始まる合同練習 02
私の前には一人の少女がいた。私より年上のはずなのにどこかオドオドしながらこちらの動向に注視している。その姿は怯えた猫のようで、愛着が沸く。
(……うん、可愛い)
思わず顎に手を当てまじまじと見つめてしまう。そんな私の様子に彼女は警戒心を強めたようで、小さな悲鳴と共に一歩後ずさり。距離が開きかけるが、私はそれを許さなかった。
「えっと、千尋、先輩でいいですか?」
なるべく笑顔で優しく問いかけながら、私も距離を詰める。手に持った白球を眼前へと晒し近づくと、彼女はその場で留まりコクコクと頷く。未だどこか警戒心が説かれていない、その事に小さくため息をつきながら、私は思い当たる節へと視線を向ける。と、同時に甲高い音がブルペンに響いた。
「オッケーっ!ナイスボールっ!」
相変わらず男子顔負けの速球が心地よい音を鳴らす。フォロースルーもきれいに決まり、キラリと光る笑顔が満足度を物語る。
その姿に私は悔しさを募らせながら先の勝負で三振に取られた球を思い出す。
(……チェンジアップ、とも違う一球……)
球速は確実に彼女の速球ではなかった。一瞬ブレーキを感じ、次の瞬間には手元まで伸びていた、正直意味が分からず空振りしたのは初めてでその場で固まったしまった。今一度思い出した感情に俯きかけた時、それは響いた。
「……あっ、あのっ!」
突然の声にハッとさせられ気付く。そうだ、今は彼女が目の前にいた。流れで即席バッテリーをさせられる事になった彼女が。
「すいませんっ!私……全然ですけど、よろしくお願いしますっ!」
マウンド上で深々としたお辞儀が展開される。予想外の行動に流石に慌てた私のワタワタした姿はさぞ滑稽だったのだろう、隣のマウンドから笑いが木霊する。それは同時に、私の背中に苦笑も届けさせた。
「ちょっ!とっ、とにかくっ、やりましょうっ!」
慌てて彼女の胸元へと白球を投げ、マウンドから逃げるように離れる。横から発せられる兄の緩い視線に少々赤面しながら、私は指定席へ腰を落すと少々大きめなマスクで表情を隠しながらミットを鳴らす。
「……ヨシッ!」
先程とは違い、頼もしげな姿がマウンドに現われる。直立に不動し、私の挙動を確認している。それが何を意味するのか、既に理解していた私は手を伸ばす。この日、久々に借りた兄のミットは昇り始めた陽を一身に受け、道を示した。今日最初の一球を収めるべき所をまるで導くように光り輝きながら。
こんばんわ、作者です。
早いもので12月です。
毎年言ってる気がするのですが、今年ももう終わりになりそう……
って事で今年の事は今年の内にやり残しがないように、したい、ところ……。
とりあえず、私生活ではないようにしたいと思っている作者でした。
みなさんも後悔なきように。
ここまでお読み頂きまして、誠にありがとうございます。




