんで、こんなにスラリとしてるんだよっ!?」
全く違う体型となった彼女に突っ込む昌也、それも当然だった。数日前まではどんな球でも受け止めそうな恰幅の良い捕手だった彼女が、まるで新人気鋭の俊足野手のような細身を帯びた姿で再び小首を傾げている。どう考えても現実離れしたそのビフォーアフターに触れられずにはいられない昌也であったが、
「えっと……そうなりますよね」
「装束着るのに痩せるのは必須」
「まぁ、そんな訳なんだな」
勝手知ったる三者にはサラリと流されつつの返事と、同時に頷く姿にどこか敗北感を感じた昌也は食べかけのカロリー棒を一気に貪るしかなかった。
こんばんわ、作者です。
4月も後半、大型連休の足音が聞こえてくる時期ですね。
私は特に予定なく、休み中は自宅で毎日のんびりって感じになりそうです。
まぁ、どこの地域も某コロナの影響で色々と難しい状況なので、
予定がない限り大人しくしておくのが吉、なんでしょうね。
みなさんも、感染には十分気を付けて。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




