始まる合同練習 11
「……くそっ……」
普段なら使わない言葉が自然と口から放たれる。それは自らの不甲斐なさが故、永遠とも思える土のグラウンドに視線を固定しながらゆっくりとベンチへと戻る奏。一歩一歩、悔しさを噛みしめるように足跡を残しながら歩を進める。
(全然、歯が立たなかった、な……)
男子、しかも県内ベスト4の投手。当然簡単な相手でない事は分かっていた。だけど、心のどこかでは喰らいつける、良い放物線が飛んでいく事を想像していた。
(……ふたりめ、か……)
今日だけで2度目の敗北、頭の中に残ったのは惨めな場面、空振り、ボテボテのゴロ、力なく打ちあがるフライ。繰り返す度、心が曇った奏はその気持ちを少しでも楽にさせるために小さく吐息を漏らしながらベンチへともたれかかった。
「お、おつかれ、さま」
「あっ……はい、おつかれさま、です……」
恐々とか細い声に気付いた奏は視線を上げながら応えた。練習のため、ほんの細やかな時間だけ組んだ相方、千尋はどこか心配そうな瞳でこちらを見ている。そう思えれば、どんなに良かったか。
(……つらい、な……)
今の奏にとって千尋は見たくない対象だった。こちらの想いを気にしてくれてるのは分かる。だが、その姿は更に自分が惨めな存在へと誘われていく。得意なはずの野球で打ちのめされた。言い訳出来る要素はあれど、この世界は結果が全て。そして、肝心の結果は惨敗。一矢報いる事も出来なかった。
(……ほんと、みじめ……)
「あっ!あのっ!!」
唐突に上がった声に心臓が跳ねる。その勢いで足元へと垂れていたはずの頭が持ち上がり、その姿が視界に入った。バッターボックス上で堂に入った構えが動く。どちらかといえば横に広い彼女の体幹が手に持った鈍色の光で空気を切り裂く。瞬間、響いたのは甲高い震音。ベンチの奏から見ても、内角に突き刺さるような厳しい球を打席で立っている彼女は打ち返す姿はとてもきれいだった。
「う、そ……」
現実離れした景色は一瞬で終わる。低く鋭い打球は左中間を割って走る、外野が引っ張りにシフトしていても届くかどうか、それほどの球筋がフェンス手前でワンバウンドして弾ける。
「やったーっ!さすがちゃんこちゃんっ!!」
誰が見ても文句ないヒット、余裕のツーベースの当たりに千尋は歓声を上げる。しかし、奏は違った。まるで本番の試合で打ったかのようにはしゃいでいる姿に目もくれず、奏は凝視していた。振り切ったフォロースルーで固定されたちゃんこの姿を、太陽によって乱反射するそのバットの軌跡を深く、深く、頭の中に刻み付けるように。
こんばんわ、作者です。
本日は、野村元監督の一周忌。
当時、TVの速報で訃報を知った私は涙が止まらなかったのを今でも覚えています。
あれから1年、関係した各球団や関係者がコメントしているのを追いながら、
ひっそりと偲びたいと思います。
ありがとう、野村監督。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




