波瀾は彼女と共に 01
深い闇が徐々に明るみに変わる頃、彼はいた。
いつもと変わらぬ姿で、いつもと同じ立ち振る舞いで、霜が降りた土をサクサクと歩み進める。
「去年も生き延びちまったのぉ」
白い吐息に乗せながら漏らした呟きは誰にか。その答えを目の前に捉えながら彼は始めた。持ってきたバケツの水へと布巾をくぐらせ、凍りつく手に気合をのせながらしっかりと絞る。ポタポタと垂れる雫が時折光を反射させ、暗闇を照らす。
「……今年もそっちにいくのは遅れるかものぉ」
搾りかすを払うように一度大きく宙へと広げながら、渇いた空気に小さな破裂音を響かせる。心地よく耳に届いた事に満足し、再度小さく折りたたみ、一歩踏み出す。目の前に刻まれた愛しき文字へと感傷を伴いながら、彼の手は動き始めた。
「でも安心してくれ、今年は少々違ってのぅ」
胸ほどあるその物体に語りかけるように彼は布巾を滑らせる。頭からつま先まで丁寧に、一つ一つ、想いを込めるように布巾を潜らせていく。
「まぁ、これは去年言ったか、昌也と奏がまだいてのぅ」
慈しむように優しく撫でている最中、キュッと小さな相槌に彼は顔を緩ませる。ふと視線を上げればいつの間にか夜空は明るみへと変わり、彼の手が通り抜けた部分がキラキラと輝く。まるで、記憶に残る彼女の微笑みの如く魅力ある煌めき。
「……もうしばらくは、そっちに行くんは難しいかも、な」
だが、彼は断った。まだ自分にはこちらに残る意味があったから。それが終わるまでは、あの日から一度も欠かしたことがないこの行いを続ける。
「だから、もうしばらくは……」
新年初日、いつにも増して仕上がったそれを見て、彼は満足し、勺を持つ。別に用意していた桶から雫をすくい、頭へと流す。ゆっくりと、静かに伝っていく、否、染み込んでいく姿を見ながら彼は言った。
「もうちょうっとだけ、待っててくれや」
注ぎ終えた彼はしばしその場で手を合わす。源田 静恵と書かれた文字に向けて彼は本年最初の祈りをささげた後、陽が差す我が家へと足を向けるのだった。
こんばんわ、作者です。
さて、開幕まで後1日です。
何かって?もう、言わなくても分かります、よね(笑)
今年はどんなドラマを魅せてくれるのか、もうワクワクが止まりません。
我が贔屓球団もポジティブ要素満載で明日を迎えます。
まずは一勝をしっかり取ってほしいものです。
頑張れっ!イーグルスっ!
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




