白の少女
「はい?」
自分でも思うほど、バカみたいな声が出た。
加えてアホみたいな顔をしていたに違いない。
「もう、いい加減にしなさい!!」
彼女の指先から一際大きい水が発生し、
それが水鉄砲のように発射。
しかし、その威力はその何百倍も強かった。
「ふげっ?!」
額に当たった水は想像以上の力で、胡座の状態の零を後ろに倒した。
その倒れたところに丁度、尖った石がピンポイントであり、それに頭をめり込ませて悶絶する
「おおぉ!!痛え。なんでここに丁度よく尖った石がぁぁ。」
のたうち回る零。
それを見た白の少女はふふっと笑いだした。
「ふふ。起きたと思ったら騒がしい人。」
その声に聞き覚えがあり、
一瞬で痛みを忘れ白の少女を見る。
その容姿に数秒、固まってしまう。
一言で表すなら、白。
絹糸のような髪を腰辺りまで伸ばし、
それを一纏めに結び。
肌も降り積もったばかりの白雪のように純白で
全く血の気が無いように見える。
しかしその印象を横からぶん殴って見せるのが
双眸に宿す緋色の目。
白銀の世界で消えまいと命を燃やす火のように
儚くも、美しく思えた。
この子が美人、それもドが付くほどのなのは
間違いない。
たが、問題は別にある。
「あの、そんなに見つめられると…」
もじもじして恥じらう白の少女。
ーーかわいい。
それをよそに、核心に至ろうと質問をする。
「君の、名前は…?」
やけに神妙な顔でそう言うと、白の少女は
一つ咳払いをしてこう述べた。
「私の名はソフィア・ミオ。ユシル教から"聡明"
の名を冠された、ただの一信徒よ。」
他人の空似だった。
全く、神様も趣味が悪い。
目も口も鼻も全てが似ている。その上、声すらもとなると。流石に疑わざるを得ない。
自分に無駄な徒労をかけた代償として一つ
ため息が溢れる。
「それで、人違いだって事はわかった?」
ちょんとその場に座り込み、
目線が大体同じくらいの高さになる。
「あぁ、ごめんな。俺の勘違いだ。」
と、まずは謝っておく。
「それと、起こしてくれてありがとよ。んじゃあな。」
胡座をとき、立ち上がる。
悠莉に似たこの子に引かれる所はあるが、
まだ死んでもなお、不幸が続く自分の近くに居ては危ないと判断し、この場を去る事に決めた
「ちょっと!君、どこに行くの?」
背を向けて歩き始めた零に彼女は声を掛ける。
「あー、あっち側にある町に知り合いが居てだな…そいつを頼ろうと思う。」
その声に足を止めて振り返り、
進行方向を指差して適当な言い訳を述べる。
「本当に?」
「ほ、本当だって。あっちに、名前は忘れたけど、町があるだろ?そこだよ。」
ーーさすがに、胡散臭すぎたか…?ここは、いっちょ最低な所見せて思いっきり引かれるか。
人差し指を顎にあて、考え込むような体制をとった彼女に、零は密かに覚悟を決める。
「そう、なんだ。じゃあ君は魔女の迷子じゃ無いのね…」
"魔女の迷子"
と言う言葉がやけに気にかかったが、
折角、騙されてくれている。
ここはあまり、
無知な所を見せない方が良いだろう。
「そんなんじゃねぇよ。まぁ、助けてくれて本当にありがとよ。」
そんなんじゃねぇよ。
の当たりが強すぎたと思い、まぁ、の後に
再度感謝を述べる。
それにうん、と嬉しそうに頷き。
彼女は手を合わせて祈った。
「貴方に幸福の祝福が有りますように…」
その姿と、路地裏の光景がダブって見えた。
「ははっ。本当に祝福してくれるといいな。」
今度こそ、と振り返らずに
目の前の道へと進んだ。
「風の音が大きくなってきたって事は出口は
近いかな…」
道なりに進む事、数十分。
最初は耳を立てて聞いていた風の音はだいぶ
大きくなっている。
「この壁、どうなってんだ…?」
壁は薄緑の光を放っており、太陽が刺さなくても十分な明るさを保っている。
壁に触れながらどんな原理で光っているのか、
など、分かるわけもない事を考えながら歩く。
ふと、頭に過るのは悠莉に似た白の少女。
「悪いことしたけど。まぁ、しょうがないよな。」
と、なんの意図もなく、
目の前の石を蹴ろうと足を振り下ろすが、
石が地面から顔を出しただけの岩で硬く、
逆にダメージを食らってしまう。
「死んでも、不幸体質は治らず。か。」
じんじんと痛む足を進める事数分。
うっすらと光が見えてきた。
「よっしゃ、外だ!」
光に吸い寄せられるように洞窟を小走りし、
入口に立って、驚愕した。
洞窟は小高い山の上にあるようだった。
その麓には町が見える。
先程の少女はこの町だろうと、
勘違いしてくれたのだろう。
「で、デケェなこの木。」
それらの印象を視界に堂々とそびえ立つ
大樹が圧倒して吹き飛ばす。
麓の町のその先にあるはずなのに、視界いっぱいに広がるその樹木はどれ程の大きさなのか。
それに胸を微かに踊らせて零は呟いた。
「異世界、か。もしかしたら、人生やり直せるかも知れねぇな…」
ーーまずは、麓の町に行って手頃な仕事を探そう。
「言葉は、通じるみたいだしな…」
そんな、事を考えながら零は一歩を踏み出した
「俺の、人生再スタートの一歩目!神様、今度こそは誰にも迷惑かけずに幸せに生きてやる」
「見とけよ。」
ーーこの世界で、やり直して…
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無造作に刈り取られ、意識が途切れた。
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パシャっ。音がした。
その直後、訪れる爽快感に
手を引かれるようにして、目覚める。
「どゆこと?」
次の瞬間、襲うのは嫌悪感と、吐き気。
零はそれを解消しようと、全力でえずく。
ーー何が。
先程、希望に満ちた一歩目を踏み出した筈、
落ち着いて辺りを見回すと、薄暗く光る洞窟。
そして、
「だ、大丈夫?」
覗き込むように心配する白の少女が居た。
「わけ、わかんねぇ。」
星宮 零の記念すべき、第1ループが幕を開けた。
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やっと、本題にはいります!!