始まる合同練習 06
「……そんな感じでやったから」
「……」
陽は既に頂点を過ぎ少しずつ落ち始めた頃、ベンチに腰を据えグラウンドに視線を注ぎながらおしゃべりに耽るのは千尋とちゃんこ。家の事情で午前中は参加できなかったちゃんこは、午後から合流し、軽く体を解した後だった。
「だから、今日はもう投げたから」
「……」
千尋が今日あった出来事を伝える最中、いつもと変わらない咀嚼音があたりを包む。毎回どこから召喚するのか、次から次へと出てくる食べ物をパクつくちゃんこをどこか微笑ましく千尋は捉えている。その風景はさながら、老夫婦の憩いの時間のようで、ある意味ナイスバッテリーと言えよう。
しかし、この後、この光景は一転する、千尋の発言によって。
「あっ、あとね、私の球も誉めてもらえて、」
「……っ」
不意にこぼれた相方の言葉にちゃんこの口が止まる。ただ、それは数秒にも満たない時間で千尋は気付く事はなかった。
「捕手が、ちゃんこちゃんがいなかったから受けてもらったんだけど、」
ニコニコと実に嬉しそうな笑顔がちゃんこへと向けられる。純粋で嫌みがないその表情はちゃんこにとって何杯もいけちゃうおかずであり、しかし、彼女にとって許し難い顔であった。
千尋の球を評価した、という事はきっと彼女の投球術の本質を見極めたのだろう。千尋専属の捕手となってから、否、昌也から捕手を任されるようになってから、ちゃんこは野球が楽しくてしょうがない日々を過ごしていた。捕手として千尋の球をリードする事でゲームを支配する感覚はある意味博打を好むちゃんこにとって、麻薬のように脳を快楽へと導く。ファーストで守備をしている時より、打席で相手のリードを読むより、それは刺激的だった。
「……」
だから、ちゃんこは睨みつけた。今現在、グラウンドで繰り広げられている光景を。
「……」
口を止める事なく思い出す。ここに入った時から見つけた見知らぬ女性、昌也の妹と聞かされただけでも驚きだったが、それ以上に彼女の動きには驚愕が紐付いた。アップのために受けてもらったキャッチボールですら、自分達素人とはどこか違う所作に恐怖すら感じた。そして、今の千尋の言葉。恐らく、昌也の妹はこの冬休みの期間、練習に参加するのだろう、場合によっては千尋の球を彼女が受ける可能性が出てくる。ちゃんこにとって耐え難い状況が。
「あれ?」
だからちゃんこは唐突に立ち上がった。千尋の疑問を覚えた声をかき消すように、食べかけのおにぎりを一気に頬張りながらベンチを後にする。右手には鈍色の、左手には藍色の、それぞれ硬質の物体を携えながら、ゆっくりとちゃんこは動き出した。
新年、あけましておめでとうございます、筆者です。
新しい年が始まり、みなさん、そろそろ日常が戻りつつでしょうか。
私自身は既に今まで通りの日常に既になっていますが、世間ではなかなか……。
激動な一年になりそうではありますが、こちらの更新は平常運転で行う予定ですので、
今年もよろしくお願いします。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




