それは突然やってくる? 09
(……流石だぜ)
返球された球を両手で撫でながら、慎吾は左打席に立つ男へと意識を飛ばす。果たしてそこには、足場を慣らし、ゆったりとバットを揺らしながら、メットの頂点へと手をやると一気に体を起こし所定の位置へ。甲子園を熱狂させた姿が今目の前に現れる。
(……畜生が)
徐々に凄みが増す昌也の視線に、慎吾はかつてない圧力を感じ始める。どうやらそれは、捕手側でも同じだったようで、
(……スライダー、はダメだ)
膝元へとボールになるサインを要求する悠人、しかし、慎吾は否定する。確証はない、だが本能が警笛を鳴らす。
(今はまだインコースじゃない)
慎吾の考えを察知するように再度出されたサインに頷き、一息。吐かれた息の白さとは裏腹に体はかつてないほどの高鳴りで熱くなり、投球フォームをスムーズに稼働させる。振りかぶる慎吾、それに合わせるように昌也の体も動き出す。
(これで、どうよっ!!)
全力で振り抜いた白球が再度外角低めへとその身を伸ばし、沈む。二人が選んだのはシンカー。それは慎吾にとって正に必殺の一球。左打者から逃げていくような軌道で落ちる球をバットで捉えるのは至難の業。そう、並の高校球児なら。
ギンッ!
しかし、昌也は違った。外へと逃げる寸でのところで投げだすようにバットの先で捉える。だが、やはり当てるだけが精一杯だった。
「ファウル、だな」
三塁線外側へボテボテの打球を自らジャッジし、打席を外す昌也。その至って冷静な姿に再度ボールを受け取った慎吾は恐怖を感じる。
(今のを当てるのかよ……)
予定よりも低くリリースされたため、余計にバッターから離れた位置へと逃げたはずのシンカー。通常なら優に空振りが取れるはずが、かすっただけとはいえ、昌也はバットに当てたのだ。今までの打者とはレベルが違いすぎる難敵である事を改めて認識せざるを得ない。
(だが、ここまでだぜ……)
ボールカウントは1-2、ストライク先行で圧倒的に投手有利なカウント、後1球、昌也の予想を覆せば慎吾の勝利。
だからこそ、次の一球は慎重に餌を撒く必要があった。
「……ボール」
「……」
外角から高めへと一直線に伸びた球はストライクゾーンを掠める事なく悠人のミットに収まる。一瞬、思わず手が出そうになる直球も昌也は微動だにせず、しっかりと見送りながら悠人のジャッジに頷く。
(化けもんだな、この集中は……)
返球を受け、滲み出す額の汗をぶっきらぼうに拭った慎吾は、次の一球へのイメージを高める。意志のみ体から離れ、サードベース上空から見下ろされた自分の体がスムーズに回転を始める。ギリギリまで抑えたリリースが力を与え、内角膝元へと走りながら小さく変化する。そして、
(いけるっ!)
確信を得た慎吾が打者へと向かうと、サインは即座に出された。小さく頷き、一呼吸後、慎吾はモーションを始動させる。ゆっくりと、先程の想像を体に思い出させるように、追随するように。
(これでっ……)
テイクバックと共に手の中に携えた球に力が籠められる。縫い目に沿った指先にわずかに違いを持たせ、イメージ通りのリリースを完成させると、それは放たれた。
(終わりだっ!)
こんばんわ、作者です。
ついこの間まで天気が悪く、日光が恋しいと思っていたら
最近は日差しが疎ましい日々が……(笑)
確かに日が当たるのはいい事なんですが、如何せん気温が半端なく
毎日溶けそうで……、それでも書く事には関係ありません。
って事で、お盆休み直前での更新、しっかりと出来て内心ほっとしている私でした(笑)
ここまで、お読み頂き、ありがとうございます。