始まる合同練習 03
寒空に差し込む光が徐々に暖かを覚える。簡素なトタン屋根が鈍色に輝きながら冷え切ったその身を徐々に解凍する最中、寒気を切り裂くようにその音が響く。
「ナイスボールっ!」
ミットに残る確かな重みに満足しながら悠人はマウンドへと返球する。
果たしてそこにはいつも通り、仏頂面を崩さない慎吾がいた。受け取った球を確かめるように手で弄び、いつも通り網目に指をかけながら今度はセットポジションを試す。
「っしっ!!」
多少体に違和感が残る中、振り下ろした腕が白球をリリース。一直線に伸びた軌跡が構えたミットへと導かれる。
「……ちょっと力みすぎっ」
手に走る衝撃の感想を口に出す。長年、幼馴染として受けてきただけに分かるその意見は慎吾にはイラつかせるには十分ではあったが、
「……あぁ……」
淡泊な声が木霊する。明らかに普段とは違う対応。いつもなら乱雑に土を慣らしたり、勢いよくロジンを拾い上げ、土へと打ち付ける等、表現多彩な怒りをマウンド上で展開するのだが、
「……」
今は左手にはめたグラブを前方に突き出しつつ、首を真横に向け、丁度反対側にあろう1塁側のプルペンへと視線を固定している。
その姿の原因を既に察していた悠人は、気付かれない様小さく吐息を漏らしながら緩い球を返球し、腰を下ろす。長年の感がなせる技なのか、見ずともしっかりとグラブに収めた慎吾が翻り、マウンドプレートへと足をセットする
(投げる直前になるとちゃんとスイッチ入るところは誉めるべき、かな)
再びいつもの気迫を纏いながら、心地よいストレートが唸りを上げ、ミットを鳴らす。今度は文句なく隅へと決まるストライクだが、あえて感想を上げずに悠人が腰を上げると、
「……あぁ……」
先程と同じ体勢が目の前にあり、もはや苦笑するしかなかった。
「……そんなに気になるなんて珍しいね」
「なっ!?別に誰もっ!?」
冗談交じりに言った悠人の言葉はどうやら図星だったようで、投球中以外、全く向いてなかった視線が素早く悠人を捉える。
対して、悠人は含み笑いをミットで隠しながら、更なる追撃をかける。
「なるほど、気になる『人』がいるんだ」
「ちがっ!?くっ、ぬぅぅ……」
寒空の中、映える朱色が慎吾の耳を染める。沸点が上がったからか、少々ガニ股気味に背を向けると乱雑にロジンへと手を伸ばす。
そんな慎吾の姿に確信を得つつ、悠人は笑みを残しながらボールを返す。見えてないはずの慎吾、しかし、分かっていたかのようにグラブへと難なく白球を収めると再び火を灯す。まるで悠人へと怒りをぶつけるような視線と未だ恥ずかしげに朱に染まった頬を残しながら。
こんばんわ、作者です。
最近、急激な冷え込みで喉が……。
通勤で電車を使っているのですが、マスクしているとは言え咳が出るたび視線を集めております。
時期が時期だけに時には人が離れていったりするので地味に心が……(笑)
みなさんも体調にはくれぐれも気を付けて年末年始を迎えて下さい。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。




