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EP.15 悪の宰相は聖女とお茶会を楽し……む、はずが……?


 結局、北の聖女(フロスティア)宰相(ミラージュ)による禁忌の術とやらで全てをうやむやにすることに成功した俺達は、四ヶ国会談を無事に終え、事なきを得た。

 帝国と東、南北連合は国交と物流の活性化を約束する『四ヶ国貿易協定』を締結し、『対魔四ヶ国同盟』とかいう安全保障条約については帝国(おれたち)の意向に沿って見送られた。その場で終始ぽかん状態だった南の聖女は、ことなかれ主義なのかおバカなのかはわからないが、それらに反対するということもなく、にっこりと書面にサインしたのだった。


 翌日。

 俺は中庭のテラスで優雅にティータイムを楽しむ北の聖女とライラの元を訪れた。


「どうしてあなた方がまだ帝国(ウチ)にいるんですか?」


「え? どうしてって……私達がいなくなったら霧がすぐに晴れちゃうでしょう? お城の工事が終わるまでは居てくれて構わないって、クラウスさんに言われたわよ?」


(クラウス将軍が独断でそんなことを許可するわけがない……となると、ベルフェゴールの指示か。あいつ、懐が広いのか考えるのが面倒くさいのか……困った上司だ)


「それで? 呑気に中庭でお茶会ですか? 昨日まで命を狙い合っていた仲だというのに?」


「別に? 僕が狙っていたのは命ではなく薬です。それが手に入った今、あなた方をつけ狙う必要もない。現にこうしてティア様とライラ様は再会の話に花を咲かせている。なんとも麗しい光景ではないですか?」


「聖女が不在で、北国は大丈夫なんです?」


「本国には女王様がいらっしゃいます。それに、勇者様には先にお帰りいただきましたので、政治的にも戦力的にも問題ありませんよ?」


 ゆるりと笑みを浮かべるミラージュは、フロスティアの横にさも当然のように腰掛けて紅茶のお代わりなんぞ淹れている。


 よくもまぁいけしゃあしゃあと。


(完全に開き直ってやがるな……)


 共謀関係になったとはいえ、やはりなんとなく気に食わない。単純に好かんのだ。同族嫌悪待ったなし。だが――


「いいじゃないユウヤ? ふたりとも、私のこともユウヤのことも黙っていてくれるって言うんだから」


「まぁ、死神から助けてやったんですからそれくらい当たり前ですが?」


「なんかユウヤこわくない?」


「別に。イラついた僕も素敵でしょう?」


「ふふっ!そうね! 私は大きくなったティアちゃんとお話できて嬉しいけどな? それに、お薬のお礼に困ったことがあったらなんでも協力してくれるらしいわよ?」


「うん……! 私嬉しいの。最期までミラージュと一緒にいられるのが。寿命のこと、仕方のないことだからって、どこかで諦めていたから……」


 聖女フロスティアはそう言って心底嬉しそうに笑みを浮かべる。美少女に感謝されること自体は良い心地しかしないが、やっぱミラージュはキライだ。


 だって、リリスに聞いた話だと『ドチャクソエロい技でハメられた』らしいから。


 その後ライラの元に向かったという奴がライラにもその技を仕掛けた可能性はゼロではない。いくら天井からふたりして落ちてきた時にライラが無事だったとはいえ、そう思うとマジでムカつく。


「ライラ様? 仲良くするのも結構ですが、あまりおふたりの邪魔をしては可哀想ですよ? ほら、僕らは部屋に戻りましょう?」


「えっ。でも、ミラージュくんが淹れてくれたハーブティーが……」


「いいから」


 俺はライラの手を引いて部屋に戻り、ソファに腰掛けた。

 隣でクッションに埋もれるライラが心配そうに覗き込んでくる。


「……ユウヤ? 怒ってるの?」


「別に」


「あ~わかった!ヤキモチね! 私ばっかりみんなと仲良くしてるから。仲間に入れて欲しいならそう言ってくれればよかったのに!もう、素直じゃないんだからぁ♡」


 ちゅ♡


(こいつ……全然わかってないな……!)


 あいかわらずの脳内お花畑っぷりには閉口する。

 俺はベタベタ甘えられながらもジト目で抗議した。


「わかってるんですか? いくら表面上は仲良さそうに見えても、相手はこちらを陥れようとまだ狙っているのかもしれないっていう――」


「そんなことないわよぉ! ティアちゃんはミラージュくんに溺れてますから! 彼のために受けた恩に背くことはないわ?」


「溺れてって……だから、それが心配で――」


「も~ユウヤ気にしすぎ! そんなユウヤもしゅき♡」


 ほっぺすりすり♡


「ちょっと、ライラ? まじめに話を……! 俺は心配して言って――」


「ユウヤも一緒にケーキ食べるぅ? ねぇ、食べさせあいっこしましょ?」


 ぎゅうぎゅう。 むにゅむにゅ♡


(は~もう……! ほんっとに話聞かないな、こいつは……!)


 てゆーか……


「……ライラ。また大きくなった?」


 脇の辺りをぽよぽよ(さす)ると、ライラはピタリと止まる。


「なんか、心なしか腰回りがむっちりして……?」


 むにむに。


 その動きに、顔を赤くして涙目になるライラ。


(うん。やっぱやわらか気持ちいい……じゃなくて。)


「もしかして……」


「…………」


 うるうる。



「……ふとった?」



「~~~~っ!」


「あ。ごめん。」


「ふぇぇえええ……! 気にしてたのにぃ……! ユウヤのばかぁ……!」


「あっ、ちょ! ぽかぽか殴るな! いたっ! いたくなっ! やめろっ……!」


「どうせ『お茶会ばっかしてるからそうなるんだ』って言いたいんでしょぉ!? 『ちょっとは痩せろ』って! だから私を連れだしたのね!?」


「ち、ちがう!」


(俺はただ、ライラがミラージュに悪いことされないかが心配で……!)


「落ち着けってライラ!」


「ふぇぇえええ……! どうせ体重増えましたよぉ! むちむちしてきてるって、自分でもわかってましたよぉ! 明日からダイエットしようって思ってましたよぉ!」


「それ、できない奴が言うセリフだぞ?」


「うわぁああん! そんなことないもん! 私、ユウヤのためなら三食ごはん抜けるもん!」


「絶対リバウンドするやつじゃないか」


「ふぇぇえええ……! ばかばかばかぁ!」


 両肩を抑えて引き離そうとするも、ライラは俺に跨って襲い掛かる勢いでぽかぽかと叩き続ける。ぶっちゃけ全然痛くないし動きがもちゃもちゃしてて可愛いが、そう言ったら余計に刺激しそうでこわい。


「そういうつもりじゃなくて! 俺はむしろこれくらいの方が……」


「男の人はそう言うけど! そういう問題じゃないんですぅ!!」


「じゃあどういう問題だよ!?」


「プロポーションとモチベーションの問題ですぅ! ひゃんっ♡ あんまりお腹つままないで! 伸びちゃう!」


(なんか……おもしろ)


 ふにふに。


「別に伸びても嫌いになったりしないのに……」


「好きとか嫌いとかっ……! そうじゃないのぉ!」


 むにむに。


「ひゃわっ♡ やめやめ! くしゅぐったいですユウヤぁ♡」


「…………」


(これ以上はやめとくか。昼間っからその気になったらまずいからな)


「……で? わかりました?」


「はいぃ……♡ もうお茶会しましぇん……♡」


「全然わかってないじゃん。」


 俺はため息を吐いて上に乗るライラをひょい、とどけた。猫みたいにふにゅんと伸びるその身体を脇に置いて、ソファから立ち上がる。


「とにかく。仲良くするのもお茶会するのも構いませんが、節度はわきまえて。あまり深入りさせないようにしてください?」


「はぁ~い……」


「ベルフェゴールに確認したいことがあります。少し出てくるので、待ってる間に紅茶でも用意しておいてもらえますか?帰ってきたら僕とお茶会をしましょう?」


「はぁ~い♡」


 舌の根の乾かぬ内に茶菓子をそそくさと取り出し始めるライラを残し、俺は部屋を出た。


(不老薬『エタニティ』……俺には不要だし、関係のない話かと思っていたが、今後同様のことが起こらないとも限らない。さすがに製造法について詳しく聞いておいた方がいいかもしれないな)


 そう思い魔王の私室を目指していると、廊下の向こうからひとりの少女がやってきた。


(あの背格好はモニカちゃん? いや、もう少し大きいな。小一、二……妹のユウキくらいか……?)


 だが、モエは俺達と同い年になったと聞いている。

 だとしたら、魔王城の廊下にぽつんと佇むアレは……



 ――誰だ?



 俺は念のためクラウスの姿を映した。

 その目線の高さに驚きつつも、美しい金髪を掻き上げ、穏やかな笑みを浮かべて少女と目線を合わせる。


「このようなところでどうかしたのですか? 小さなお嬢さん?」


「…………」


 ぽやーっと俺を見あげる金の瞳。薄紫色のヒラヒラした花のようなワンピースに身を包み、西では珍しい黒髪の女の子だ。幼い割に物怖じしないその態度は、少女の肝が据わっているのか、クラウスが優しいことで有名なせいなのか。

 しばし俺を見つめていた少女は、ふわりと口を開くと透き通るような声を発した。


「……どこ?」


「あぁ、迷子でしたか。私が城外までお連れ致しますので、一緒に行きましょう? さぁ、お手を――」


 小さな手をそっと握ろうと手を差し出すと、一瞬の寒気を感じて俺は思わず引っ込めた。


「……?」


(今の悪寒は……?)


 不思議に思って振り返ると、そこには死神のオペラが立っていた。


(なんだ、ただのオペラか)


 オペラは死神なので、普段はその姿を霊体化させて隠している。奴の姿を捉えられるのは魔王の加護を受けた俺達のような重鎮のみ。

 だが、次の瞬間。少女がありえないことを口にする。


「あら、オペラ? ここにいたのね……?」


(え――?)



 どうしてこいつ……『死神』が視えるんだ?



 ぎょっとしていると、背後のオペラが顔を青くして呟いた。


「え……?」


 金の瞳を見開いて、まるで蛇に睨まれた蛙のように呆然と立ち尽くしている。


「ふふっ。探したわよ……?」


「ど……どうしてあなたがここに……?」



 ――ママ……

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