波瀾は彼女と共に 04
兄妹の些細な喧騒を一通り終えた二人が幸一郎へ出かける合図をかける。それと同時に開いた扉の先で、昌也と奏は顔を見合わせた。視線の先、広がる玄関前の敷地には後ろ姿の梢。何やら訝しげな佇まいで不安になりつつも、一歩先へと踏み出した昌也が声を上げた。
「梢〜、待たせ……」
「ふぁ〜〜〜っ♪」
昌也の声を妨げるように上がったのは奏の感嘆。そして、奏は走り出す。こちらに気付いた梢が振り向いた先、いつもとは違う彼女の姿を見つけると、まるで子犬のようにじゃれついた。
「きゃ〜っ♪可愛いですっ!素敵ですっ♪」
「ちょ、ちょっと奏ちゃん!?」
女子特有の高いキーが飛ぶかう最中、昌也は頭をかきながら梢の隣に並ぶ。
「んで?どういうこった?」
「えへっ♪いいでしょ〜」
腰に手を当て、胸を張る梢の姿を横目に改めて目の前の彼女に視線を向ける。淡い薄紫の着物、それに合わせた帯はワンポイントとして添えられた花が優雅で艶やかさを引き立てる。元々ショートの髪のせいもあって、まるで日本人形のような出で立ちに昌也は顎に手をやりながら呟いた。
「まぁ、悪くない」
「ちょっと、兄さんっ!!」
すかさず反応したのは奏だった。先程、玄関内でのやり取りを蒸し返すように再度始まった兄妹の喧騒で一息つけた着物姿の彼女はヨタヨタとおぼつかない足取りで梢の横に並ぶ。
「まだ慣れない?千尋」
「あっ、うん、大丈夫」
安心させるかのようにほんわかした顔を向ける千尋、いつもと変わらないはずの笑顔は、着物という、いつもとは違う姿だからこそ、その破壊力を増幅させる。無論、それは異性だけでなく、同性にも効果は覿面で、
「キャ〜〜〜ッ♪千尋せんぱ〜いっ♪」
「あぁっ!?またぁっ!!」
繰り広げていた兄との戦争を勝手にやめた奏が再度戻ってくる。その結果、玄関先では暫くの間、ミーハーな声音と慌てふためく焦り声とため息と、繰り広げられる情景を楽しむ姿が見られるのだった。
「で?もう一度聞くが、どうしたんだ、千尋は」
あの後、何とか落ち着きを取り戻した4人が初詣へと赴く最中、昌也が梢へと問いただす。目の前ではニコニコ顔で話す奏と少し戸惑い気味の千尋が並んで歩く。その姿を一瞥しながら、梢は小さく唸り、答えた。
「実は私の趣味、になるかな?」
「お前の?趣味ぃ?」
訝しげな昌也の声音に思わず笑みを零しながら梢は続けた。
「私、小っちゃい頃からお母さんに何かと着物着せられててね、その影響で着付けとか得意になって」
思い出すように空へと視線を上げる。新年初日にふさわしい、雲一つなく澄んだ空はそれだけで心を和まし、口を軽くする。
「だんだんと自分で着せる事に目覚めたっていうか、自分以外の着物姿見るのが好きになってね」
そして、視線を戻す。自ら着せたその姿を目に納めながら優しい微笑みで更に語った。
「それで、去年千尋にも着せたんだけど、それがすごく可愛くて今年もやったって事♪」
「なるほど」
ある程度納得したのだろう、顎に手を添えながら呟いた昌也は再度前方の二人を見やる。未だ戸惑いが隠せない千尋と逆に楽しむ姿を前面に押し出す奏。対象的な二人、しかし、廻りを纏う雰囲気は先輩後輩を越え、友人とも取れる女子特有の華やかさが有り、ふと昌也は思い立つ疑問を口に出していた。
「あいつらって、いつの間にあんな仲良くなったんだ?」
「へっ?」
まさかの素っ頓狂な返事に、昌也は不思議そうに視線を向ける。自分としては変な事を言った覚えはないのに、瞳が捉えた梢の表情はまるで異星人を見るかの如く、驚きと戸惑いが入り混じっており、ため息へと変わった。
「……昌君もやっぱ男の子って事か……」
「なっ、なんだよっ!?」
流石の昌也も梢の半眼に焦りを覚え、語尾が上がり、そして、失敗した事に気づく。この展開、梢に優位が取られたこの状況、この後に控えるは梢の挑発と人を小馬鹿にした笑顔。何かと昌也に色々な意味で突っ込まれる事が多い梢が反撃できる唯一のチャンス。しかし、今日はいつもとは違った。
「……なんか、奏ちゃんが気に入ったみたい、千尋の投球を」
「はっ???」
腕を組み、少々不機嫌そうに答えた梢に昌也は間抜けな顔を晒す。しかし、梢は全く気にする様子は無く、淡々と話を続けた。
「よっぽど千尋のアンダーが気に入ったみたいで……、ちゃんこちゃんもライバル意識ものすごいかったでしょ?」
「お、おぅ……」
言われた内容に全くピンとこない反応を示す昌也に追いうちのため息を吐きつつ何かを諦めたような表情の梢。未だ前方で花開く会話とは正反対である梢の説法は結局目的地に着くまで終わる事はなかった。
こんばんわ、作者です。
今回は超珍しく真面目な話などを。
とあるツイートを見ててふと思った思った事なんですが、
文字の表現って色々あるんだな、と、今更ながら(笑)
例えば、『クソが』って文字、これこのままだと多分二通りの感情があると思うんですよ。
1つは、理不尽な事に対する怒りの『クソが』
もう1つは、悔しさの意味を込めた『クソが』
単純に『クソが』だと読み手はどっちにも取れると思うんですが、
ここで例えば『クソがっ!!』って語尾を強調する形にすると怒りが見えてきたり、
『クソが……』って逆に萎めると悔しさが滲み出てきたり。
この辺の使い分けって結構自分はあまり気にしなく、単純にやっていたんですが、
もっと考えてやると色々書く楽しみにもなるのかな~、と思った次第なんです。
単純に『クソが』であえて書く事で読み手に状況を検討し、どっちなのかを判断してもらう、
そんな表現の仕方もあるんじゃないかと。
まぁ、結局何が言いたいかというと……精進します、って事ですね。
今後、私の文面に変化があった時は、なんか試行錯誤してるんだな、と生暖かい目でみてもらえるとありがたいです(笑)
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




