波瀾は彼女と共に 02
正月早々、昌也は露骨に嫌な顔を目の前の女性に向ける。しかし、当の本人はいつもの如く、ニコニコ笑顔を展開し、相手の返事を待つ。端から見ても異様なこの景色はほんの数分前から始まった。
新年を祝う食事と歓談を朝から始めていた源田家。一通り食事も終わり、腹を満たされた幸福感から各自がそれぞれの思いで動き始めた頃だった。
カラーン
昔ながらの来客を告げるチャイムが室内に木霊する。音に反応した昌也と奏は互いに顔を見合わせ、いち早く動いた幸一郎は既に部屋を後にし、玄関へ。鍵を開ける音と共にカラカラとスライドされたドアの音に乗せ、やってきた声に昌也は忘れていた記憶が戻る。
「明けまして、おめでとうございまーすっ!!」
いつにも増して元気印の声に即立ち上がった昌也。その速度は幸一郎が居間へと声をかける前に姿を見せる程、圧倒的な対応の速さに思わず苦笑しながら幸一郎は口を閉ざしたままその場を譲る。
「……明けまして、おめでとう」
「おめでとうっ!昌君っ!!」
始まったのは沈黙、そして、今に至る。二人の空気感を察したのか、遅れてきた奏が場を休めるように後を紡いだ。
「佐々田先輩、あけまして、おめでとうございます」
「おめでとうっ!奏ちゃんっ!ってか、梢でいいって」
「あ……えっと……」
合同練習の時から言われていた事にチラリと視線を横へと泳がせ兄の反応を伺う。瞬間、見えた口元の動きに奏は答えを導き出した。
「善処、します、ハイ」
「ん〜っ?まぁ、いいか」
奏の曖昧な返事に訝しげになった梢だったが即座にに切り替える。再度、昌也へといつもの笑顔を向けながら。
「でっ、昌君、準備OK?」
「なんのだよ……」
ぶっちゃけ分かっているのだが、わざとはぐらかす。そうしないとせっかくの平穏な正月がぶっ壊されると捕手ならではの感が働いた昌也は鍛えられたポーカーフェイスで平静を装いつつ免れようとするが、
「あー無駄無駄、ちゃんと約束したんだから」
「……オイ、約束した覚えはないぞ」
梢の決めつけたような物言いに苦言を呈す昌也。ただ、心の中では既に半分諦めていた。こちらに来て数か月、本当にまだ短い時間しか共有していない中で覚えたのは梢も例に漏れず投手なのだという事。
「でも、来てくれる、でしょ♪」
時に傲慢で我を貫くからこそ、投手は一人でもマウンドに立てる。昌也は投手という人種をそう評価している。だから目の前の笑顔にため息をつくしなかった。
「……奏はどうする?」
「えっ!?あっ……と、じゃあ」
兄の問いかけにコクリと頷く姿を見た昌也は捻っていた体ごと再度梢へと戻し、ぶっきらぼうに告げた。
「じゃあ、少し待っててくれ、支度してくる」
「んっふっふ♪ごゆっくり~、外で待ってるから~♪」
いつにも増して不気味な笑いを手で隠し、スキップしながらドアレールを越えていく梢。その後ろ姿にとてつもない不安が増した昌也ではあったが、既に一線を越えた現状では諦めの息をただただ漏らす事しかできなかった。
こんばんわ、作者です。
3月が終わり、4月に突入し思った以上に忙しくなってます、ハイ。
まぁ、でもこのご時世、忙しいのはある意味幸せではあるのかもしれませんが、
出来れば、もう少しまったりできる時が欲しい……欲しくない?
そんな感じで、今月はちょっと、更新難しくなる時があるかもしれませんが、
継続できるよう、頑張ります。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




