プロローグ
ご無沙汰しております。
色々悩んだ結果、結局また野球物で自由気ままに書く事にしました(笑)
前回同様拙い文章ではありますが、毎週更新していく予定ですのでまたよろしくお願いします。
輝く夜空の下にいた。正確には、ビルから漏れる光が乱反射する世界。そこで俺、野田 昌也は一房にまとめたポニーテールを揺らす女性と肩を並べて公道を歩いていた。
「兄さん、大活躍だったねっ!!」
未だ幼さが残る顔は興奮で朱に染まり、握り拳を突き出しながら体全体で力説するように圧を強くする。まるで自分の事のようにふるまう彼女に俺は適当に相槌を入れながら独り頭の中で整理する。今日一番の感触を確かめるように。
「……ふふっ」
力を込めた指先が次第に丸まる姿に彼女は微笑む。先程とは違い、何処か小馬鹿にした表情に俺も小言を吐きたくなる、が、その願いはかなう事なく、先制されてしまう。何かを見透かされたように。
「やっぱり兄さん、野球大好きなんだな、って」
言われて俺は顔を顰めた。なぜなら、今やっている野球は楽しくなどないはずだから。本来自分が望むポジションで出来ず、ベンチで指を加えてみている事より、別のポジションで試合に出る事を望み志願した。結果、戦力としてクリーンアップを任され、成績も残し、チームの勝利に貢献している。
だけど、
「もう、兄さん顔に出すぎだよ」
頬に感じた違和感と共に顔が強制的に横へと向けられる。隣を歩く彼女へと自らの手で導かれ、瞳が交差する。ジッと、ただただ見つめられる視線と、いつまでも変わる事がない彼女の微笑みが告げる。
――私は、分かってるから、――
時間にして数秒であった出来事、道行く人々がほんの少し気にしたその行為は、彼女の手が離れた事で日常へと戻り、俺の思考をとりあえずリセットさせる。当然、俺の顔にもその情景はもたらされ、彼女は満足そうに頷くと、
「じゃあ、兄さん、そろそろ行くね」
言うが早いか彼女が走り出した。その先には青に点灯したばかりの横断歩道。なんの心配もする事無い、ただの道路横断。瞬間、脳に痛みが走る。この場面を知っている俺は、いつもと同じように即座に駆け出した。
ゆっくりと靡くスカートを追いかけるようにそれはやってくる。視界の端、唐突に照らされた輝かしいライトが彼女を照らす。異変に気付いた彼女がその場で止まる。顔をゆがめ、驚愕の表情を今日も確認しながら俺は身を投げ出す。
彼女とライトに挟まれた俺は、体隅々にまで激痛を伝えながら飛び起きた。
「……はぁはぁ……」
既に季節は真冬、なのに噴き出る汗が止まらない。ただ、幸いな事に悲鳴は上げなかったようだ。一緒に暮らす祖父の源一郎が押し掛けてくる様子はない事からも明らかだった。
「……久々、だな……」
べっとりと張り付いた不快な感触を近くに干していたタオルで拭う。少しざらつく感触が次第に心地よくなると共に心が落ち着いていく。と、同時に浮かぶのは体への不安。外見上は既に完治していたが、見えない内部に残された後遺症に今日も苦悩する。
「……大丈夫、だな……」
独りごちながらゆっくりと始めたストレッチ。朝の日課を淡々とこなしながら、あの日、車に轢かれた後から感じるまるで自分の体ではない感覚と対話を始めながら、野田 昌也の一日は始まるのだった。