波瀾は彼女と共に 03
「じゃあじいちゃん、ちょっと行ってくるわ」
手早く支度を終えた昌也が居間で寛ぐ幸一郎へと気だるく話しかける。明らかに嫌そうな孫の態度は祖父としておもしろかったのだろう、顔にあざとい笑いを携え、幸一郎は返事をした。
「おぅ、楽しんでこい」
ヒラヒラ揺られたしわが目立つ手を憎々しげに数秒睨んだ後、昌也は玄関へと向かう。頭をかきながら数歩で辿り着いた縁へと腰を下ろし、目の前にあるスニーカーへと手を伸ばす。一緒に出掛ける奏は恐らくまだ準備に時間がかかるだろうからと、緩慢な動作で紐を一度解き、足を通す。正月早々、梢と出かけるという罰ゲームに満ちた感が徐々に込み上げてきた昌也は自然とため息をつきながら、重く感じる靴ひもを再度結び直していく。ゆっくりといつも以上に丁寧な蝶結びを完成させた後、ふと立ち上がる。その場で上げた足はいつも通り素直な反応を返し、足裏には大地の感触。
「……今日も調子はよしっ、と」
「お、お待たせ〜」
バタバタと勢い階段を駆け下りる音と共に妹がその姿を現す。いつものショートポニーとは違い、セミロングの髪をシュシュで束ね、肩へと垂らし、服装も昌也が見た事ないブラウンのコートとチェックのスカート。いつものスポーツウェアとは全く違う妹の姿に昌也は凝視した。
「えっ?どこか変?私?」
顎に手を置き、睨みつけるような眼差しの兄、その答えは自分の服装にあると思った奏はその場でくるくる回りながら身なりをチェックする。もちろん、どこか変な場所はない。そんな中、昌也は唐突に言った。
「馬子にも、」
「兄さんっ!!」
そして、玄関先では大声での戦闘が始まる。まるで動物の鳴き声の如く、わめき散らかす喧騒を耳へと通しながら、幸一郎は一度茶をすする。いつもとは違う、久々に騒がしい我が家の正月。去年までは一人静かに色々な想いを馳せていた場所で、ふと、顔を天へと送る。瞳が捉えるのは照明のみ。しかし、その視線は更なる果てへと伸ばす。今も見守っているであろう彼女の顔を思い浮かべながら。
「どうじゃ?笑える、じゃろ?」
呟きに返事が返る。誰にも聞こえない、聞こえるはずがないその言葉に満足そうな笑みを携えながら、今一度少しぬるめの茶をすする幸一郎であった。
こんばんわ、作者です。
4月に入り、だいぶ落ち着いて、と思ったらなんか疲れる日々を過ごしております(笑)
でも、今年は意外と花粉症との争いが少なく、それだけでもとても助かっていたり、
……まぁ、これから悪化する可能性は十分あるんですけどね(笑)
兎にも角にも、しばらくは体力的に奮闘する日々になりそうなので、
弱まった時に某病気にならないよう、気を付けたいところです。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




