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EP.9 北国の宰相、ミラージュ


「で? 北の宰相はどんな子だったの?」


 帰りの馬車の中、わくわくしながらリリスがハルさんの腕を挟む。

 俺はというと、向かいのシートで『ライラちゃんへのお土産♡』とかいう大量の荷物に囲まれて狭苦しい思いをしていた。


(経費で構わないとは言ったが、何もこんなに買わなくても……)


 うんざりしながら近くにあった包みを開けると、茶色の瓶に入ったすっぽん、まむしの類と目が合う。その他諸々、どこで手に入れたのか想像もしたくないようなアダルトグッズやキワドイ下着の数々。


「リリス……これ、ライラ様に? 自分用ではなくて?」


「そうよ♡ そろそろライラちゃんもマンネリシーズンなんじゃないかと思って♡ たまには刺激的なのも欲しいでしょ?」


「余計なお世話です」


「きゃ~♡ 宰相君元気~♡ 若いってイイわねぇ♡」


(……人のこと、何だと思ってるんだ?)


 再びうんざりしながら、銘菓のシュトーレンを頬張るハルさんに視線を向ける。


「ハルさん? 宰相ミラージュについて、わかったことをお聞きしても?」


「ん、んぐ。いいよ?けど、ユウヤ君が気にする程の人でもないと思うけどなぁ?」


「と、言いますと?」


 ハルはシュトーレンを紅茶で飲み下すと、一言――


「よわいと思う」


 一蹴した。


(え? つまり、こんな苦労して情報を得た割に全部俺の取り越し苦労だったってわけか?)


 そんな。うそだろ?


 俺は、恐る恐る問いかける。


「それ、ハルさんと比べて、って話でしょ?ハルさんと比べたらそりゃあ誰だって弱いですよ」


「でも、ユウヤ君は弱くないと思うけど?」


「…………」


 ふふ。ちょっと、嬉しい。


「でも、ベルフェゴールの都合の悪い日程を狙ってくるような輩です。独自の情報網や特別な力を持っている可能性も……」


「うーん。情報網はわからないけど、俺が《《視た》》限りでは、彼は目立ったスキルを持つ子じゃなかったけど?一番高い能力は魔力適正A。身体能力はBだし。幸運ランクなんて一番低いFだったよ?」


「あらぁ~。それはそれは……苦労性ねぇ?そういう子、守ってあげたくなっちゃう!」


「え、F……?」


「能力値に馴染みのないUNKNOWNのユウヤ君にもわかりやすく言うなら、大凶かな?」


「大凶……」


 それ、大吉よりレアな奴だろ?


「うそ……」


「嘘じゃないよ?スキルもねぇ、目ぼしいものは魔力吸収くらいかな?でも、熟練度が高い割に効果量は微弱。ハッキリ言って、よわいと思う」


「魔力吸収……?」


「そう。とは言っても、ミラージュ君の効果量だと、そうだなぁ……」


 顎に手をあて、ふむむと考え込むハル。どうやら、俺にもわかりやすいような例えを探しているようだ。そして、ハルは胸に手を当てて目を閉じる。


「高原とか、自然が豊かなところに行くと気持ちがスーっと和らぐだろう?なんか、美味しい空気が全身を満たしてくれて、気分がスッキリするっていうか」


「は、はい……」


「うん。あんな感じ」


「…………」


 ……よわっ。


「だから、そんな心配しなくていいんじゃない?そんな子がヤバイ暗殺者とか手懐けられるとは思わないなぁ?なんか、備考欄がもやもやしてて見えづらいのが気になったけど、結局よくわからなかったし」


「え。それって、僕みたいにUNKNOWNとかそういうオチじゃあないですよね?」


 訝しげな視線を向けると、ハルは爽やかに笑った。


「だ~いじょぶだよ!UNKNOWNはUNKNOWNって出るもん。どんな技や術を仕掛けたところでA止まりでしょ?それに、ユウヤ君よりヤバイやつ視たことないから!平気平気!」


「そ、そういうもんですかね……?」


 その言葉はちょっと照れ臭いけど……正直、拍子抜けだ。


 だったらどうして、そんな奴が北の聖女の宰相なんて……てっきりボディガード兼執事か何かかと思っていたが、やっぱりたらし込んでいるのか?

 でも、だとすると女王が彼を息子のように扱っているという事実の説明がつかない。


(どういうことだ……?)


 思考を巡らせていると、ハルさんがずずい、とシュトーレンを突き付けてきた。


「まぁまぁ。なんかあれば俺も手を貸すからさ? 今は帰ってライラちゃんに元気な顔みせてあげようよ!」


 にぱっと、咲くような笑み。

 俺はシュトーレンを受け取って、その甘さに舌鼓を打ったのだった。


      ◇


 北の王国ダイヤモンドダスト。雪と氷で覆われた大地にそびえ立つ、美しき女王と聖女の治めるこの国は、僕には少し寒すぎる。


 壊れた窓の隙間から差し込む風が、ノートを手にする指先の熱を瞬く間に奪い尽くし、修繕の費用を計算する僕の身体と頭を冷やしていった。


「はぁ……」


(勇者様……今日もとことんやらかしてくれやがって……)


 彼女は、いったい何度怒られれば気が済むのか。

 クエストの締め切り管理ができないとかで固定給の職を希望し、王城に務めだしたの頃は、僕に怒られたくてわざとやっているのかと思いもしたが、共に仕事をすればするほど、彼女がそんな器用な人間ではないことがよくわる。


「はぁ……給料三か月分。こんなものか?まぁ、今月はボーナスが入るから勇者様も野垂れ死にはしないだろ」


(…………)


 疲れた。なんか今日は朝からどっと疲れた。


 東の勇者が王城にアポなしで来ては勝手に暴れ、どこから手を付ければいいのかわからないポンコツ勇者様に片付けの指示をして、昼食も取らずにその後始末をしていたら、もう午後三時。せっかく今日は間近に迫った会談の準備を進めようと思っていたのに。こんな疲れた頭じゃうまくいくものもダメになる。


「はぁ、寒……」


(こんなときは――)


 僕は茶菓子を持って聖女の元を訪れた。


「ティア様?よろしいですか?」


「ん~ミラージュ?どうぞ~?」


 扉を開けると、聖女のフロスティア様がソファに埋もれながら資料に目を通していた。白く輝く銀糸の髪を胸元まで垂らし、くりくりとソレを弄りながら、同じ色をした睫毛を眠そうにしぱしぱさせている。そして、僕を見るなり不満げな声をあげた。


「ミラージュ、ここ、わかんない」


「どこ?」


 茶菓子をテーブルに置いて隣に腰掛けると、すぐ傍から伝わる熱があたたかい。


「ああ、会談の資料か。これは、西の帝国から不老薬の製造法を得られるのであれば、こちらも相応の誠意をみせますよ、という趣旨のもので――」


「誠意って、何?これじゃあ具体的な想像がつかないんだけど……」


「ふふ、『強気な契約書』というものは、得てしてそういうものでしょう?」


「そうなの?なんかズルじゃない?」


「ズルじゃないさ。判が押されれば、その契約は有効なんだから」


「え~?これだと、私達ばかりお得で恨まれそうだけど……いいの?」


 心配そうな声を漏らすティア様。昔からそうだが、彼女は(はかりごと)には向いていない。素直でやさしい、僕の幼馴染。だからこそ、僕がこうして宰相として支えているというわけだ。


 僕は不満げに足をぷらつかせるティアを膝の上に抱っこした。

 ふかふかとして柔らかい感触が、あたたかさを倍増させる。


「一方ばかりがお得では、ダメなのかい?現に僕らもこうして僕ばかりがイイ思いをしている関係でしょう?」


「それは別に……ミラージュは幼馴染だからいいの」


「幼馴染、か……それはそれは。大層な免罪符だね?宰相として仕えさせて貰うだけでなく、預貯金まで好きに使っているというのに?」


 頬をすり寄せると、ティアは赤面しながらもごもご口を開く。


「だって……私が選ぶより、ミラージュが選んだ方がお洋服可愛いんだもん……」


「一緒に僕の服を買っていたとしても?」


「いいの」


「そうだね。最近流行りのシミラールック、ティアとしてみたくて」


「でしょ?回りまわって私の為になるから、そういうのはいいの」


「へぇ……?」


 お腹の辺りをぎゅうっと抱き寄せると、ティアはますます体温をあげた。


「あったかい……」


 思わずこぼれたその一言に、ティアは疑問の声をあげる。


「ミラージュ、《《また》》なの?あまり無理しないで、寒くなったらこまめにおいでって言ってるじゃない?私は、大体この部屋に居るんだから」


「……イヤじゃないの?僕にこうして《《熱と魔力を一方的に搾取される》》なんて」


「でも、そうしないとミラージュは生きていけないんでしょう?」


「…………」


 ――そう。僕は《《人から熱をもらわないと》》生きていけない、『冷血種』だ。


 自身の体内に発熱する器官を持たず、外気の温度で体温が変化する、人のカタチをした変温動物。もちろん、そんなバケモノみたいな存在、《《人間ではない》》。


 僕は――魔族だ。


 だが、そのことを知る人間は幼馴染であるティアと、その母親の女王様だけだった。

 無論、魔族と人が争うこの地において、国の重鎮の傍に魔族が控えるなど、とんでもない禁忌(タブー)。誰に視られてもそのことがバレないよう、魔術的なステータスフィルターを張ってはいるが、正直いつバレるかと思うと、気が気ではない。

 パッと見ではわからない程小さいとはいえ、角もある。

 普段は帽子で隠しているが……


(一体いつまでこんな生活を続ければいいのか……)


 気を紛らわすように抱き締めると、ティアは『ふふっ』と、くすぐったそうな声を漏らした。


「ミラージュ、気にしなくていいよ?私だって、お菓子食べないと生きていけないもん。それと一緒でしょ?」


「全然違うと思う……」


 『冷血種』は、平たく言うとサキュバスの亜種で、『人から熱と魔力を得るのに適した』性能を保持する。端麗な容姿、しなやかな身体、耳触りのいい声。そして――



 ――生まれてくるのは、ほとんどが女だ。



 だから、僕は捨てられた。



 男の『冷血種』なんて、いくら見た目が美しかったところで生きづらいにも程がある。定期的に熱を補給しないといけないから長時間仕事を続けることもできないし、サキュバス程性的な方面に優れた特色があるわけでもない。そもそもそんな男誰が養ってくれるっていうんだ?


 性的な奉仕をしなくてもただ人にくっついているだけで魔力と生命力を得られる。考えようによってはこれは種の進化と呼べるのかもしれない。しかし、サキュバスのように戦闘に適した魔術を使えるわけでもなく、温厚な気質である『冷血種』は、蓋を開ければ『自堕落なサキュバス』だった。


 おかげで、ついたあだ名は『ヒモ魔族』。


 僕たち『冷血種』は、『冷血種』であることを隠してサキュバスとして生きていくのが常だった。ますます男は生きづらい。


 だから、寒さですぐに絶命するように。寒い寒い北の森に捨てられたのだ。


 たまたま散歩に来ていた女王様とティアに見つけて貰わなかったら、僕は死んでいただろう。それ以来、僕はこうしてティアから熱と魔力をもらって生きている。


「……ミラージュ?まだ終わらないの?あったかチャージ」


「うん。もうちょっと」


 脇の下から手を入れてぎゅぅっとすると、ティアの資料を読む手は止まる。


「……ティア様?ベッド、行きましょう?」


「もう……そういう時だけ敬語になるの、やめてくれない?」


「仕事中に思い出して、照れちゃうから?」


「……ばか」


(けど、いつまでもこうしてティアに頼り切るわけにも……)


 だって、僕は魔族でティアは人間だから。


 寿命が違うんだ――

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