それは突然やってくる? 11
「えっ……と?」
「……意外とバレるのが早かったな」
お嬢様の気品はどこへやらガニ股で近づく兎志子とその従者二人、さらに後方からは苦笑いを浮かべながら梢と千尋も連なる。対して、昌也は至って冷静に兎志子を向かい入れると鼻に笑みを浮かべながら煽った。
「みればわかるだろ?練習だよ、れ・ん・しゅ・う」
「な・ん・でっ!ここでしてますのっ!!」
昌也の眼前、見下ろされる形にも怖気づく事無く、真っ向から見据える兎志子。その後ろからなぜか口元に涎を保ちながらキリっとした表情を崩さずに久子が続ける。
「ここは女子硬式野球部のグラウンド、昌也コーチはともかく、男子硬式野球部のお二人が入っていい場所ではありません」
「そうですわっ!」
援護射撃に乗っかるように言動によるプレッシャーをかける。だが、昌也は軽く肩を竦め、そっぽを向きながら答えた。
「でも、お前ら今年は練習終わりだし、使わないなら別にいいだろ」
「そういう事ではありませんのっ!」
ガミガミと吠え散らかす状況を後方から見ていた梢と千尋は、瞬間、背筋が凍った。
なぜなら見てしまったから、ほんの一瞬、瞬きすら許されない刹那に表れた見覚えある光景。
「……梢ちゃん……」
「うん、多分……兎志子ちゃん負け、だね……」
時は少し遡る。
それはテスト期間空け、今年最後を締めくくる学業の成果が終わったその日の午後だった。
「やっと久々に練習だぁ〜♪」
「そうだね、梢ちゃん」
ずいぶん懐かしく感じる練習着に身を包み、降り立ったグラウンドで柔軟に勤しむ梢と千尋。どうやら一番乗りだったようで、綺麗に整えられた土の上ではしゃぐようにこなしていく。
「……うぃ〜す」
「あっ、昌君」
「お疲れ様です」
いつものジャージに身を包み、体を震わせながら入ってきた昌也。勉強疲れなのか、幾分目の周りの陰影が深い気がするが、あえて触れずに二人は黙々と柔軟をこなす。
「……他はまだきてない、か」
キョロキョロと周りを確かめるようにしながら、梢たちに視線を戻した昌也。それに気が付いた二人は不思議そうに問いかけた。
「なに?何かあった」
「あ〜、いや……」
どことなく歯切れが悪い。それほど長い付き合いではないが、クラスも一緒で転校してから何かと絡む事が多い経験から、梢は先に尋ねる事にした。
「何か聞きたそうに、してるけど?」
「……まぁ、な」
わざとニヤけた顔を演出する事で、昌也の精神を揺さぶる梢。普段から何かと色んな意味でお世話になっている彼の心理を付く梢なりの口撃は、昌也にとってプライドに刺さる一打。相手の予想を見透かし、更に上を行くのを求められる捕手、そのポジションを誰よりも極めたいと考えている昌也にとって、当然面白いものではなく、自然とぶっきらぼうになりながら、答えを求めるために口を開く。それこそ、梢の思い通りになっている事なのだが。
「冬休み中の練習をどうするか、って思って、な?」
言葉の途中、上がった二人の嘆息に昌也の語尾が自然と疑問へと裏返る。その意味を汲み取ったのか千尋と梢は顔を見合すと小さく頷きながら昌也へと答えた。
「あの、冬休み、は……」
「えっとね、昌君、それ多分無理だわ」
こんばんわ、作者です。
早いもので8月も終わり(毎月言ってるなぁ(笑))、
だけど未だにコロナによる自粛要請が終わらない中、
今日もビール片手に野球観戦に勤しんでおります(笑)
本当なら、球場に行って贔屓のチームを全力応援しつつ、
球場飯を喰らい、ビールで流し込み、また応援。
早く、そんな日が戻ってきて欲しいものであります。
まぁ、今はSNS等でみんなで応援してる雰囲気が作れるので
そこまでストレスにはなってはいないのですが。
……あー見に行きたいなー(笑)
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。