始まる合同練習 07
「もう一球っ!お願いしますっ!」
左打席に入り、少し息を切らせながら気を吐くのは奏。それに応えるように静かに背を向けながら足元のロジンへ手を置く慎吾。マウンドから本塁プレート、その間には耐え難い緊張が広がっていた。
「……意外、だな」
「だね、本当に」
球審を務める昌也の呟きに、いつも通り、柔和な顔をそのままに頷く捕手悠人。奏の希望もあり、午後から始まった実践形式のバッティング練習は予想以上の熱気が詰まっていた。
「くっ!?」
無言で投げられたスライダー、例え女子でも手を抜くことないその変化は左打者である奏の懐へと迫り、無理な体勢で振られたバットの下面を削る。
「……今のはボールだぞ」
「……ハイ……っ」
奏の額に大粒の汗が浮かぶ。それだけ、相手との実力差に愕然としているのだろう。
(今ので……20球、か)
冷静にカウントしていた慎吾の球数と共に、その打球の行方も思い出す。まともに
飛んだ打球は2球ほど、ただ、それも多少球足が早めのゴロで、定位置なら楽にアウトに取られる打球。捉えきれてはいない。もっとも、慎吾とは初めて対峙する相手でもある事からよくやっているとも言える、が
「もう一球っ!!」
結果に満足していないのだろう、即座にバッティングスタイルへと戻り、思考を巡らせながら吠える奏。今度こそは、と力みが見えるグリップエンド、それに気づいているからこそだろう、慎吾はゆっくりとした動作で足をマウンドプレートに付け、投げる。
「ッ!?」
外角高めへと投げられたボールに目線が上がる奏。つられるように膝も浮き、バットを振るタイミングが崩された事を感じた瞬間、彼女の腕が止まる。だが、白球は留まる事なく、ゾーンへと落ちていった。
「ストライク」
無情とも思える昌也の言葉に天を仰ぐ奏。完全に手玉に取られている事に口元を歪める。だが、ここで終わるわけにはいかない、否、終わったら、
(あの球を……打てないっ!)
再度、頭をリセットし、叫ぼうとした矢先だった。小さく、だが鋭く、その言葉が場を慣らした。
「変わって」
聞き覚えのない声に奏が振り返る、と、そこには午後から合流した彼女がいた。
「……慎吾、まだいけるか?」
「あぁ」
消耗を懸念し、声をかけた昌也に何も考えていない返事が戻る。念のため、視線で悠人にも確認を向けるとコクリと頷かれた。
「奏、交代だ」
「で、でもっ」
反論した奏は泣きそうな顔だった。無理もなかった。相手は男子、とはいえ、そこそこやれる自信はあったのだろう。だけど、予想以上に手も足も出せず、満足できるスイングはほぼ皆無、このまま終えるには実に悔しい結果しか残らない、だけど昌也は知っていた。だから、諭すように妹へ告げた。
「奏、ベンチでしっかり見てろ」
小さな喘ぎが空気を震わし、何かを飲みこむ音が響く。下唇を噛みしめながらその身をバッターボックスから外した奏はベンチへと足を向ける。その後ろ姿にどこか後悔の影を携えながら、その身をちゃんこと交差させるのだった。
こんばんわ、作者です。
なんだか最近やる気が出ない日々が続いております。
世間的にも日常的にも閉鎖された雰囲気のせいなんですかね……。
こういう時は何か楽しい事や新鮮な事をしたい気分。
……どこかでひっそり晴らそうと思います(笑)
ここまでお読み頂き、ありがあとうございます。




