それは突然やってくる? 15
明くる日、起きた体をいつも通りほぐし、昨日の夜に準備したバックを携えながら1階へと降りる昌也にその匂いはもたらされた。
「あっおはよ、にぃさ、ん?」
「あぁ、おはよ」
妹がもたらした疑問をわざとスルーしながら居間へと入ると、既に新聞片手におかずを貪る源一郎がいた。
「む、今日からやるのか?」
「あぁ、とりあえず午後位までみっちりと、かな」
源一郎の対面、同じように用意されたプレートに目をやり、奏へと視線を投げた昌也に慌てて奏は答えた。
「うん、それ兄さんの分だから食べて」
「ありがとう、頂きます」
一度荷物を置き、箸へと手を伸ばし、食べ始めた昌也。いつもと同じ空間、なのに昨日から変わったその場では、お椀と新聞とテレビから漏れる雑音のみが響きながら、三人のそれぞれの朝が始まった。
「いってきます」
「おぅ、気ぃつけて」
「ちょっ、兄さんっ!」
食事時から忙しなくチラチラとタイミングを計っていた奏、何か言いたそうな表情から昌也も聞かれる前に退散が吉と判断していた。少なくとも、朝飯を平らげている最中は何かとマナーがうるさい、自分はちゃっかり新聞を読んでいるが、源一郎を気にして声はかけられない。それを見越しながら、昌也は食べる量を調整し、その瞬間を待っていた。そして、
「すまん、奏、おかわり」
「うん、ちょっと待ってね」
源一郎の手から茶碗を受け取り、台所へと入った瞬間、昌也は残っていたおかずを胃に詰め、手を合わす。
「ご馳走様」
言うが早いか、肩へとバックをかけ、食器類をさっさと流し場へと運ぶ。当然、道中で奏と交差するが、聞く耳持たず、さっさとやり過ごし、玄関から飛び出すと庭に鎮座した相棒へとまたがり、奏の声をバックグラウンドへと滑走するのだった。
雲一つない晴天。ただ、未だ太陽は昇り始めたばかりのため、いつも通り寒気が停滞する中を昌也は走る。
徐々に火照り始めた体とは裏腹に、抓る寒風が頬を赤く染める。
正直痛い、いつも以上に痛覚を刺激される状態。にもかかわらず、昌也は減速する事なくこぎ続ける。目下、突如として現れた妹から逃れるようにその足を動かす。
「だぁ〜、俺も情けないっ!」
人っ子一人いない事をこれ幸いに、叫ぶ。叫ぶことで不甲斐無さからくる羞恥心を空の彼方へ飛ばそうとする、が、思い通りにはいかない。モンモンと心に残り続ける。それでも、足を動かし続ける事で目的地へと向かう。きっと、あそこに行けば、あそこに向かえば、否応なしに集中できるだろうから。
「……今日からっ!!」
期待と共に徐々に加速する高揚感。それは昌也の心に巣くい始めた霧を吹き飛ばすかのごとく疾走する。気付けば、体温も上昇し、寒波も今は冷却装置へと早変わり、ペダルと一体になった足の力となりつつ、昌也は見慣れた道を駆け上っていった。
こんばんわ、作者です。
早いもので今年も一つ年が増える時期が近づいてきました。
年々億劫とどうでもいい感が増していくのですが、
今年はちょっと違いが。
……もうすぐ上の代が見えてくるって事でなんだか感慨深いものが(笑)
それだけ、自分も年を重ねたんだな、ここまで生きてきたんだな、と感じるようになったんです。
正直、これ、プラス思考なのかマイナス思考なのか迷うところですが、
とりあえず今年も平穏無事に乗り越えていけそうです。
こここまでお読み頂き、ありがとうございます。