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10+1(イレブン)ナイン+1  作者: あまやすずのり
それは突然やってくる?
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それは突然やってくる? 10

 悠人はサインを出しながら密かに視線を上げる。果たしてそこには見た事もない姿の昌也がいた。


(これが、甲子園を経験した怪物……)


 明らかに違うのは発せられる威圧感。冬場の寒空の中、ジットリと背中に汗が流れる感覚は、今まで経験した強打者とは一線を画す存在である事を本能的に証明する。


(だからこそ、ここで試したいんだろうなぁ……)


 今にして思えば全てが繋がる。この一球は、慎吾が新たに模索しているこの球こそ、指先を強化した投球のためだったのだと。


(だったら、僕はそれを後押しするだけ)


 既に出されたサインに小さく反応した慎吾が、いつもと変わらぬ躍動感を伴いながら軸足を踏み出す。


(……こいっ!)


 差し出したミットを内角低めへと導く、そこへ向かって放たれた白球と共に慎吾の挑発的な微笑みを見た悠人は確信した。イメージ通りに投げ切れた球を迎えるべく、その一瞬を、


(っ!?)


 掴む瞬間だった。迫る白球へと寸分違わぬ角度で入り込んだ鈍色の一閃は確かなインパクトと甲高い音をグラウンド内に奏でる。慌ててマスクを外し、その場で立ち上がった悠人は伸びる打球を目で追うと、それは小さな弧を描きながら外野フェンスに直撃した。


「……まっ、二塁打ってところか」


 フォロースイングのまま昌也が言った。先程までとは違う、普段から何気なく会話を交わす友人のように、穏やかな笑みを浮かべながら。その姿に悠人は多少呆れながらも、実力の違いに心底恐怖するのだった。




「……クソがっ」

「負けた、ね」

「いや〜、意外な球だったぜ」


 三者三様、それぞれの気持ちが交差する最中、マウンド上に集まった男子三人は感想を述べた。


「お前、あの球分かってたのか」

「まさかっ」


 悔しさを微塵も隠さず問いかけた慎吾に、昌也は肩をすくめながら答える。


「正直、待ってたのはシンカーだったんだが……コース的には内角で勝負するだろうなってヤマは貼ってたから手が出ちまった」

「手が出て、あの打球なの……」


 どう見ても完璧に捉えられた打球。だが、その意を汲んだ昌也は腕組みしながら不満をぶちまけた。


「まぁ真芯ってわけじゃないしな、変化までは読めず、ミートポイントが遅れたせいで打球が上がらなかったし」

「マジでクソ野郎め……」


 呪詛のように呟く慎吾に同情を隠せない悠人は渇いた笑みを浮かべるしかできずにいると、昌也が真剣な眼差しで慎吾へと詰め寄った。


「だからもっと使え、あの球、ツーシームを」

「……球種までもうバレたのかよ……」


 ツーシーム、それは投手が投げる球種の一つ。その由来は打者へと球が向かう際、1回転する間にボールの縫い目が空気を2回通過する事から付けられた。そして、この球種は基本速球と同じ投げ方で用いられる事が多い。結果、同じ球速ながら縫い目の進行具合でストレートとは違う小さな、特に横や縦に変化をもたらす事が出来る。速球ともシンカーとも違う新たな球、ではあったがそれを昌也は初見で射抜いた。なぜなら


「まぁ、まだ変化が微妙だからもっと磨く必要はあるが」

「……チッ」


 言われて更に不機嫌になりながらマウンド上で胡坐を汲む慎吾。その様子は不貞腐れた子供のようで、昌也と悠人は顔を合わせ苦笑する。だけど、昌也達に余韻に浸る時間は一瞬、甲高い声が辺りを包む。何事かと驚愕した昌也達が周囲を見渡すと視界に入ったのは一人の女性が気品の欠片もない態度でマウンドへと叫んでいた。


「なんでっ!わたくしのグラウンドでっ!!勝手に勝負してますのぉっ!!!」

こんばんわ、作者です。


毎日溶けるような暑さが続いていますね。

私も毎日蕩けながら仕事をしています(笑)

それにしても今年は(も?)本当に異常な暑さです。

ただでさえ何かと自粛自粛で、モヤモヤが溜まる中でのこの暑さは気が滅入りますね。

そんな時こそ、涼しい部屋で書きたい……ものです……(笑)


ここまでお読み頂きまして、ありがとうございます。

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