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やりたい放題もここに極まれり、といったところだろう

「それではあらためまして……」


 イスズが軽く間を取る。


「まず、ひと言で生まれ変わりと言っても、私の知る限りでは4種類あるんです。詳しくは追って話すとして、そのことは抑えておいてください」

「ああ」

「さて、おふたりに質問なのですが、魂というモノについてはどのようにお考えで?」

「魂、とな?」

「ええ。魂です」

「ふむ……」


 投げかけられた問いかけ。ミヅキと顔を見合わせ、考える。


「死ぬと身体から出ていく、あたりか?」

「あとは……心と同じようなもの、とか?」


 そうして出てくるのは、コーニスでもアネイカでもごく普通に言われているような、ありきたりなもの。なにせ俺自身、深く考えたことも無かったのだから。


「ええ」


 けれど、イスズは満足そうに頷く。


「魂というのは、一般的に言われているような存在なんです。記憶や感情、心を司るのは脳――頭の一部なんですけど、魂にもそれらは宿っているということです」

「ほう」

「へぇ」


 興味深い話だ。頭を殴られて記憶を失う、ということはまれにあるらしく、だからこそ頭が記憶に関係しているらしい。と言うのが、この世界の常識。


 だが、イスズやミヅキ、あの御仁を考えるに、それだけではないということにも納得は出来る。


「さて、先ほどティークも言っていたように、生物が死を迎えると魂は身体を離れ、川を流れていきます」

「川っていうのは……もしかしてサンズの川?」

「サンズ……?それもニホン語か?」

「そうですね。異世界での考え方です。この世とあの世の境目にあるのが、そんな名前の川、くらいに思っていただけたら」

「なるほど……」


 と、いうことは……


「実際には、そのサンズの川というやつは存在しないのではないか?」

「はい。正解です」

「ふぇ?なんでさ?」


 ミヅキは不思議そうに首を傾げるが、その答えは先の会話にあった。


「川を流れてとイスズは言ったが、それならばこの世とあの世を分かつ川が別に在るというのも妙な話になるだろう?」

「あ、そっか……」

「ちなみにですけど、身体を離れた魂は一度眠りにつくんです。そして、あの世に着いた時点で目を覚ます。意識を取り戻すと言った方が適切かもしれませんがね」


 うん?


 俺なりに整理をするうち、引っかかる点が見つかった。


「イスズよ」

「なんでしょう?」

「あの世というのは、ひとつだけなのか?」

「どういうことさ?」


 またもミヅキは首を傾げる。


「世界というやつは、少なくともふたつはあるのだろう?」

「えっと……この世界と、あたしやミキオやケイコちゃんやイスズ伯母さんの故郷のこと?」

「ああ。ならば、この世界から行き着くあの世と、ニホンから行き着くあの世は別物なのか?と思ってな」

「あ、そっか……」

「いい質問ですね」


 そんな問いも予想はしていたのか、またもイスズは満足げに頷く。


「結論から言ってしまうと、この世――世界は無数にあるようですが、あの世はひとつだけなんです。魂は川を流れてあの世に向かう、と言いましたよね?数多の世界から流れてくる川はその全てが合流し」

「行き着く先――海に相当するのが、あの世というわけか」

「ええ」

「そうして行き着いたあの世ですが、そこでさらに行き先がふたつに分かれます」


 あの世での分岐……思いつくところは……


「天国と地獄?」

「正解です」


 俺が考える内、先にミヅキが出した答えは正しかったらしい。


 天国と地獄というのは、この世界でもよく言われていること。


「生前の行いが良ければ天国に。悪ければ地獄に。このあたりも、おおむねは言われている通りです。ちなみに、天国行きの条件はさほど厳しくはないようです。鏡追いとして結構な数の人間を手にかけて来た私でも、天国行きでしたから」

「それは結構なことだ」


 ケイトが地獄に落ちる羽目になるとは思いたくなかったところ。


「ちなみにですけど、天国も地獄も、この世のあらゆる世界も、時の流れはすべて同じようです」

「ありゃ?そうなの?あたしとミキオの生まれ変わった時期が離れすぎてるから、てっきりこの世界とニホンでは時の流れが違うとかだと思ってたんだけど……」

「たしか、“てんぷれ”とか言っていたな」

「だね。あとは、あっちの……というか、ケイコちゃんの故郷とこの世界の1年ってどっちも同じ365日だけど、そこらへんも関係あったりするのかな?」

「たしかにそんな“てんぷれ”はありますけど、ヤツハタさんとミヅキさんと私が生まれ変わった時期の件に関しては、別の理由がありますよ。まあ、そのあたりはこの後に話す機会がありますので。ただ……」


 そこでイスズは考えるように言葉を切る。


「ただ、どうした?」

「1年が365日である理由に関しては、完全な横道になってしまいますね。興味はおありですか?」


 予想通りと言うべきか、イスズの中ではどういった順で話すのか、すでに計画が出来上がっていたらしい。より分かりやすくするにはどうした方がいいのか、イスズなりに考えた結果ということだろう。


 それはそれとして、


「そりゃあ……」

「気にはなるところだが」


 1年というのは、言うなれば季節がひと巡りするのにかかる時間。そんなところまでもが完全に一致するというのは、はたして偶然なのか。興味を引かれるところではある。


「ではおおまかなところだけを……。世界は無数にある。先ほど私はそう言ったわけですが、その中でも生物が存在している世界というのは極々わずか。そして、そんなわずかな世界の中でも、文明と呼べるものが存在するのはさらにひと握り。全部で7つだけなんです」

「その中のひとつがこの世界。ニホンがある世界も同じくそのひとつ、ということだな?」

「ええ。そして、それら7つの世界全てにおいて、文明が存在する地域では365日という周期で季節が巡っているそうです」

「そうなの!?」

「ふむ……。さすがにそこまで行くと偶然とは思い難いが」

「ならば必然ということになりますね。繰り返しになりますが、文明――暦という概念を持てるほどに――生物が発展するのは恐ろしく難しいようでして……環境ひとつが合わないだけでも、不可能になってしまうとのことなんです。“チキュウ”型の“ワクセイ”でもなければまず無理だろう、と。こう言えばミヅキさんにはわかりやすいかと思いますが」

「ああ……。そういうことか」


 “チキュウ”やら“ワクセイ”やらは俺にはなにがなにやらだが、イスズの言うように、ミヅキには理解出来たらしい。


 とはいえ……


 まるでわからぬというわけでもない。環境というやつが生活に影響するというのは、俺も何度も見て来たこと。


 年中吹雪いているような環境ではまともに生きることすら困難であり、常に汗が流れ続けるほどに暑い環境とて生きるには難しい。


 街が発展するには、環境がある程度の範囲に治まっている必要があるということ。大都市と呼ばれるような場所というのは、気候が――それなり程度には――穏やかという点ではどこも共通している。方向性としては、そのあたりとさして変わらないのだろう。


「ティークはどうです?あまりわかりやすく説明出来た自信は無いですけど」


 どの口が言うのやら……


 どうせイスズのことだ。少しでも伝わりやすくなるようにと、思考を巡らせたのだろう。


「一応の納得は出来た」

「それはよかったです。そんなわけでしてね、この世界とイスズ・セイコが生きて来た世界は、どちらも1年が365日。それに合わせて、あの世も365日を1年としているわけです。さて、話を戻しましょう。あの世で私が向かった先は天国だったわけですが、天国とはなんぞや?と、そう思いますよね?」

「ああ」

「思う思う」


 それに合わせて俺も思考を戻す。


「では質問です。おふたりが思う天国とは、どのようなものでしょうか?」


 そうして向けられた問いは、中々に難解だった。魂というモノについては同じように先ほど聞かれたが、それ以上に漠然としすぎている。


「いいところ?」

「過ごしやすいところ、くらいしか思いつかぬな」


 そんなわけでというべきか、俺とミヅキの答えも大雑把にすぎるものだった。


「まあ、間違ってはいませんけどね」


 それを受けてイスズが見せるのは苦笑。


「天国では、魂の浄化を行うんです」

「……魂の浄化、とな?」

「生きていれば、いろいろとあるわけですが、当然ながら良いことばかりではありませんよね?そういった――疲労のようなものが魂に積み重なっていくんです。けれど、そんな状態では生まれ変わりは上手く行かないようでしてね。それで、長い時間をかけて疲れを抜いていく。それが、魂の浄化と呼ばれているわけです」

「なんとなく理解出来るような気はするが……」

「まあ、そういうものだと思っていただければ十分かと」

「そうかい」

「それで、具体的にはどんなところなのさ?そういうことをするならさ、居心地が悪いとは思えないけど」

「悪いどころか、やりすぎなんじゃないかと思えるくらいに居心地のいい環境だったと思いますよ」

「まあ、魂とやらの疲れを癒すのであれば、苦痛にまみれた場所ではあるまいが」

「ええ。まず、個々に専用の場所が与えられるんです。無限の広さがあり、自分以外に誰も居ない土地、みたいなものでしょうか」

「へぇ」


 出だしからしてすでにとんでもない話だ。


「そして、その場所では飢えや疲労、眠気なんかは感じないので、40年間飲まず食わずの不眠不休、なんてことも可能でしたね。ですが、食事や睡眠を楽しむことは出来るみたいです」

「……ふむ」


 これまた、恐ろしいことをサラっと言っている。


「あとは、欲しいモノは望めばなんだって出てくるらしいです。一応の制限はありますが、物であろうと人であろうと、いくらでも可能らしいですよ」


 うん?


 まるで他人事のような口ぶりだが……


「いやいやいやいや!」


 けれど、そんな疑問をかき消したのはミヅキの悲鳴に近い声。たしかに、おとなしく聞き続けるのは限界というのもわからぬではない。デタラメにもほどがあるというもの。


「望めば、というわけですし、望むこと――想像すら付かないようなモノを出すことは出来ないようですけど……。まあ、その点を差し引いても、そういう反応になりますよね」


 それすらもイスズには想定内だったらしく、軽く肩をすくめて見せるのみ。


「ご理解はいただけたようですが、念のためです。ひとつ例をあげてみましょうか。例えとはいえ、ミヅキさんにはあまり気分のいい話ではないかもしれませんが、そこは目をつぶっていただけたら」


 ミヅキに目を向けてそう前置く。


「今この瞬間に、ミヅキさんが死を迎えて天国に行ったとしますね」

「あ、うん」

「そこでは……3歳のケイコさんを膝の上に乗せつつ、15歳のティークと21歳のティークを侍らせながら、22歳のケイティア・コルネットに肩もみをさせつつ、43歳のイスズ・セイコに酌をさせながら、12歳のミヅキ・エイコさんにツマミを用意させつつ、6歳のエイナス・コルネットさんに羽根団扇で扇いでもらいながら、36歳のあの御仁と24歳のヤツハタさん相手に、ひと瓶が数千万ジット相当のお酒を酌み交わす、なんてことも出来てしまうわけです。それこそ、やろうと思えば何度でも」

「……わかってはいたけどさ、そうやって例に出されると、本気で魂消(たまげ)るよ」

「たしかにな」


 時の流れを完全に無視して、同じ人間を複数出すことすら可能。やりたい放題もここに極まれり、といったところだろう。


「だが、一応の制限があるとも言っていたな」

「ええ。その魂がこの世を去る瞬間までに、この世のどこかしらかに存在したことがあるモノ。というのが条件です」


 そのあたりも、今の例えの中で匂わせてはいたな。


「なるほど……。ならば、20歳のケイコお嬢ちゃんや、30歳のケイトを出すことは不可能ということか?」


 前者は現時点で存在したことがなく、後者が存在する可能性はとうの昔に失われているのだから。


「ええ」


 答えは肯定。


「あの世にしか存在しないモノはどうなんだ?」


 この世のどこかしらかに存在したことが。その言葉が意味するところは。


「それも出せませんね。もっとも、あの世に関することの“でーたべーす”……書物のようなものは自由に閲覧できましたけど。こうして話している内容にしても、そこから得た知識は結構ありますし」

「なるほどな」


 この世とあの世をつなぐ川に関する情報などは、ソレが出どころということか。


「まあそんな環境で過ごすことで魂の浄化を行うわけです。個人差はかなりあるようですが、短ければ10年ほど。長い人なら120年くらいだそうです。そうして浄化が終わった後で、すべての記憶を失い、()(さら)な魂となって、どこかの世界に生まれ変わるわけですね」


 記憶を失う、か。生まれ変わりには4種類あるとのことだが、ケイトやミヅキ、あの御仁はこの例には該当しないということか。むろん、今ここに居るイスズも。


「ちなみに、私が遺言を託されたのは、そんな生まれ変わりを間近に控えたヤツハタさんからでした」

「あ、そうだったんだ」


 そういえば、そんな話もあったか。


「時期的には、私があの世に到着して天国生きの列に並んでいた時ですね。生まれ変わりの準備が終わるのを待っていたヤツハタさんが私に気付いて、そこで少しだけ話すことが出来たんです」

「だから、ミキオはあんな言葉を残したわけか……」

「ええ。私が記憶を残したままでの生まれ変わりを目論んでいると話したら苦笑して……もしも、ソレが成功した上でエイコと会うことがあったなら、伝えてほしい、とね」

「んで、イスズ伯母さんはソレを成功させちゃったわけだ」

「とまあ、生まれ変わりのひとつ目。天国行きからの例はこんなところですね。次にふたつ目ですが……この流れだと予想は付きますよね?」

「ああ」


 あの世には天国と地獄があるらしい。だとすれば次に来るのは……


「では、生まれ変わりのふたつ目。地獄経由の話をしましょうか」

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