それは突然やってくる? 23
「……うそ」
兄の止めたミットへ視線を向けながら最初に出た一言、それだけで昌也は奏が混乱している事が確認出来た。だが、あえて言葉を掛けず、無造作に利き手へと持ち替えた白球を正面へと送る。果たしてそこには、満足気にマウンドを降りる梢の姿があった。
「へへっ、どうだったかな〜?」
グラブに納めたボールを弄びながら、奏へと近づく。ニヤニヤとした顔が徐々に迫っていく事に奏は大層精神を削られているようで、少し離れた昌也にもギリギリとした歯ぎしりが徐々に聞こえてきた。このままいけば自分の目の前で幼気な女性二人の取っ組み合いが、ふと、頭の片隅で感じ取った昌也は覚悟のため息をつきながら楓へと向き直った。
「……奏」
勝負の前とは違い、しっかりとした口調で妹に語りかける。それが功を奏したのか、奏は少し驚愕しながらも、兄へと真っ直ぐ視線を投げかけてくれた。
「あのな、俺、今こいつらのコーチやってるんだ」
「……うん」
少し曇り始める奏の横顔に昌也は続ける。
「本当なら、そんな事やってる暇、ないんだけどな」
「……」
奏の無言に昌也は視線を上げる。雲一つない晴天、上空では日光に照らされた透き通る青が悠々と広がっている。時折吹く風が紅潮している頬を気持ちよくそよぐ。
「だけどな、正直、今野球が楽しいんだ、俺」
「えっ?」
奏にとっては意外な言葉だったのだろう。驚愕する姿を確かめるように昌也は再度我が妹へと真っ直ぐ見つめ、語り続けた。
「こいつ……こいつらと一緒に野球やれるのが、さ」
「……」
昌也の端的な言葉、通常であればそれだけでは意味は成さないだろう。だが、奏には分かっているようだった。だから、続けるよう無言に徹してくれる姿に昌也は心の中で感謝しながら言った。
「だから……もう俺は大丈夫だし、お前も大丈夫、だよな?」
「……だから私は元から大丈夫、だよ……」
言葉と共に奏の体が小さく飛んだ。ゆっくりと目の前に迫った体を優しく留めると昌也の耳には微かな妹の吐息が届いた。
―――兄さん―――
澄み切った空気の振動が優しく呼びかる。その心地よさに任せるように昌也は目を閉じる。すると、少しずつ奏の感謝が体を駆け巡る。そして、昌也は感じていた。時折、繰り返されたあの悪夢が脳の片隅から掻き消えていく様を感じていた。
こんばんわ、作者です。
気付けば今年も後1ヵ月ちょっと。
毎年思うんですが、この時期になるとあぁ今年も終わるの早いなぁ、と。
だからって急かす事は特にない、のですが、ね(笑)
今年はいつもと違う事もありますが、とりあえずやり残した事ないか、確認喰らいはしておこうかな~と思う作者でした。
ここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。




