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その最初がこれというのもいかがなものだろうか

「エイコよ、礼を言う。お前さんのおかげで助かった。これで、今日の晩飯は気兼ねなく楽しむことが出来るというもの。心からの感謝を」

「いや、そこまでかしこまられても……」


 内頬の傷を治してくれたことに対して礼を言い頭を下げる。俺としては、当然のことと思うのだが、エイコの方はそうでもなかったのか、戸惑(とまど)いを見せた。


「あたしにしてみたら、大したことじゃないんだし……」


 このお人好しめ……


 そんなことを思う。感謝をする側とされる側で認識の差があるというのもよくある話だが。


 ま、いいけどよ……


 とはいえ、大したことをやった覚えもないのにやたらと感謝される、なんて経験は俺にも山ほどにある。ならば、ほどほどにしておくべきだろうかな。


「わかった。なら、これくらいにしておこう」

「うん。そうしてもらえると助かるかな」


 エイコに対して借りひとつ、とは頭の片隅に留めておくが。


「それと、一応言っておくが……“魔法”を使えるということ、他人に明かすならよく考えてからにした方がいい」

「……“魔法”を使える人間は、今のところはあたしだけだから、だよね?」

「話が速くて助かる。お前さんが望むこと、自分の名を上げるには有用かもしれぬが、やり方を誤れば痛い目に会うことだろうからな」

「うん。差し当たっては、どうしてもって状況になるまでは隠すつもりだし、使うにしてもなるべくバレないように使うつもり。……っていうかさ、ケイコちゃんにも同じことが言えるんじゃない?」


 たしかに、蛇共を意のままに動かせるというのは、やろうと思えばいくらでも悪用出来る。


 ケイコお嬢ちゃんにその意図がなくとも、利用しようなどと考える阿呆が湧き出てこないとは言い切れぬところ、ではあるのだが、


「そのあたりは蛇共の方がよくわかっているだろう」

「なるほど。けど、一応あたしの方から伝えておくね」

「ああ」




「……いつの間にやらこんな時間か」

「ホントだ……。随分話し込んじゃったね」


 お嬢ちゃんとエイコのやり取りがひと段落するころ、何とは無しに窓を見やれば、向こうに見える空は茜の色に染まっていた。


「そういえば、お腹空いたかも……」


 そう言ってエイコは自分の腹を撫でる。確かに、この村に来た経緯を考えたなら、昼飯は道中で済ませたと考えるのが妥当。中身は――硬パンに塩漬け肉といった味気ない物だったのだろう。


「ならば、期待するといい。ここの女将が作る飯は美味いぞ」

「ここの女将さん……。やけにでっぷり……じゃない、貫禄のある人だったっけ?」


 ものは言いよう、というやつだ。まあ、指摘はするまい。


「ああ」


 それに、この村に宿はこの一軒だけ。エイコもここに泊まる以外の選択肢はあるまい。


「名はリーシャ。見た目通りというべきなのか、気のいい女だよ。お嬢ちゃんのことも可愛がっているし、お嬢ちゃんも懐いて……」

「……どうしたのさ?」


 俺の言葉が途切れたのは、気になることが湧いて出たから。


「エイコよ。俺が宿に戻って来た時、お前さんは食堂でお嬢ちゃんとニホン語で話していたわけだが、女将に説明はしたのか?」

「……あ」


 問いかけに対する答えは、「忘れてた……」と言わんばかりの反応。つまるところは、そういうことらしい。


「ケイコちゃんの方に気を取られてたから……」

「まあ、それはしかたあるまいさ」


 ヤーゲの件を伝え忘れていたとのと同じ。それを責めようとは思わない。だが、


「女将は(さっ)して口を(はさ)まなかったのだろうが、さすがに説明は必要になるだろう。さりとて、馬鹿正直に話すわけにもいくまいて」


 ケイコお嬢ちゃんだけであれば、言葉が通じないからで押し通すことも出来たことだろうが、ニホン語とアネイカ言語の両方を話せるエイコが現れたことでそうも行かなくなった。


 異世界から来たという事実を話したところで、謎言語を話すというだけでは説得力を欠く。


 蛇共に関するあれこれを見せれば話も変わってくるかもしれぬが、それはそれで避けたいところ。お嬢ちゃん関連ならば女将個人は信頼出来ると俺は思う。だがそれでも、お嬢ちゃんの周りに厄介ごとを招く呼び水になりかねない。


「あ、でもさ……あの女将さんはケイコちゃんのこと可愛がってるんでしょ?だったらさ、素直に話した上で口止めしとけばよくない?」

「女将だけならそれでもよさそうなものだが、誰にも彼にも事実を話すのか?異世界人、なんてことが知れたら、ロクでもないことを考える阿呆が寄って来るかもしれぬぞ?」

「……たしかに」


 異世界人というのは、恐ろしく希少な存在だ。まして、ケイコお嬢ちゃんは器量よしと来ており、蛇共に関するあれやこれやという技能まで持っている。


 性根の腐った権力者に知られたら、ロクなことにはならないだろう。


「だから、ケイコお嬢ちゃんの出自をでっち上げる必要があるんだ。俺としては……コーニスでもアネイカでもない大陸か、どこかの隠れ里的なところを考えていたのだが……」

「問題なのは、あたしがケイコちゃんと同じニホン語を話せるってところなんだよねぇ。……この際だからぶっちゃけるけどさ、あたしって……その、なんていうか……」

「いわゆるところの名家の生まれで今は家出娘、なのだろう?」

「って、なんで知ってるのよ!?」

「……古い知り合いにそんな奴がいたのでな。お前さんからは、そいつと同じ匂いがしたのさ」

「……やっぱこの人頭おかしいわ」

「失礼な奴め」


 言いにくそうだったので先回りをしてやれば、返ってきたのはそんな物言い。


 ま、いいけどよ……


 それよりも問題なのは――


「つまるところ、お前さんと同郷だとでっち上げるのは難しい、ということか」

「……ごめん」

「いや、そこはお前さんが謝ることではあるまいさ」


 とはいえ、話が面倒になったのも事実だが。


「なら、未知の大陸説は使えない。となれば、お前さんがニホン語を学び得た可能性……隠れ里で世話になっていた時期があって、その際に覚えた、といったところだが……」

「……ごめん。それも多分無理」

「……お前さんの足取りが途絶えたであろう時期が無い、ということか?」

「……うん」


 隠れ里で過ごした、ということにするためには、世間ではエイコが行方不明だった時期が存在するのが条件。


 隠れ里説を通すには、そこが引っかかってしまうらしい。


「さて、どうしたものかな……」


 そうなってくると妙案(みょうあん)というやつが浮かんでこない。厄介ごとが起きるたびに嘘の上塗(うわぬ)り、というのは面倒なことこの上ない。だから、早い時点で作り話をしっかりと固めておきたいところではあるのだが。


「とりあえずさ、ケイコちゃんにも聞いてみるね」

「……それもそうだな。頼む」


 なんだかんだ言ったところで、ケイコお嬢ちゃんは当事者だ。話を通しておく必要はあるだろう。


 それに、異世界で生まれ育ってきたというお嬢ちゃんならば、俺とは違う発想を持っているやもしれぬ。




「……そっか!その手があったか!」


 そうしてあれやこれやと考えていると、お嬢ちゃんと話していたエイコが急に声を上げた。


「いい手が見つかったか?」


 口調からして、何かに驚いたような風だが。


「うん!ケイコちゃんの案なんだけどね、ホントのことを言えばよかったんだよ」

「……それだとマズいことになりそうだからこうして悩んでいたのではなかったか?」

「わかってないなぁ、ダンナは。嘘を嘘と見抜かせないコツはね、嘘の中に少しの真実を混ぜることなんだよ?」

「……お嬢ちゃんの案だと言ったお前さんが得意げにしている部分には言及しないでおいてやろうか。とはいえ……」


 嘘の中に少しの真実を、というやり口の有効性は俺も知っていた。昔、アイツに仕込まれたことのひとつだ。


「その考え方は否定しない。それで、具体的にはどんな真実を混ぜる?」

「あたしが転生者……前世の記憶を持っている、って真実を」

「……なるほど」


 つまるところ、エイコはどこぞの隠れ里の中で生まれ育ち、死を迎えた。ケイコお嬢ちゃんも同じ隠れ里の生まれ。ということにするわけか。


 それならば、エイコがアネイカ言語とニホン語の両方を話せることは説明できる。異世界人、よりはよほど現実的な話にもなる。


「自慢じゃないけどさ、あたしって小さいは変わり者扱いされてたのよ」

「それはそうだろうな」


 今でも十分に……いや、十二分に変わり者なのだから。


「その言い訳としてはアリだよね?前世の記憶があるから、ってのは」

「だろうな。ならば、その線で行くとしようか。細かいところも詰めていくぞ」




「っと、こんなところか?」


 方針が決まってしまえばあとは早かった。それなり程度には筋が通っているであろう作り話が出来上がるのは、腹の虫が晩飯時を伝えてくる頃。


「そだね……。にしても、疲れたぁ……。というかお腹空いた……」

「エイコ、だイジョウぶフィト」


 話がまとまり気が緩んだのか、ベッドに倒れこむエイコにお嬢ちゃんが心配げな目を向ける。


 まあ、一番大変だったのがエイコだというのは間違いも無いだろう。俺の言ったことをニホン語に言いかえてお嬢ちゃんに伝え、お嬢ちゃんの言ったことはアネイカ言語に言いかえて俺に伝える。そんな骨が折れそうな作業をずっと続けていたのだから。


「そろそろ飯時だ。美味い飯がお前さんを待っているぞ」

「はーい。そういえば、お酒も美味しいんだっけ?そう聞いてるけど」

「ああ。実に旨いぞ。酒と食い物だけに関して言うなら、永住してもいいとすら思うくらいには」


 もっとも、俺が今更旅暮らしを辞めることが出来るとも思えはしないが。


「そっかぁ。楽しみ」

「とはいえ、今は状況が状況だ。ほろ酔いの5歩手前くらいで我慢してもらうがな」

「ま、そうだろうけどさ」




 3人で連れ立って食堂に入ると、空きっ腹を刺激するいい匂いが漂ってくる。しかも、匂いからすると主役はニンジンらしい。俺としては嬉しい限りだ。


 女将の姿は見当たらなかったが、厨房だろうと(のぞ)き込んでみる。そこにあったのは、かまどに乗せられたいくつもの鍋と、その間を忙しなく行き来する女将の姿。


「あんたたちかい。夕食はもう少し待っとくれよ。すぐに用意するからさ」


 俺たちに気付き、それだけを言うと、すぐに作業に戻っていく。


「……クゥレ、エイコ。イクス オゥグ」

「ミスティフィト」

「クゥレ――」




「はぁ……」


 そうしてお嬢ちゃんとエイコがニホン語を交わし、エイコが吐き出したのは深々としたため息だった。


「……どうしたんだ?」


 エイコから深刻そうな雰囲気は感じ取れなかったが、何かあったのは事実だろう。


「……うん。ちょっと、ね」


 苦笑混じりにお嬢ちゃんの頭に手を乗せ、


「ホント、いい子すぎるよね」


 優しく撫でる。


「すぐにわかるからさ」


 それだけを言うと、お嬢ちゃんを連れて女将の方に歩いていく。


「クゥレ、リーシャ」

「おや、お腹が空いたのかい?」

「ケイコ」


 そしてエイコがお嬢ちゃんの耳元で何やらをささやき、


「いソガシイノに、おテツダイでキナクテゴメんナサイ」


 お嬢ちゃんがそう口にして頭を下げた。


「…………」


 向けられた女将はすぐには反応出来なかったらしい。


 なるほど。これは俺には無理なことだな。


 たどたどしいことこの上なく、恐ろしく聞き取りづらくはある。それでも、お嬢ちゃんはアネイカ言語――女将にも理解出来る言葉でこう言った。


『忙しいのに、お手伝いできなくてごめんなさい』と


 エイコが居なければ相当に時間のかかることではあっただろうし、大きな進歩と言ってもいいだろう。


 とはいえ……


 その内容は閉口ものだ。せっかく今までよりも格段に効率のいい意思疎通ができるようになったというのに、その最初がこれというのもいかがなものだろうか。


 多分だが、エイコが苦笑していたのも俺と同じ理由なのだろう。


「……まったく、そんなことは気にしなくてもいいのにねぇ」


 やはりというかなんというか、ようやく理解が追いついたらしい女将の反応も、俺やエイコが思ったことと似たり寄ったり。


 とりあえず、女将に助け舟を出してやるとしようか。


「女将よ。とりあえず、早々に飯の支度を終わらせてしまうとしよう。やれることがあるのなら、お嬢ちゃんにも手伝わせればいい」

「ダンナ?だけどねぇ……」

「お嬢ちゃんの気性を考えたら、引き下がらせるよりもその方が手っ取り早い」

「それは……そうかもしれないけど……」

「言いたいことを伝えるのなら、エイコ……その女に頼めばいい。雑用ならば俺でも出来る。どの道、お前さんの損にはなるまい。ほれ、さっさと始めるぞ。こちらも腹が減っているのでな」

「あ、ああ。そうだね。それじゃあ……」




「ありがとうね。ケイコちゃん」

「……どウイタシまシテ」

「それから、そっちのお嬢ちゃん……ええと……」

「あたしはエイコ。あたしもしばらくここのお世話になるから、よろしくね」

「ああ、そうだね。ありがとうね、エイコちゃんも。それにダンナも」

「たまにはこういうのも悪くなかったよ」

「なに、気にしなさんな」


 頭数が増えたこともあり、飯の支度はすぐに片付く。この際だから、ということでテーブルに運ぶのも俺たちで引き受け、それが終わるころ、食堂の入り口が開いた。


「おーい、女将。晩飯を頼むぜ」


 そう言ってやって来たのはハルクで、その後ろにはコーナスにアルバ、ネブラの姿もある。


「あいよ!適当に座って待ってなよ」

「いや、悪いんだが、ミッシュとダイト……番をしてる奴らの分を先に用意してもらえるか?持っていくからよ」

「あいよ」


 ハルクの言葉に対して、コーナスたちからは不満を見て取れない。あの6人、間柄は良好らしい。まったくもって結構なことだ。


 俺も、一応顔は出しておくか。外が騒ぎになった様子は無かったが、ミッシュとダイトのところに招かれざる客が来ていたのかどうか。来ていたのなら、始末の首尾はどんなものだったのか、聞いておいた方がよさそうだ。


「ハルクよ」


 だから声をかける。


「ん?ああ、ダンナもこれから晩飯か」

「そうなのだが、ミッシュたちのところに行くのなら俺も付き合わせてくれ。どんな塩梅だったのか、聞いておきたくてな。皿のひとつふたつくらいは持てるだろうし、便利に使ってくれて構わぬぞ」

「……そういうところも相変わらずだよな、ダンナは。もちろん構わねぇよ」

「そうかい。なら、そうさせてもらう。……というわけだ、俺は少しばかり出かけてくる。お嬢ちゃんとエイコは先に食っててくれ」

「そう言われてもねぇ……。ま、いいや。いってらっさい」

「ああ」


 なにやら引っかかる口ぶりではあったが、お嬢ちゃんのことはエイコに任せておけば問題はあるまいな。




 そうこうするうちに、ミッシュたちの晩飯が出来て来たので、男5人で連れ立って村のはずれに向かう。


「そういえばダンナ。ついさっきな、早速来やがったらしいぜ」

「……そうか。昼間でも来る時は来やがるからな。それで、数は?」

「ウサギモドキが3。2匹はミッシュが、1匹はダイトが仕留めた……というか、ダイトに仕留めさせたんじゃないかと思うが。ちなみに、そいつらは全部小屋に運んでおいたぜ」

「ほう……」


 それはつまるところ、ミッシュが上手いことやったということなのだろう。


「……ミッシュもコーナスも、まだひよっこかと思っていたが……」


 誰も彼も成長する、ということなのだろうかな。


「ダンナ……。俺もミッシュもあれから何年もやって来てるんですし、もう一人前なんですって」

「そうかもしれぬな。とはいえ、自信が付き始めてくる時期というのは油断も生まれるらしい。心しておくことを勧めるぞ」

「……へーい」

「はは、コーナスもダンナにかかれば形無しだな」


 そんな馬鹿話を交わしているうちに村のはずれに付けば、そこにいたのは涼しい顔であくびをかみ殺しているミッシュと、緊張が抜けきらない様子のダイトといった、対照的な雰囲気のふたり。


「おーい!ミッシュにダイト。晩飯持ってきてやったぜ」

「おっ、待ってました」

「あ、ありがとうございます……って、ティークさんも!?」

「ああ。お前さんたちのことが気になったのでな。同行させてもらった。その様子だと、大丈夫らしいな?」

「はい。ミッシュさんが援護してくれたんで……」


 皿を受け取ったはいいが手を付けようとはせずに力無くつぶやくダイトの表情は暗い。


 どうやら、ミッシュに負担をかけたことを気にしているらしい。迷惑をかけるのが駆け出しの仕事、とまでは言わぬが、ハルクにせよミッシュにせよコーナスにせよ、そこまで承知で行動を共にしているのだろうが。


「ダンナからも何とか言ってもらえません?さっきからずっとこの調子で……」


 ミッシュはミッシュで、そんなダイトに頭を悩ませていたらしい。


「コーナスが言うには、お前さんもすでに一人前とのことだが。そういったことも一人前の役どころだと俺は思うのだがな」

「ぐっ……それを言われると……」


 ま、いいけどよ……


『後進の育成って大事だと思うんですよ。疎かにするくらいならまだしも……自分の地位を脅かされるのが怖いからって足を引っ張る権力者って最低ですよね?クズですよね?ゴミですよね?生きてる価値無いですよね?さっさと死んだ方がいいと思いません?そう思いますよね?』


 頭をよぎったのは、生前にアイツがボヤいていたこと。あの時は軽く恐怖も抱いたものだが、言い分自体が間違っていたとは俺も思っていない。


 これもなにかの縁というやつか。少しだけ、助力らしきものをするとしようか。


「ダイトよ。お前さん、実戦は初めてだったのか?」

「はい……」

「それで、思うように上手くやれなかったことを気に病んでいるわけだ。しかもそのせいで、ミッシュに面倒をかけてしまったと来たものだ。訓練ではもっと上手く動けたのに、といったところか?」

「……はい」


 なるほど。初めての実戦を経た後としては、実によくあることだ。


 無駄に長くやっている身として、顔を上げるためのきっかけくらいは示すとしようか。


「ダイトよ。お前さんは――」

「ダンナ、ちょっと待ってくれないか」


 言いかけたところで肩をつかんで止めに来たのはハルク。


「ここは俺に任せてくれないか?俺だって、こういうのは初めてじゃないんだ」

「……ふむ」


 そう言ってくるハルクの表情を見る。そこからは、見栄のようなものは感じ取れなかった。少なくとも、一行の(おさ)という自分の立場を脅かされたくないがために俺の邪魔をしようとか、そんな雰囲気は皆無。


 やれやれ……。俺もヤキが回ったものだ。


 歳を取ると説教がましくなる、というやつなのだろうかな。


 とはいえ、それは口には出すまい。言い訳の出来損ないにしかなりそうもないのだから。


「そうか。済まなかったな、出過ぎた真似だったらしい」


 だから、素直に引き下がることにする。


「いや、ダンナに悪気が無かったことはわかってるさ」

「そう言ってもらえるとありがたい」


 ともあれ、首尾に関してはすでに聞いていた。ならば、これ以上この場に残る理由もないだろう。


「さて、俺は先に戻らせてもらうが、その前に……」


 余計なお世話と思われるかもしれんが、念を入れておくのは悪いことではあるまいだろうから。


「特に厄介なのは日が暮れた今からだ。ヤバいと思ったらすぐに鐘を鳴らしてくれ。そうしたら、俺もすぐに駆け付ける。やりすぎも問題ではあるだろうが、連中を村の中に入れて怪我人死人が出るよりははるかにマシというものだからな」

「おう!」

「「「「「はいっ!」」」」」


 ハルクたちが素直に受け入れてくれたのは幸いだった。そして、俺は再び宿に足を向けた。

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