始まる合同練習 12
ブンッ
寒空で乾燥した空気を鋭く切り裂く。田舎特有の満開の星空の元へはじけ飛ぶように大粒の汗が宙を舞う姿を見ては即座にスタンスを戻し、イメージ。今日経験した苦い思い出を振り切るように力強くバットを薙ぐ。
ブンッ
いつもに比べやや重めを選択したのは正解だったようで、徐々に荒くなる息と上昇する体温が奏の気持ちを高ぶらせ、適度な疲労が心の奥底に溜まった黒い煙を消していく。
ブンッ
初速の違う真っ直ぐ、外角に逃げるスライダー、内角を切り裂くシンカー。一つとして攻略できなかった球が目の前の虚空から放たれ、合わせたバットに溶け込むように消えていく。
「……もう一球っ」
それらを攻略する術はまだ見えない奏。だが、ヒントを得たあのスイングを真似るように更に1時間、彼女の素振りはひたすら続くのだった。
「……まだやってるのかのぉ」
「あぁ、みたいだな」
ちゃぶ台に残る茶をすすりながら、夕刊へと目を通す事をやめない祖父 源田 幸一郎が独り言のように呟きを昌也が答える。その手にはカチャカチャと忙しなく鳴る食器たち、じゃれつく子供のように丁寧に片づけながら、ふと、昌也は夜の帳が広がる窓へと視線を向ける。その先にある広場では暗がりの中未だ一人で素振りする奏の影がうっすらと伸びていた。
「止めなくてえぇんか?」
「今日はやらせといたほうがいい、かな」
一息ついた昌也が流し台から離れ、祖父が腰を据えている茶の間へと自らの湯飲みを持参して戻る。あまり熱いのが得意でない昌也自ら調整したお茶はそれでも悴んだ手に耐え難い痛みを伴い、ちゃぶ台へと湯飲みを置いた瞬間その腕を激しく振り気をそらす。
「……そんなに今日は悔しかったんか」
「あぁ、かなりショック受けたんじゃないかな」
相変わらず夕刊から顔を上げずその想いを読み取れない祖父へ、相槌を打ちつつ返答した昌也は口元をお茶で潤す。少し渋すぎた湯飲みを一瞬睨みつけ、しかしどうする事もできない昌也は諦めながら更に傾ける。
「……ふむ」
どちらに対してか、判断しづらい幸一郎の吐息を横目でみつつ、スマホの通知を確認する昌也。果たして、そこには簡潔で世にも珍しい一文が届いていた。
『妹さん、は大丈夫なのか?』
差出人の欄に踊る慎吾の文字と文面を見比べつつ、その意図と目論見を捕手ならではの思考で検討する、が。
(まぁ、普通に返せばいいか……)
相手が相手なので、今の状況を嘘偽りなく記入し、送信。すると、その返事は思った以上に早く返ってきた。
『そうか……』
(なんだ、こいつ……)
プライド高く、特に女性に対して負けん気が強い性格のはずの慎吾からの返事はあまりにも神妙すぎる文面、既に既読してしまったが、ここはあえて何もせず無視を決め込むことにした昌也は立ち上がる。
「じいちゃん、まだ飲むだろ?」
「あぁ、頼む」
空になった湯飲みへと補給するため、調理場へと残していた急須を取りに行く。夕刊が捲られる音が占拠する茶の間から抜ける事で昌也の耳にその音源が再び響く。闇夜に鳴り続ける旋風は未だ一定のリズムを刻みながら昌也の胸中と思惑に様々なしこりを与える。それは昌也に小さなため息をもたらせるほど、深い深いものだった。
こんばんわ、作者です。
近頃暖かくなったかと思ったら、昨日今日は一気に寒くと
気温の上下が体に響くいやな毎日ですね。
どうやら週末から週明けは一気に気温が上がるようで……。
少々体調管理が難しい日々が続くようですが、しっかりと整たいものです。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




