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i be RERIVE  作者: 高崎ナル
5/6

ゆっくり、じっくり。

i be re live 5


ーー気持ち悪い。


正常にあった意識をベリベリと無理やり

剥がされた感覚。


思い返した瞬間、

嘔吐感が激しく体内を駆け回る。


「おぇぇぇ!!」


口に手を突っ込み、思いっきりえずく。

井の中が空っぽになるまで吐いて、吐いて、

吐いたら少しはマシになった。


「だ、大丈夫なの?」


目の前には、白の少女。


ーーソフィア・ミオ、だったか。


ーーついさっき、俺の下手な嘘に騙されてくれた彼女がなんで、目の前に…まさか。


「あぁ、大丈夫。ノープロだ。いきなりで、悪いんだけど、一つ質問。」


頭の中で立てた予測の答え合わせを一文の問いに纏めた。


「俺、また倒れてた?」


「うん、?とっても酷くうなされてもいたかな。」


当然の事を聞かれて彼女の返答が少し不思議味を帯びていたが、聞きたい事は聞けた。


零は異世界始めの一歩目でつまずくどころか。

気まで失ったのだ。


ーーそれで、だ。


「俺、めっちゃダサくねぇ?」


その悲しい呟きは洞窟に虚しく響いた。


--------------------------------------------------------------------


零は思う。


先程、分かりやすい嘘を信じて貰って、

気持ちよく送り出して貰った挙句。

出口の一歩目で倒れ、

再び助けられて目の前で嘔吐して今に至る。



「どんな不幸が襲ってきても、強がれるくらいには状況を無理やり整えるんだが、これはもう、度を超えたな。完全に。」


「さっきから何を呟いてるの?」


「俺のささやかな、自己反省かな。」


洞窟の出口の道案内を彼女が買って出た事で、

これ以上醜態を晒したく無い零は

渋々、受け入れ、


洞窟を抜けるために二人で歩いている。


ただ、この距離間は一緒に。とは言い難い。


「それになんでこんなに距離が開いてるの?」


5メートルほど、前を歩くミオが振り返り、

笑顔を含みながらバックで進みながら言う。


「この距離が、俺が君に迷惑を掛けないギリな距離だからだな。」


「迷惑って、何の迷惑?」


格好つけようと、

腕を組んで目をつぶって歩いていたが、

足元の岩に強く脛をぶつけてしまう。痛い。


「こう言う、事だよ…」


思わず脛を抱える零の元に、

彼女が駆け寄ってきた。


「なっ…?!近づいちゃダメって言っただろ」


そんな零の忠告を他所に、

ポゥッと、彼女は手に青白い光を灯すと、

ダメージを受けた足に光を当てた。


「すげぇ、」


思わず口から言葉がこぼれた。


「ふふ、凄いでしょ。」


ジンジン、と痛んでいた足は光に当てられた

瞬間、痛みがスッと消えて無くなる。


「これ、魔法か?」


自慢げに微笑む彼女にそう聞く。


「簡単なものよ。私だと簡単な傷を治す事くらいしか出来ないけど、その手の達人となると

治せない傷は無いって聞くわ。」


「だとしたら…」


腰に手を置いて、何故か自慢げな彼女を他所に

零のテンションは上がっていた。


ーーやっぱり、ここは異世界で魔法ありき。


「俺も魔法が使えるはずっ!!」


手の平を向かいの壁に向ける。

が、何も起こらない。


一瞬、変な空気の間が生まれ、その空気を

裂くように軽やかな笑い声が聞こえてくる。


「ふふふ、君、何したの、ちょっと。今の、

何してるのよ…」


対面に向けた手の平を引っ込める。

恥ずかしさで、顔が赤くなる。


「いいだろ。別に、魔法使った事ねぇんだ。」


そっぽを向いて言うと、


「そうなの?じゃあ、あとで教えてあげるから。ほら、機嫌直して行くよ。」


「お、おう。」


先に一歩、二歩と前に出て5メートル程の距離が

稼げた所で零も進む。


「そう言えば、私。君の名前聞いてないかも。」


無言状態が結構長いこと続いていたので

痺れを切らしたのか、彼女が喋り出す。


「あぁ、そう言えばだったな…悪い、道案内までしてもらって名乗らないなんて恩知らずもいい所だよな。」


「それじゃ、失礼してっと。」


すうっと息を飲み込み、腹から声を押し出す。


「俺の名前は、星宮 零!弱冠18にして、世界の運という運の全てに嫌われているただの一般人!!そこんとこ、よろしく!」


零のハリのある声に振り返った彼女はしばらく

固まり、口を開く。


「それって、一般人じゃないんじゃ…」


「何も出来ないから一般人なの。人より何か優れてる所があるとすれば人よりありえないくらい不幸だぜ。俺は、」


「確かに、この洞窟には精霊さん達がたくさん

いるけど、ありえないくらい、零の周りだけいないのよね。」


首を傾げながら、彼女は言う。


「おお、いきなりの名前呼び。」


そのいきなりの名前呼びに少し心が躍る。


しかし、別に気にとめていなかったが、

洞窟を歩いていた時も、

自分の周りはやけに薄暗かった。

精霊が居ないと暗くなるのか。


ーー陰キャラ道まっしぐらじゃねぇか。


ーー俺、精霊にも嫌われてんのかよ。これも不幸のせいか…?


そんな思考を巡らせていると、

彼女が一つ咳払いをした。


「自己紹介が遅れてごめんね。零、私…」


視線と意識を向けると、かしこまって礼をしていた。


「ソフィア・ミオさん。だろ?確かユシル教の"聡明"だったっけ。」


彼女の自己紹介を断ち切って答える。


二度も自己紹介をしてくれるほどいい子なのか

そんなに覚えが悪そうに見えたのか。


「なん、で。名前知ってるの?」


彼女は神妙な顔で問いかける。


「あぁ、だって前に一回。自己紹介してくれたじゃないか…?」


ーーおかしい。


胸の中で何かが引っかかる。

零が彼女の名前を知っていて、何がおかしい。


「私、君に、零に自己紹介するの初めてよ?」


嘘などついていない。と表情が告げていた。


「なっ…」


何故、と頭によぎる。

が、それを何とか抑え込む。


ーー今はなんとか誤魔化してっ…


「あ、あぁ〜そうだったな。ごめんごめん!!俺の勘違いだった。まじソーリー!」


「そーりー?」


彼女が、不思議そうに聞いてくる。


「ごめんなさいとか、すいませんとかその辺の意味!」


「そうなのね、そーりー。うん、覚えておく」


頭の中で何度か反芻するようにして手を握って

彼女はそういった。


ーー異世界の言語翻訳能力は日本語が限界か。


「ソーリーは世界で通じる謝罪の言葉だから

覚えといて損はないぜ…」


なんとか、気は逸らせたようだ。

それに頷き、前を向いて歩き出した彼女に

ほっと、胸を撫で下ろす。


ーーどう言う、事だ?


ーー確かに俺は名前を教えて貰った。


ーーだが、目の前にいる彼女はそれを知らない


嘘の線もないという前提で考えると…


「何が、起きたんだよ…」


全く、分からない。


ーー死んでから色々おかしいぞ。俺、


「とりあえず、あの先に進めば何か変わるはずだ。」


最後に意識の途切れたあの出口を思い浮かべ、

5メートル前に進む少女の後ろ姿を見つめた。


--------------------------------------------------------------------


しばらく、他愛も無い話をして歩いていると

あの、洞窟の出口へと辿り着いた。


「んー。やっぱり外は、気分がいいわね。」


外を見るや否や、駆け出して伸びをする。

地面いっぱいに張り巡らされた緑と彼女の白が

お互いを殺す事なく、生かし、生かされる。


「おいおい、俺の緊張を返せよ…」


先程の刈り取られた意識と、嘔吐感を思い出す

が、目の前の光景に塗り潰されたが、

それでも、少し怖いので

目をつぶりながら、一歩を踏み出した。


「何も、無い?」


意識が刈り取られる感覚も、嘔吐感も無い。

ゆっくりと目を開き、確認する。


地面は緑。手は肌色。大丈夫だ。


「零?何してるの?早く。」


前方から声がする。彼女は花を愛でながら

こちらを手招きしている。


「この花、綺麗だと思わない?」


彼女が手に取ったのは白い小さな花を沢山付けた蔦のような植物。


「星みたいで綺麗って思うかな。」


茎や、葉の部分が夜空で、白い花が星。

そう見えたのでその通りに言葉にする。


「わかる?良いわよね!この花。みんな、嫌いって言うんだけど、この小さい花がなんと言うか…」


ズイッ、と迫ってくる。


近い。


「かわいいの!!」


至近距離でパッと咲いたような彼女の笑顔に、顔面の温度が急上昇する。


恥ずかしさが後から込み上げてきて、顔を逸らす。


その勢いのまま、一歩後ろに下がり頭を下げる


「ここまでで、大丈夫だ。ありがとう、後は町にでもいって適当にやるよ。」


手に摘み取ったアイビーを持ち、うん。と頷く

ちらっと背後に目配せをし、

その後、少し心配そうな顔をして、


「本当に、大丈夫?」


と、聞いてきた。


異世界転生したばかりの零には、その厚意に頼りたい所でもあるが…


「大丈夫!ノープロ!ミオちゃんこそ、気をつけてな〜。」


背を向け、町に歩き出す。


「何か、あったらユシル教を頼ってね〜!」


その声に手を振り、答えた。


--------------------------------------------------------------------


「さて、っと。」


少女、ソフィア・ミオは

気合の入らない声を気合いに立ち上がった。


「出てきなさい。」


声が一気に尖る。突き刺すようなその声は、

先程出てきた洞窟の入口へと向いていた。


「い〜やぁ。これは、これは、誠に素晴らしい。私の気配に気づくとは…」


外と比べて薄暗い洞窟の奥から、

何者かが出てきた。

声の低さからして、男だろう。


「悪趣味な格好してるわね。」


黒のローブに全身を包み、面を付けている。

そのせいで、顔は見えない。しかし、

異様に、全身に張り巡らされるように

付いている蔦。


こんな悪趣味な格好をするのは、

奴ら以外にいない。


これだけ条件が揃っていれば解る。


「レイア教ッ…」


感情が一気に沸き立つ。


「あ〜ら。ご存知で。これは、これは、光栄極まり無い。」


ミオの激情に全く動じず、

男は、飄々と言葉を並べる。


「災厄の神、パンドラの手先にして世界に厄災をばら撒く悪党。世界の、私たちの敵。」


目を閉じ、あの日を思い出す。


「そして、何よりお師匠様の仇。」


目を開ける。

瞬間、ミオの体から魔力が溢れ出る。


その魔力は無数の弓矢の形で安定し、

幾百、幾千にも届きそうな水の矢が

ミオの背後に出現する。


「ほ〜ぉ。祝福もまともに使いこなせてない貴方がこれだけの量の水矢を作って見せるとは…

これは、これは、なんとも素晴らしい。」


男は目の前の光景に感銘を受けたかのように、

両手を広げ、声高々に叫ぶ。


「目的は、何?」


嫌悪の表情そのままに、問答をぶつける。


「魔女の迷子、とだけ言っておきましょう。」


粘つくような笑みを浮かべ、答える。


「さぁ〜きほどの少年が、魔女の迷子ですね?いやぁ、これは、これは。あれほど魔女に愛された少年は珍しい。是非、我が教団で我が愛しの主の為に命尽きるまで尽くして貰いたいところです」


空を仰ぎ、何かに打ち震えるように述べる。


「彼が、魔女に愛されてる?彼は魔法すら使えない。祝福も宿ってるようには見えなかったわ。」


「いいえ?彼はここ何十年、いや。ここ何百年に一度の逸材でしょう。あの全身に満ち足りた

魔女の愛は私ですら測りきれない。これは、これは。とても素晴らしい事です。」


ーー確かに、零の体を覆い尽くすあの瘴気は異常ね。あれじゃまるで、変狂前よ。


顎に手を当てて、零の体の状態を思い出す。


その様子を見て、男はこう続けた。


「だ〜が、貴方は私の神命を阻止するおつもりですね?これは、これは。誠に罪深い。」


舐るような視線をミオに向け、言う。


「あな〜たの様な綺麗な女性を焼かねばならないとは。これは、これは、残念です。」


その発言を聞き流すかのように、

無視し、弓を引くような体制を取る。

それに呼応するように、

背後の水矢が一気に引っ張られる。


「ユシル教、"聡明"担当。ソフィア・ミオ。」


静かな声と、憎悪に燃える瞳で言い放つ。


「メロウ。」


それと同時に右手を話すと、解放された水矢は

一斉に男に襲いかかる。


「お〜や?これは、これは、大変マズ…」


男は、言葉半ばで水矢の猛襲を受ける。

千を超える矢が一切の隙も無く降り注ぐ。

一撃一撃ごとに、敵を射抜き、抉って

洞窟の壁を抉り、地面を抉る。

粉塵が上がり、視界が悪くなる。


「やったの…?」


粉塵のせいで見えないが、男が動く気配は無い

防御も間に合わなかったように見えた。


が…


「かったですねぇ…」


水矢に貫かれて、絶命は勿論、肉片と成り果てているはずの男の声が粉塵の奥から

不気味に響いた。

同時に男から熱風が発せられる。

男を襲っていた水矢は消失。

それに呆気に取られていると、

攻撃が飛んでくる。


「っつ…!!」


視界の悪さが影響し、反応が僅かに遅れ、

頬を掠める。


ジュゥ、と嫌な音と共に頬が焼ける。


「なっ…」


即座に頬に手を当てる。

攻撃が飛んできた方向に目を向けると、

男は悠々とこちらへと歩いてくる。


「レイア教"憎炎"の使徒。イグシャス:レーテ」


男はそう言い終わると、右手を振るう。

先程まで、緑と花が咲き乱れた丘を一瞬で、

焼け野原にして見せた。


「我が主に頂いた慈愛に報いる為、命を賭して

神命を全うします。」


両手を合わせ、天に祈りながら口にする。


「さ〜ぁ、行きますよ?」


魔力が、爆発的に発生し、男の背後には、

水矢の3倍をゆうに超えた量の火の鳥が

羽ばたいていた。


--------------------------------------------------------------------


「町には、着いたっと。」


体感時間で、約20分だろうか。

真っ直ぐ目指して、着いた村。


入口に村名が記してあったと思うが、

文字まで翻訳してくれてるほど、

親切では無かったらしい。


「時代は、お約束の技術と科学の発展が乏しいひと昔前。けどこの世界には魔法がある、か」


町の景観を見て、

この世界にあらかたの予想を付ける。


「本当に、デカすぎるだろ…この木。」


町まで歩いた事で、

目前にそびえ立つ大樹の大きさは

さらに増し、視界いっぱいに広がっていた。


「大樹の城下町ってさすが異世界。カッコいいな。」


しかし、ある異変が零に心配を擦りつけてくる


「人と、合わねぇ。と言うか、居ない?」


道の大通りを歩くが何故か、人が居ない。

道に連ねる家も、窓が完全にしまっており、

中が伺えない。


ギィ、と音がして目の前の家の窓が開き、

煙が上がる。


「でも人が居ないわけじゃあ無さそうだな。」


零が上を見上げると、

顔を出した人物と目が合う。

バン。と音がして足元に落ちて来た

葉巻はまだ、モクモクと

煙を放っている。


「何かに見つからないように、隠れてる。」


自分の中で答えを出した瞬間、やけに町が

不気味に思えてきた。


ーーなんで今日に限ってなんだよ…


「このまま、大通り通ってもらちが明かねぇな。」


零は右側にある薄暗い小路地へと足を向けた。


--------------------------------------------------------------------


「第一村人発見、と。」


小路地を奥に奥に進み、発見した。

ゴミ箱の上に足を組み座る、

見た目、自分と同じくらいの青年だ。

服装は小汚く、服はあちこち破けているが

服の上からでも分かる、鍛えられた体は

どれだけの時間と労力を費やしたのか。


ーーここは定番行っとくか!


「よぉ、兄弟。」


青年に近づくと、瞳を細めて睨まれる。

それに怯みかけるが、あえて手を挙げて言った


数秒沈黙が襲い、冷や汗を吹く。


ーー異世界ではお約束じゃねぇのかよ!!


そう心でツッコミを入れた瞬間、


「よぉ、兄弟!」


ニカッと、八重歯を出して笑い、ゴミ箱から立つと、挙げた手に手を合わせてきた。


パチンと軽い音が鳴る。


「ん?どうした。兄弟。」


「いや、兄弟を名乗った代償として何請求されるんだろっていう心配が抜けた反動だ。」


肩から全身の力が抜け、目の前の青年にはなんともやる気の無いように写っているだろう。


「別に俺も敵意の無い奴にどうこうしようだなんて、そんな薄情もんじゃねぇよ。」


「けどまぁ、コイツらに手を出したら殺すけどな。」


先程の青年が座っていたゴミ箱の裏から、

3人まだ幼い子供が顔を出す。


まだ零の半分ほどしかないの身長と、幼い付き。6、7歳程度だろうか。


1人は、丸坊主で前歯が欠けた男の子。


2人は女の子で、

赤髪の子は威嚇するような視線を向け、

茶髪の子は怯えた表情を浮かべている。


まだ警戒してているのか、

ゴミ箱から前に出ようとしない。


「ゴメンな。兄弟、俺たち捨て子の中でも、コイツら警戒心は強えんだわ。人前なんか絶対に出ねぇよ。」


子供達に暫く視線を向けていると、兄弟が頭を掻きながら言った。


零は周囲に視線を回し、見つけた。


「言ったな、兄弟。そこの丁度いい大きさのビン、使っていいか?」


ゴミ箱の上に置いてある透明なビンを指差し、

言う。


「あぁ、良いけど…何するつもりだ?」


「マジックだ。」


零は、したり顔でそう言うと

透明なビンをひろい、

ポケットから10円2枚を取り出した。


--------------------------------------------------------------------


諸々の小細工を終え、零は少年少女たちの

前に立った。


「さぁさぁ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい。ここで止まらぬは一生の損。止まって見らば、必ず損はぁ〜させません。」


継続してゴミ箱から顔を覗かせる3人の子供に

いつか見た大道芸人のセリフを述べた。


3人の子供たちは、目を合わせゴミ箱から

手を離す。


「さぁ、ここにありますのは透明なビン。それと一枚のコインであります。」


コッコッコッと、手の甲でビンを叩く。

3人は顔を見合わせ、

それに興味を引かれるように零の前に3人一緒に零の前に集まってきた。


「さぁ、今からお見せするのは瞬間移動。このコインをこの密閉されたビンに移して見せましょう。」


右手に10円を持ち、左手に何も入ってない

透明なビンを持ち、それらを合わせて振った。


「さぁ、3秒後にはこのビン中にこのコインが!さん、にー、いちっ!」


カランと心地よい音がして、零は手を止める。

中には10円が。


「ほら、この通り。瞬間移動大成功!!。」


ビンを持った左手を

目を輝かせてみる3人に向けて、

右手に握られた10円を後ろのポケットへ。


「にいちゃんすげぇ!!」


「ど、どうやってやったの?」


「……すごい。」


前歯が欠けた坊主の少年に、赤髪と茶髪の少女2人は目を輝かせて零に集まってくる。


坊主の子に10円が入ったビンを渡すと、

どこかに入れ口が無いかを3人で探し出した。


「穴なんて…どこにもない。」


「本当ね!すごいわ。」


「にいちゃん、どうやったんだ??」


暫く好きにさせておくと、

答え合わせを直接聞いてきた。

正直にタネを明かすのが正当な回答だろう。

だが、


「魔法さ。俺は瞬間移動魔法が使えるのだ!」


胸を張ってこのかわいい3人組に

堂々と嘘を吹き込む。


「か、かっけぇぇえ」


坊主の少年が、両手を握り、

鼻息を鳴らしながら目を輝かせる。


「俺も、練習すれば出来るかな??」


その眩しさに罪悪感が増しながらも、

うんうん。と頷く。


「この技を身につける為にはたゆまぬ努力と、気が遠くなるほど練習しなければならないのだ!!」


目のキラキラが止まらない少年に、零は堂々と

嘘を吹き込む。


「へぇ〜。上手くやれるもんだな、兄弟。」


耳元でいきなり囁かれ、10円を隠したポケットに手を突っ込まれ、取られた。


「なんだ、このコイン。どこの国のだ?見た事ねぇ。」


とっさの事だったので反応出来なかった。

瞬間移動のタネがあっさり露呈してしまう。


「兄弟…マジックはタネと仕掛けが分からないから面白いんだぜ?」


零は、顔だけ斜め後ろを向いて言う。

子供達の方に視線を向けると、頭上に?が浮かんでいた。ギリ、タネはバレなかったようだ。


「カッカッカッ。そりゃぁ悪い悪い。まぁ、ウチの子供達がここまで懐いたのは兄弟が始めてだ。」


特徴のある笑い声を上げ、手を出す。


「俺の名前はレオルグ。レオって呼んでくれ。ここで会ったのも何かの縁だ、仲良くしようぜ兄弟。」


ニカッと煌めきが見えそうなほど晴れ晴れしい

笑顔をこちらへ向けてくる。


「俺の名前は、星宮 零。レイって呼んでくれ。

こちらこそ、よろしくな。」


レオの笑顔に少々圧倒されながらも、軽く笑みを浮かべて差し出された手を取った。


--------------------------------------------------------------------


レイは路地裏の青年。レオに

この世界の事を聞いた。


大方、レイの予想通り。

魔法、戦争ありき、技術と科学はまだまだ

発展途上。


貧富の差はそれなりにあり、

レオ達のような捨て子というのはそんなに

珍しくも無いらしい。


ファンタジー世界よろしく、完全な異世界だ。


しかし、新しい情報も手に入った。


なんと驚く事に、

この世界には神が実在しているとの事だ。


もっとも、300年前の

神同士の戦争で正式に神と呼べる存在は2人しか残ってないらしい。


その2人の神が、戦争後に立ち上げた宗教。


一つは、

頭上にそびえ立つ大樹の創造神。

木を司る神、ユシルが最高司祭のユシル教。


民の平和を守る事を主として動き、

襲う脅威の排除。

いわば、この世界の

警察としての役割に当たっているらしい。


民の信仰も厚く、この世界のほとんどの人達は

ユシル教を信仰していると聞く。


先程の彼女。ミオもユシル教を名乗っていた。


もう一つは、

災厄の神、パンドラが主のレイア教。

突然現れ、神の使徒を名乗り、神命を全うする

という理由に世界に災害を撒き散らす。

いわば、この世界の敵という事だ。


相容れない両者は、300年の時を経て尚。

争いを続けているらしい。


ーーユシルとは、ユグドラシルの事だと思うし、パンドラってそのままじゃねぇか。


ーー神はどんな世界でも共通ってか??


今は腑に落ちないが、そう認識せざるを得ない世界編成に頭を悩まされながら、

話し合いはまだ続いていた。



「ホシミヤ、レイって聞かねぇ名前だな。どこの出身なんだ?」


ゴミ箱という椅子に、路地裏という会議室で

話し合う2人の話し合いがだいぶ煮詰まってきた頃、レオが質問をしてくる。


「東の島国、かな。」


日本をかなり噛み砕いた言い方で伝える。

前に見たアニメで、そう伝えると良かったはずだ。


ーーいや、でも俺が使う事になるとはな…


「ん?どうした?」


やけに遅い返答に考えを切り替え、レイに意識と視線を向ける。


「レイ、お前東の島国出身って言ったのか?」


驚きを隠せないといった表情のレオが聞く。


「あぁ、そうだけど。どうしたんだよ?」


肯定の意を言葉にすると、レオが文字通り

息を呑み、こう言った。


「じゃぁ、レイア教が追って来ているって言う魔女の迷子ってレイの事か?」


その言葉に聞き覚えがあり、

言葉が詰まりかけたが最小限の間で誤魔化す。


「魔女の迷子って、何だよ。そんな物騒な奴の

迷子になった覚えはねぇよ。今日は軽く観光に来ただけだ。このクソデケェ木、見る為にな。」


ーー魔女の迷子。彼女、ソフィア・ミオも確か

同じ事を口にしてたな。


「そっか、それなら良いんだけどよ…」


どこか思う所はあるが、

なんとか納得してくれたらしい。


「町に人が居なかったのはそのせいか?」


「あぁ、数日前からレイア教が周辺で目撃されて今現在、この町の全住民は外出禁止令が出てるな。こんな時に外にいるのは捨て子俺たちみたいなゴロツキか、異常者くらいだ。」


ほぼ、無人だった町の様子にもこれで辻褄が

合う。窓から投げ捨てられた葉巻も、異常者かゴロツキかと思われたのだろう。


「そしてつい昨日かな。レイア教の"憎炎"を名乗る男から目的と要求があった。その内容はこう。」


人差し指を一歩立てて、述べる。


「「私の神命はただ一つ。かの東の島国からこの地に下る"魔女の迷子"を保護する事。他は何も望まない。だが…これは、これは、残念な事に貴方達が私の神命を全うする事を妨害するのであれば、容赦はしない。尊い犠牲が少なくなる事を祈っている。」」


やけにリアルな演技に人が変わったかのように

見えた。


「ぶ、物騒な話だな。その、"憎炎"って奴イかれてやがるんじゃねぇのか。」


ーー東の島国出身、ソフィア・ミオに言われた魔女の迷子。これってまさか俺じゃねぇのか…?


ーー俺の運の悪さは折り紙何枚折っても足りねぇ。って事は俺の可能性は高い、か。


考えを悟られないように、口では違う事を言う


「相当、イかれてやがるな。まぁ、それはあいつに始まった事じゃねぇ。レイア教の全員が話なんか通じねぇって話だぜ?」


ため息を吐きながらレオは呆れたように言う。


「まぁ、俺は強いからな。そうそうやられやしないし、あのチビ達も守ってやらなきゃなんねぇ。」


レオは、視線の先で先程のビンとにらめっこをする3人を見て拳を強く握る。


その姿に、零の心が僅かに痛む。


ーーこれ以上、迷惑はかけらんねぇな。


一緒にいると自分の不幸の被害を被らせかね無い。


「うん、聞きたい事は聞けたな。それじゃ、そろそろ行くわ。」


座っていたゴミ箱から席を外す。


「なんだよ。もう、いいのかよ?兄弟。なんならメシでも食ってくか?」


急に席を外し出したレイを引き止めるように

気を使ってくれる。


「いや、遠慮しとく。話聞けて助かったぜ!兄弟!」


レイが拳を突き出すと、レオは苦笑いしてぶつけてくる。


「おうよ、兄弟。困った事があれば俺を頼れ。

言っとくが俺はかなり強えぞ?」


ニヤリと笑い、拳を離す。

その言葉に何も言わずに拳を引く。


「にいちゃん。もーいっちゃうの?」


「さっきの、もう…一回…見たいな。」


「お兄さん夜まで居たらいいのに。」


服を引っ張られるような感触があり、

振り返る。するとさっきの3人組がこちらを見上げていた。


「また、今度来てやるから。次来るときはもっとすげぇの用意しておくからな。」


と、3人の頭を撫でて路地へと歩いて行く。


「兄弟!!」


奥に差しかかろうとした所で声がかかり、

思わず振り返る。


「頑張れよ!」


僅かな間隔の後に激励の言葉を頂く。

頑張れよで誤魔化した言葉は何だったのか、

わからなかったが、


「おうよ!」


手を挙げて答えた。


--------------------------------------------------------------------


ドゴォォォン…


強烈な破裂音と爆破音。それらの音が只事では

無いのを音の大きさと、同時に伝わる振動が

物語っている。


それは、レオと別れた直後から続いていた。


「はぁ、はぁ…何が、起こってる?」


零は走っていた。

向かう先はあの洞窟の丘。


レオとの対話で得られた情報を

確信的な物にする為、踵を返して

ソフィア・ミオの居る丘へと

戻ろうとしたところ、

爆発が起き、急いでいる。という状況だ。


洞窟と丘を覆い尽くすように、

立ち籠める黒い煙。

煙がいつまでたっても晴れないのは途切れる事なく発生する爆発のせいだろう。


視認できる情報でも、戦闘が起こっているのが、分かる。


「ミオちゃん、大丈夫なのかよ…」


闘っているであろう、彼女の身を案じる。

その意思に足が少し早く動かされる。


「あの爆発、敵ってまさかレイア教の憎炎って奴か…?」


ーークソ、なんだってんだよ。


街を抜け、街道に出る。


視界は黒い煙で悪くなっているが、

あと5分も直進すれば目的の場所に付くだろう。

継続的に続く爆発は、止む気配は無い。


ーー例え、関係を持った時間が少なくても一度、顔見知った奴を俺の不幸で殺したくねぇ。


そう思った瞬間、

目の前でピカッ、と一際大きな光が走った。

瞬間、襲う爆風で体が吹き飛ばされる。


「うぉぁぁ!!」


体は爆風に浮かされてコントロールを失い、

ただ後方に吹き飛ばされる。


まるで投げすれられた人形のように、地面を

転がって、転がって、転がって、転がって、


止まった。


「う…痛ぇ…」


うつ伏せのような体制で止まり、

呻き声のように掠れた声が出た。

次に、額を何かが伝う感覚が有る。


地面にぱたぱたと落ちたそれは赤色の液体。


「血…」


右目に入り、目がしみる。


それを手で拭おうと思い、右腕を動かす。

だが、いつまで経っても拭い切れる

気配が無い。


左目を開けてその原因を確認して…


「う、うぉぁぁぁあ!」


自分の右手を見てそう叫んだ。

一本としてまともな指は残っていない。

各々、あり得ない方向に

ひん曲がり、ひしゃげでいる。


「ひ、左手。」


と、左手を動かそうとするが感覚が全くない。

ひしゃげた右手で、感覚のない左腕を触ると、

肘から先が、


「無い。」


そう認識した瞬間、一気に激しい痛みが襲う。

視界が赤に染まる。


痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い

痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い


"ぁぁ、"


痛みに支配される脳内の中にはっきりと、

嘆息が一つ、聞こえた。


途端、何かが思考を掴んだ。

体を襲っていた痛みがぱたりと消える。


「なんだ?」


"ダメ"


たった一言、その言葉を合図に

ベリベリ。と嫌な音と共に、痛みと思考を体から無造作に引き剥がされる感覚が襲う。


大きいカサブタをゆっくり剥ぎ取られるような

感覚に零の精神は悲鳴をあげる。


「ぁぁぁぁぁいぁあぁ!!!」


声にならない声が、口から溢れる。


ゆっくりと、ゆっくりと、じわじわと。


剥がされた意識が、繋がろうと糸を引く。

それが、張られて張られて、千切れる。


まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、


無限にも思える1秒が続いて続いて。


ブチッ…と最後の一本が千切れた音がして。


零の意識は剥ぎ取られた。

三度目のループです!

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