それは突然やってくる? 01
どんよりとした雲が鎮座する中、山から吹き降ろされる風に木々が揺れ動き葉が舞い踊る。
昨今の温暖化により、幾分季節の移ろいも緩やかになる中、それでも寒さが厳しくなったここ女子硬式野球部専用のグラウンドでは、コーチの声が透き通っていた。
「次、軽くノック回すぞ」
同時に上がるキーの高い声を四方八方から受けながら、手を軽く持ち上げた昌也。瞬間、掌に伝わる硬い感触に視線を向ける。そこには逞しい図体のちゃんこ、いつも通りダルそうにしながら次の準備のため籠に手を突っ込む姿を確認すると、即座にグラウンドへと視線を戻した昌也は狙いを定めた。
「サードっ!」
鋭く三遊間へと走る打球に咄嗟に飛びついたのは寒気などどこ吹く風といった陽気なラテン系女子、マリアナ。
「Heyッ!Yaッ!!」
一際大きな掛け声と共に、一房にまとめた茶髪のテールを小気味よく揺らし、ファースト方向へと体を向けたまま逆シングルで球をグラブに収まめると、即座に左手へと白球を運び大胆なサイドスローを披露する。
「ナイスっ!サードっ!」
ファースト キャプテンの政美がしっかり捕球したのを確認した昌也はすぐ次に移った。
「ショートっ!」
またも三遊間、ショートが取れば深い位置となる場所に低いゴロが飛ぶ。それを半身になりながら、グラブに収めたのは童顔なボブショートの女性、稼頭美、その機敏さと瞬発力で次の瞬間にはその場でピタリと体を静止すると打ち付けたスパイクの力で体を起こし、強引に肩を回しながらオーバーでのモーションを始動させる。
「いっ、っけっ!!」
言葉と共に投げられた遠投は何処か頼り無く、ワンバウンドを挟みながらファーストへと辿り着く。
「……オッケーよく投げた、次、セカンっ!」
サードに比べると明らかに遅い到達時間ながらも一定の進歩を感じた昌也は即座に切り替える。今度は一二塁間へと少しばかり球足を速めた打球を飛ばす。小さな金属音と共に反応したのはセミロングの金髪美女、兎志子。即座に打球通過地点へ体を回り込ませると難なく正面で捉え、ファーストへと返す。
「イージー、ですわね」
予め予想されたような動きと嫌味にしかし昌也は口角を上げる。
(不敵な、笑み)
すぐ横で確認したちゃんこはこの後、軽くの予定だったノックがかなりの時間まで続く覚悟を決めるのだった。
こんばんわ、作者です。
いよいよ明日から2020年プロ野球の開幕、です。
ほんと、待ちに待った瞬間ですね。
今年は例年と違う事だらけの120試合になりそうですが、しっかり贔屓球団を応援したいと思います。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。